余命と彼女

ラキッチ

第1話 余命1年

「あなたの病気は現状治すことができません。あと1年生きられるかどうかです。」

そう医者に言われた。僕は中学3年で必死に勉強をして名門校に受かることができた。その矢先に倒れてしまった。心臓の病気だ。正直それを聞いても全く実感がなく、妙に冷静な自分がいた。中学の頃、友達もいないし、将来の夢もない、生き甲斐もなかった。勉強しかすることがなく、名門校に行くと決めたのも大義名分が欲しかっただけだ。

 「最後の1年、あなたのやりたい事をしなさい。」

僕の母はそう言った。

 「わかった。とりあえず1年だけ学校に行きたい。

 普通の人と同じように。」

僕が表情一つ変えず言うと

 「わかったわ。学校の手続きをしとくし、事情も説明しとく。」

「事情は説明しなくていい。学校には内緒でお願い。」

そう言うと母は不思議そうな顔をした。少し気まずい感じになったときインターホンの音が聞こえる。

 「はい。新聞は取ってませんので」

 とインターホン越しに応える

 「わざとでしょ。文夜。話があるの。」

 そう言っているのは幼なじみの隣の家に住む柚鈴だ。   

幼い頃から一緒で俺とは違い勉強も運動もできる。容姿も優れていてクラスの人気者である。小学校の時はよく遊んでいたが、ここのところ疎遠となっていた。

 「はいはい、なに?」

「だから開けてよ。なんなのインターホン越しの相談って

  バカにしてるの?」

「はいはい。開けるよ」

あまり気が進まないが玄関の扉を開けに行く

 「柚鈴ちゃん?久しぶりねぇ〜、仲良くね。」

 と母がニヤニヤした顔で言う

 「うっせー」

扉を開けて柚鈴を案内して2階の自室に連れて行く

 「これ食べて、文夜が好きなバームクーヘンだから。」

と、手に持っていた袋を渡した。

 「おう。ありがとう。お茶とか入れてくるからテキトーに

 座っといて。」 

 と言う前に俺のベッドに座っていた

 (礼儀ってものがあるだろ)

 と思ったがしょうがない。一応幼なじみだ

 お茶を入れてもらったバームクーヘンを持ってくると、

 柚鈴は俺の部屋をいろいろ物色していた。

 「おい。なにしてんだ。」

呆れたような口調で言うと

 「あ!この写真まだ持ってたんだー。懐かしいなぁー。」

「俺の話聞いてたか?」

「聞いてたよー。あ、こんな写真もあるんだー。結構残ってるね、もしかして私の事好き?」

「バカかお前は。ンな訳ないだろ」

そう応えるが中学の2年までは好きだった。しかし、そんな気持ちはもうない。

中学2年の夏、柚鈴が友達と話しているのをたまたま聞いた

「ねぇ〜、柚鈴、好きな人いないの?」

「いないよ〜いる訳ないじゃん。」

「嘘だ〜。文夜君とかじゃないの?幼なじみだし家も隣でし

 ょ。小学校の頃すごい仲良かったし。」

「違うよ。たまたま隣だから仲良くしただけ。好きな訳ないじゃん。考えてみて、私と釣り合うと思う?」

「思わないねー。」

「そうでしょ。だからしょうがなく仲良くしてるの」

(あっそうか、自惚れてた自分がバカだった。)

それ以降俺が人を好きになることは無くなった。何かが吹っ切れたかのように人を信じることがほとんどなくなった。

少しの沈黙があったが俺が柚鈴に聞く

 「相談ってなに?」

「あっそうだ!忘れてた。えーと相談っていうかお願いなんだけど…」

「なんだよ」

 「私の彼氏になって。」

「は??」

 

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