マドカ


時間というものは残酷だな。

あんたもそう思わないか?



あぁ、失礼。

本題から入るのは俺の悪い癖なんだ。



例えばそうだな、、、

花は春に咲くけど秋には枯れる。

朝陽は昇るけど夜になると真っ暗だ。

大きなスケールでいえば地球もいつか寿命が来るだろう?



だからさ、あんたらが好きな「永遠」ってもんはこの世にないんだよ。

「時間」が「永遠」を殺すのさ。

わかりづらいだと?何の話がしたいのかわからないって?



話をするのは昔から得意じゃないんだ。

許してくれ。

あんた話を聞いてくれるかい?

そうだな、、俺の人生から話そう。




*********



物心ついた頃には親はいなかった。

だから父親も母親も俺は知らない。

まぁいわゆる捨て子だよ。


ん?あぁ、同情はいらない。


そんな親ならこちらから願い捨てだ。

会いたいとも思わないさ。



捨て子で誰も教えちゃくれないから

飯は街の残飯を漁って公園で寝泊まり。

やることがない、いや、何をすればいいかわからないんだ。



あんた想像出来るかい?

悲しみや虚しさなんて感情はないんだ。

教わってないし。

ただ、腹が減るのと眠くなるのは本能で知っていた。

それだけで暫く生きてきた。



そうして惰性でただ何となく生きているとある雨の日、一人の女が話しかけてきた。



ふふふ、これは俺の自慢だな。

この女は俺に一目惚れしたらしい。

変な女が居るもんだ。

まぁそれなりにルックスは良い方だからな。



おいおいあんたちょっと待ってくれよ。

まだまだ続きはあるからさ。



*********



この変わり者の女は毎日旨い飯を食わせてくれた。

俺の役目はこの女が仕事に行ってる間、家で留守番するだけ。

最初は俺も何か手伝おうとしたけど

その女は俺が何か手伝おうとすると怒るんだよ。



だから、俺は何もしないことに決めた。

そうしてるとこの女は機嫌がよくなるんだ。

つくづく変な女だ。

飯食ってたまに二人で散歩して寝る。

まぁそんな生活が暫く続いたよ。



*******



散歩してたらその女が嬉しそうに話しかけてきた。


「あっ!花が咲いてる! 綺麗!」

『食えないのに花なんて興味ねぇよ』

「ちょっと先に行かないでよ。 はぁーん、綺麗」

『花も雑草も一緒だろ。いつかは枯れるんだよ』

「この花の名前知ってる? 」

『知るかよ』

「あたしと同じ名前なんだよ」

『ふーん』

「反応がつれないなー。 ま、いっか! じゃあ散歩の続きね!」



********



花に名前があるってあんた知ってたかい?

俺は知らなかった。

でもこの女と同じ名前の花は

しつこく見かける度に言うからさすがに覚えたよ。



「あー、枯れちゃったなぁ」

『まぁ花だからな』

「じゃ、次は来年か! 来年またこの花一緒に見ようね!」

『………あぁ。 そうだな。 そんなに好きな花なら。 匂いもいい匂いだな』



********



ある日からいつものように留守番していても

女は帰ってこない。

これで一週間目だ。

とうとう愛想尽かされたかな。。



家から出るなと言われたけど流石に心配だ。

探しに行こう。

全く、せっかく散歩道にあの女の好きな花が咲きだしたのに。



早くしないと枯れちゃうぞー。

腹減ったぞー。

仕方ない町中を探し続けよう。



****


段々痩せてきた。。。

我慢の限界だ。

街の残飯を漁る。

すると店主に「何してやがる!」と石を投げられた。



クソ、昔はうまくやったんだけどな。

俺の腕も衰えちまった。



そして

吐いた。

腐っていたみたいだ。

前は余裕で食えたのに。

不味い。。。



クソ、あの女のせいで一人で飯が食えなくなった。


なぁおい、どこに行ったんだ。



なぁ、そろそろ寂しくなってくるぞ。

お前の声、お前の笑い顔、お前の飯全部好きなのに。

早く帰って来てくれよ。

俺今ガリガリなんだぞ、なぁおい!

『茜!!!』



******



「ほら、今日も茜ちゃんを待ってるのかしら」


「あの白い犬、日に日にやつれていってるわ可哀想に。。。」

「あたし前に餌をあげようとしたのよ。 でもあんまり食べないの。」


「茜ちゃんのご飯以外は食べたくないのかしら。。。。」

「茜ちゃん。。。。 いきなり事故で即死だなんて。」


「……ほら、あたし達に嬉しそうにあの白い犬見せに来たわよね?」

「そうね。 家族が出来たって喜んでたわ。 あの子天涯孤独だったから」





「「本当に可哀想にね。。。」」



*******


茜、、、茜、、、あかね、、、あか、ね、、、

俺は待ってるからいつまでも待ってるから。

雨の日でも風の日でも。



あ、、、、か、ね、、、、、



俺はずっとここにいるから。


意識が途切れる。

朝が来る。

どうやらまだ生きていられるみたいだ。

けれど歩けなくなってきた。。。

もう何ヵ月もまともな飯を食えてない。



時間は残酷だ。

とても寂しいよ。



明日もお前を待ってるからな。



なぁあんた、

時間は残酷だなと思わないか?

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マドカ @madoka_vo

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