第29話(ダンの葛藤)
突然に襲撃してきた《クロォー・カラパイア》を撃退したイルマ達。
その後イルマ達は、森の奥の他の魔物も《クロォー・カラパイア》同様に技能≪気配察知≫を通り抜けることが出来る魔物がいないとも限らないと考え、イルマ達は森を進んでる際の索敵する時には、技能≪気配察知≫に加え、≪空間認識≫や≪魔力感知≫も行うことで索敵を強化した。
勿論、幾つものの技能を頻繁に使用することは、安全の為とはいえ疲労に繋がることだ。
なので、イルマ達は各索敵系技能の使用を分担し、負担を分散することにした。
技能≪空間認識≫は、パーティーの前を歩くダンが。
技能≪気配察知≫は、パーティーの真ん中にいるイルマが。
技能≪魔力感知≫は、パーティーの後方にいるメラとシーラが担当していた。(ダンとイルマと違い、メラとシーラは魔力が無くなると戦闘に支障が出てくるため2人で担当。)
そうすることで負担を押さえ、イルマ達は森の奥に探索を進めていた。
(しかし…《クロォー・カラパイア》が出るなんて、今の森の異変はどうなっているんだろ?)
先程の新しい森の異変を振り返って考えるイルマ。
幸い、鍛えて習得した新しい技能と仲間の連携やダンが見せたメラとの合体技のお陰で、見事突然のいない筈の魔物からの襲撃というトラブルを乗り越えることが出来たが、森の異変が深刻化していることを考えるとまだまだ安心出来ないとイルマは思った。
(一応先程の奇襲の対策として、索敵方法を複数用意して、尚且つ1人に負担が集中しないように加え、1人の索敵を潜り抜けても大丈夫なようにしたけど……)
それでも不安が残る……とイルマは呟く。
そんなイルマがこれからのことを心配しているその際、メラがダンに話し掛けた。
「ねぇ、ちょっとダン」
「あ?何だメラ?」
メラに話し掛けられたダンは、前方の警戒もあり前を向いたままメラに返事する。
「さっきの戦いの時だけど、あんたよく思いついたわね?闘気刃と魔力付加による闘気と魔法の合体技なんて……」
「……確かに。私もビックリした。"闘魔剣"?まさかあのダンがそんな技を作り出すなんて……どうしたの?」
《あの時本当にビックリしたんだから…》《明日は雨が降る。》
《まさかあのダンが…》《本当本当。》
メラとシーラの2人は、ダンがまさかの闘魔剣という闘気と魔法を合体させるとんでもない新技を作り出したことに驚いたと告げ、あのダンがねぇ~?と信じられない様子を見せる。
……
………
…………確かに僕もそう言われると、普段のダンの様子を見ているとメラとシーラみたいに信じられない気持ちも分かる気がする……
イルマ達は普段のダンの様子を思い浮かべ、余計に信じられない気持ちを高めていた。
「ッなんだよ!俺だってやる時はやるんだよッ!」
そんな仲間の様子にダンは嫌な所を突かれたように機嫌を悪くして
ーフンッ!ー
とそっぽを向くのだった。
機嫌を悪くするダンに、メラとシーラはあれ?痛いとこを突いた?と思いながら、ごめんごめんとダンの機嫌を直そうとする。
ダンもそんな2人に言葉に渋々機嫌を元に戻してはあの時のことを思い浮かべ、2人の質問に答える。
「ハァー……別に~大したことしてねぇよ。単に足場を《クロォー・カラパイア》に壊された時に、残った攻撃方法で倒す手段を考えたんだ。メラの魔法だと距離が有って速さが足りねぇ、シーラの魔法もだ。で、俺は遠距離攻撃が闘気刃:烈だけだし、今度は速さが足りても威力が足りねえってな」
「確かにそうね」 「それで?」
「そんな時、有ることを思いついたんだよ」
「それって……」 「もしかして……それが闘魔剣?」
「そうだ」
メラとシーラの言葉に頷くダン。
「イルマと鍛練している時のことだ。あの時、俺もイルマと同じような必殺技を欲しくてな……ヒントになるかもしれないと思って、イルマに何度か【闘魔技法剣】を見せてもらってたことがあってな……───結局練習しても真似どころか自分の必殺技も出来ないで終わったけどな」
当時のことをダンは思い出しながら話す。だが、ダンは思い出したくないことも思い出したのか少し苦い顔を露にした。
……前から実はダンだが、イルマと自分を比べては思い悩んでいたことがある。
それが、今回の必殺技の話で思い出しては隠そうとするが、話しているとドンドンと気持ちが顔に出てしまう。しかし、何とかその気持ちを抑えて隠し、ダンはメラ達に合体技の話しの続きを行う。
「それであの時、イルマみたいに1人で【闘気と技能と魔法】の組み合わせなんて俺には出来ねぇけど、【闘気と魔法】だけなら?それにメラに協力してもらったらどうだ?……それなら俺にでも出来るんじゃないか?、って思い付いた。で、やってみたら出来ただけだ」
ダンはメラの協力があったから出来ただけで、自分はそんな大したことをしてないと卑下しながら答える。
そんなダンの様子に首を傾げるが、2人は触れずにそのまま話の続きをする。
「出来ただけって…」 「…十分過ぎると思う。」
「でもーーー1人で出来ないから意味ねぇよ!」
──ガン!
メラとシーラの2人は「それでも凄い」とダンに伝えるが、その言葉がきっかけでダンはついに隠していた気持ちを隠しきれずに表に出てしまう。
ダンは顔を伏せては、結局は1人ではイルマみたいな必殺技を使えない自分にダンは悔しそうを露にする。
そんなダンの異変に、このまま探索を続けるのは危険だとイルマは判断し、皆の足を止めては休憩しようと告げる。
そのイルマの指示に、悔しそうに顔を伏せてるダンや、ダンの様子にこのまま森を探索するのはイルマと同じく危険と思ったメラとシーラの2人は、イルマの指示に従っては近くの岩場に腰を降ろして休憩するのであった。
◆◇◆◇
ダンの様子がおかしいことから一旦探索を止めて休憩することにしたイルマ達。
そんな休憩してる時でもダンはまだ悔しそうにしてた。
~ダン視点~
本当は俺もイルマみたいに1人で必殺技を使えるようになりたい!
イルマに甘えないと強い魔物に勝てないのは嫌だ!
けど、実際は1人では強い魔物を倒す程の必殺技を使うことは出来ず、誰かの力が必要だ!
だけど……俺にはそんな力はない。だから今は誰かに手を借りることは妥協する。だけどよ~、それでも最低イルマの必殺技と同レベルぐらいの力が欲しい!でも、実際は誰かの力を借りて発動した俺の必殺技は、イルマの必殺技の劣化技だ。
ー悔しいッ!!ー
ダンは思う。イルマはドンドン強くなっていっている。そんなことは感じなくてもステータスを見たら一目瞭然だ。なのに仲間の俺もイルマに着いて行くには固有技能を使いこなすだけじゃ足りない。
なら、俺もイルマみたいに強敵にも通用するような必殺技が1つ位ないと、いつまでもイルマが強敵との戦いで俺は仲間なのにイルマの役にたてねぇッ!
俺はメラやシーラと違って、戦闘位しか役にたつことが出来ない。
ならせめて、戦闘位はイルマより上か同じぐらい出来ないといけないのに……
ーだけど、俺は弱い。
◆◇◆◇
ダンはそんな風に自分とイルマを比較しては自分の力の無さに嘆いていた。
「ダン、ちょっといい」「………」コクリ
「あ?何だよ………メラ、シーラ」
そんなダンの様子に痺れを切らしたメラとシーラの2人は、ダンに近寄っては声を掛ける。
そして、声を掛けられたダンは機嫌が悪そうに返事をしては2人の言葉を待つ。
「ダン、アンタ何に対して悔しいそうにしてるのよ?」
「あぁっ?別に何でもねぇよ!」
「嘘!」「……うん、嘘」
「──っだったら何だよ!ああ、そうだよ。俺は悔しいさ!お前らと違って俺は戦闘しか出来ねえのに、その戦闘でも、イルマみたいに強い魔物に有効な必殺技を1人で使えない。戦闘しか役に立てないのに、その戦闘でもあまり役に立ててねぇ!」
正面から何を悔しいと思っているのかと問われたダンは、最初は誤魔化すが直ぐに嘘だと否定されたことでカッとなり、正直に自分の想いをぶちまけるのである。
そんなダンの想いを3人から少し離れた位置で聞いてたイルマは、
「(ダン………今、僕がダンに話しかけても逆効果だ……。メラとシーラの2人がダンに上手く話してくれるのを期待して任せよう……)」
そんな3人の様子を見ていたイルマは、ダンの比較対象である自分が今出ていくのは逆効果だと思いメラとシーラの2人に任せた。
そして、メラとシーラはダンが抱えていた想いを聴いた上で、想いをぶちまけては再び下を向くダンに声を掛けた。
「そんなことないわよダン。仲間がいて出来る技ってステキじゃない?ねっ?シーラ」「うん」
バッ!
「ステキ……だと?」
そのメラとシーラの言葉に顔を上げるダン。
「そうよ、ダン。アンタは1人で出来ないことを力不足って考えてるみたいだけど、逆に言えば仲間の存在が大事ってことじゃない?それはつまり、アンタは1人でなく仲間がいれば強くなれるってことでしょ?ほら、ステキじゃない」
「私もそう思う」
「……仲間がいれば、俺は強くなれる……だからステキ……」
自分の考えを逆に考えると、自分は仲間がいれば強くなれるからステキだという言葉を伝えられたダンは、そんな考えは無かったと言わんばかりに目を開く。
そんなダンの様子にメラは、ダンがまだ気付いていない有ることを伝える。
「それに、あの闘魔剣がイルマの【闘魔技法剣】の只の劣化技とは私は思わないわ」 「うん、私もそう思う」
「───ハァッ!?それはどういうことだ!?俺の闘魔剣が、イルマの【闘魔技法剣】の劣化技じゃないだと?どういうことだ???」
──俺の闘魔剣がイルマの【闘魔技法剣】の劣化技じゃないだと……?どういうことだ?俺の闘魔剣は、イルマの闘魔技法剣を参考にしてそこから技能の要素を抜くこと、更に
1人で放つことが出来る上に威力が上の
仲間の協力が無いと発動さえ出来ない威力が下の
なのに俺の闘魔剣はイルマの闘魔技法剣の劣化技じゃない?……………駄目だッ!意味がわかんねぇー!!?
ダンはそのメラとシーラの言葉に驚き、その言葉の答えを見つけ出そうとするが出ず、ウガァーッ!と叫び、頭を掻きむしる!
そうして叫んでは頭を掻きむしるダンは、どう考えても答えは出なくてメラとシーラに答えを尋ねた。
「ッ!!────さっきの言葉、あれはどういう意味なんだよ?」
「?え、だって闘魔剣って、ダンと私の合体技でしょ?」
「???……それはそうだろ?俺は魔法が使えないんだからよ」
「ダン、違う。メラが言いたいのは魔法の所じゃなくて、ダンとメラの合体技って意味」
「っ、だ・か・ら!それがなんだよッ!闘魔剣が俺の闘気とメラの魔法の合体技であって、イルマの【闘魔技法剣】から技能の力が抜けた劣化技には変わらないじゃねぇーかッ!!」
「ハァーー、ダンあんたやっぱりバカなの?」
やれやれっとメラは両手を頭の横まで上げて頭を振ってまだ分からないのかしらと言う。
答えが分からないダンは苛立ちを覚えるが、シーラがそんなダンに答えを伝える。
「ダンの闘魔剣は、ダンとメラの合体技。なら、2人の固有技能を合体させて闘魔剣で使えたら?それはイルマの【闘魔技法剣】の劣化技?違うでしょ?イルマの【闘魔技法剣】は、あくまでも普通の闘気、普通の魔法、普通の技能の組み合わせ。でも…ダンとメラの合体技である闘魔剣は違う。ダンは闘気刃に固有技能を+することも出来る。メラは固有技能をダンの闘気刃になら魔力付加が出来る。それは、闘気と魔法だけじゃない」
「!?そ、それって……」
そのシーラの説明に漸くダンは2人が言いたいことを悟り、確かめるかのようにメラとシーラに視線を向けては、2人はそのダンの視線に頷く。
「そう。劣化技じゃない。それ処かまさかの"固有技能の組み合わせ"」
「だ・か・ら!あんたの合体技に私達全員が驚いたのよ!」
「………でも、その合体技の凄さに当本人がまさかの無自覚。そのことも驚いた……」
「えっ、えっえっ!おおおっ俺、そこまで凄い技を編み出していたのかッ!?」
……ハァー
……ハァー
……ハァー
自分がどんな技を編み出したか気付いてなかったダンの様子に、メラとシーラに黙っていたイルマも揃ってため息を漏らす。
そんなダンだが、皆の様子に気づかない位に自分が編み出した合体技の凄さに驚いた様子だ。
「おっ俺!皆の、イルマの役に立てるんだなッ!
良かった、良かったーー!!……戦闘職なのにいつもイルマばかりに強い魔物との戦いで力になれずに負担をかけていたのに、それなのに必殺技1つも1人で出来ないのかって…………駄目な奴だと……」
自分の技の潜在的な凄さを知ったダンは、今はまだ無理でもいつかはイルマの必殺技よりも凄い力を発揮出来るその可能性が見えて悩みが吹っ飛んだ。
悩みが吹っ飛んだダンは、先程までの暗い雰囲気は消え、代わりに嬉し涙を見せた。
「バカね。私達はパーティーなのよ。1人で出来なくても良いのよ。私達全員で補えたらそれで良いのよ。イルマのことは気・に・し・な・い・で・い・い・の・よ!」
「うん。メラの言う通り。それに、イルマが闘魔技法剣なんて技を1人で出来ること自体おかしいこと。
そんなダンの様子に、メラとシーラはダンの悩みが解決したと分かり嬉しそうに笑みを浮かべながらも、ダンに1人で抱えるのではなくて全員で力を会わせたらいいと、イルマを弄りながら伝える。
「オ~イ?何か黙っていたら、僕酷いこと言われてないか」
ダンの悩みの内容からメラとシーラにダンのことを任せてたイルマは、ダンの問題が解決した様子に良かったと安心していたら、メラとシーラに酷いことを言われたのでもう出ていってもいいと思い、抗議するため口を挟む。
「あんたは今は黙ってなさい!ややこしくなるじゃない!」
「イルマ、黙って」
「酷いっ!!」
そんなイルマだが、メラとシーラにシッシッっと手で向こうに行けと追いやられる。イルマも口で酷いと言いながらも、ダンの悩みが解決したこともあって笑って2人に弄られるのを受け入れた。
「後、ダン。あんたそんなこと悩んでいたら、ちゃんと話しなさいよね!」ビシッ
「悩みを相談できるのが仲間」メッ
「………わリィ」
悩みが解決したダンだったが、そのダンに1人で悩みを抱えていたことを注意してくるメラとシーラに八つ当たりしたことを思い出し、ダンは自分の行いに恥ずかしさを覚えては顔を紅くし、顔を横に向けては謝罪する。
その様子にメラは「本当にもうッ!」と口では怒りながらも笑っていた。
同じくシーラも笑顔でいて、なんなら意地悪でダンの顔を指差しては真っ赤だとわざと口にする。
そのシーラの意地悪にダンは、慌てて顔を隠すがその行動が更に笑いをもたらすのであった。
笑われたことに拗ねるダン。そんなダンにメラとシーラが笑いながらであるが謝り、機嫌を直そうとする。
それを見ていたイルマ。そんなイルマの心の中にあった不安はいつの間にか消えていた。
(危険があるかも知れない……でも、大丈夫!)
(僕らなら大丈夫。なんたって僕にはこんなにもいい仲間いるんだから、危険が有っても乗り越えられる!)
(それにチートを持ってるのは僕だけじゃない。皆も頼もしいチート集団だ。そんなチート集団の僕らパーティーなら、この先深刻化した森の異変だって乗り越えられるさ!)
イルマはこの先の森の異変がどんな状態でも、頼もしいこの仲間が一緒なら大丈夫だと、心からそう思うのであった。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………ここが、森の最奥部………」
その後森の探索を再開したイルマ達は、ダンの様子が戻ったこともあり順調に探索していた。
そして、順調に進むイルマ達はついに異変の中心地である森の最奥部に到着するのであった。
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