第416話 今年の陽の季節開催のデパートが終わり、宴会が開かれた。

陽の季節のデパートは無事終了、その日の夜は売上報告と打ち上げで村・魔族領・人間領ごちゃまぜ宴会。


初めての試みだったが大盛況で良かったが、一つ懸念事項がある。


村の稼いでる金額が魔族領・人間領より1桁違う事だ……あまりに客を取りすぎてるんではないだろうか。


そのあたりを聞いてみると「全然そんな事は無いです、これでも相当稼がせてもらってるんで!」と言われた。


無理してないか何度か確認したが大丈夫とのことなので信じることにする、どちらにも何かで還元出来るといいな。


フェンリルは未だ暑さに慣れないのか、近くに氷を生成してその横でステーキにかじりついている。


目が爛々としているので相当美味しいのだろう、フラウも「あんなはしゃいでるフェンリルは初めて見ました。」と言ってたし。




フラウと話しているとウンディーネが結構な勢いでフラウをかっさらって行ったので、俺も別の場所で飲み食いしようと思い移動。


初めての機会なので色んな人と少しずつ話しながら各所を回っていると、キュウビから声を掛けられる。


「そうじゃ村長、いい時期なので報告しておくぞ。

 我はそろそろこの村を出る準備を始めるのじゃ、なので何か用事があれば早めに頼むぞ。」


「そうか、もう次の稔の季節には式典を挙げるんだな。

 寂しくなるけど……分かったよ。」


「そうしんみりしないでほしいのじゃ、会おうと思えばいつでも会えるじゃろう?」


「そうだけどな、やっぱり寂しいもんだよ。」


年齢に加えて酒も手助けしているのか、少し涙腺が緩くなってしまう。


住民の幸せの門出なんだから笑顔で見送るべきなんだが……どうしてもな。


「村長……泣くでない。

 我だって寂しいんじゃからな、魔王の事は好きじゃが村の事も大好きじゃ。

 出ていけて嬉しいと思って出て行ってるわけじゃないのは分かってほしいのじゃよ。」


「それは分かってる、安心してくれ。

 この世界に転移してきて初めての別れだから、ちょっとな。」


前の世界と決別してもこんなセンチメンタルにはならなかったのに、いつでも会えるクズノハとの別れでこうなるとは自分でも思わなかった。


それだけこの世界に思い入れがあるのだろう、前の世界と完全に決別出来ているかと言われるとそうじゃないけど。


クズノハに頭を撫でられながらチビチビ飲んでいると、後ろから誰かに結構な勢いで抱き着かれる。


突然の出来事に思わず酒を零してしまった……まったく、一体誰だ?


「おー村長、飲んでおるかの?

 クズノハも一緒とは重畳じゃ、少し話があるのじゃよー!」


犯人は魔王だった、話題に出てたしちょうどいいのかよくないのか……と思ったらクズノハに思いっきり頭をはたかれていた。


スパーン!といい音が広場に鳴り響く……痛そう。




「まったく、村長は我を想って泣いてくれておったのに!

 色々雰囲気が台無しじゃよ!」


「何じゃと、それはすまなかった……。」


魔王はクズノハに怒られて即座に反省、頭を下げて謝られた。


俺は知られたことが恥ずかしいんだが、まぁそこは隠しておくことに……それと、謝らなくても大丈夫だと伝える。


「そうじゃ村長、今回のデパートの売上1位……釣具じゃったの。

 私も村長からも頂いたのじゃが、今回また少し買いそろえてしまったんじゃよね。」


「釣具はハマると戻ってこれなくなるからな、あまり散財しないようにしてくれよ。」


前に送ったのもかなりいいやつのはずなんだけどな、それだけ釣りにハマっているのだろうか。


施政に影響がない程度に楽しんでくれよ。


「分かっておる、無理しない程度に抑えておくつもりじゃ。

 それと選んでる時に思ったんじゃが……試したいお客が多く見えたんじゃよ。

 というか私もじゃな、じゃがあんな狭い場所でそんな事をするわけにもいかず……そこで提案があるんじゃが。」


「是非聞かせてくれ、釣り好きとして出来ることはやりたい。」


「村には新しい施設、リゾート地というのがあるんじゃろう?

 あそこの利用時に追加料金を払って、好きな釣具を試せるようにするのはどうじゃ?

 もっと釣りが普及すれば魔族領でも展開したいと思っておるが……村長はどう思うかの?」


魔王の提案を聞いて色々思考する、確かにそれならリゾート地の売上も上がるし釣具を試すという欲求も満たせる。


更にそこで成功体験をすれば、釣具の購入まで導線が繋がりやすくなり釣りの普及に繋がる……これはいいんじゃないか?


デパートの売上1位が釣具らしいので充分普及はしているのかもしれないけど、俺としてはもっと普及してほしい。


一過性の流行かもしれないし、今のうちにサービスの内容を充実させておくのは大事だ。


「魔王、その案いただくよ。

 リッカと話し合って近いうちに出来るようにする。」


「良かったのじゃ、私も試したい釣具が沢山あったでの!

 暇が出来れば利用させてもらうのじゃよ!」


「ワルター、今はそんな暇ないじゃろう……?」


クズノハが怖い笑顔で魔王に言葉をかけると、魔王は冷や汗をかきながら「分かっておるよ……!」と慌てて返事をする。


もうすぐ式典だもんな、それに加えて魔王としての仕事をしなければならないのを考えると確かに暇はないだろう。


仲良さそうな2人を見ながら酒をチビチビ飲んでいると、後ろから頭に何かを乗せられた。


温かいし動いている……生き物か?


「だーれだ?」


「その声はカタリナだろう……一体何を乗せたんだ?」


俺は頭に乗せられた何かを手に取り顔の前に持ってくると――目の前に笑顔のフライハイトが。


驚いた俺は無言でカタリナの方を見るしか出来なかった。


「フライハイト、今日からお外デビューです!」


俺はその言葉の意味を理解するのに数分かかったらしいが、その後はフライハイトを抱き上げて喜びながら走り出し皆に自慢して回ったそうだ。


正直覚えてない、あまりに嬉しすぎて。


ただカタリナに怒られて正気を取り戻したのは確かだ、フライハイトは終始キャッキャ言ってたから許してくれ。


でもうんちしてるのは泣いて教えてほしかったな。


お父さんの肩、ちょっとうんちついちゃってるじゃん。

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