第414話 フェンリルとリリーの生い立ちの話が聞けた。

「すまない、食事中にみっともない姿を見せてしまった……。

 概ね事情は分かったので経緯を話そう。」


俺達は落ち着いたフェンリルにここへ来た事情を説明。


途中で何度か耳をぴったり頭にくっつけて震え出そうとしたが、リリーという子が起きたのを見て一気にピシッと姿勢を正した。


弱い姿を見せたくないのだろう。


「あのゴブリンとの出会いはは某がこの地に生まれて少ししてだろうか、星から生まれた故ゴブリンという種族の知識は既に有していたので相手にもしなかった。

 そもそも魔物が精霊を認知出来ると思ってなかったからな――だが、あのゴブリンは某をしっかりと見据えて武器を構え、戦う意思を見せてきたんだ。」


「はっは、ホブゴらしい。」


話を聞いたオスカーは笑いながら酒を飲んで――え、酒?


どこから持ってきたんだ……と思ったら、ドリアードが酒樽を持って皆に配っていた。


まったく、ここに無い文化を持ってくるんじゃない。


大精霊がやってるからいい事なのかもしれないが、俺達が居る時しか出来ない贅沢はあまり見せないほうがいいと思うぞ。


ほら、フェンリルも話しながらチラチラ見てるし。


リリーはダメだからな。


「結果は知っての通り、分体を1体取り込まれショックのあまり周りに当たり散らしていると大精霊4人に目を付けられた……というわけだ。

 応戦して封印の間際に分体とすり替わり事なきを得て現在に至る――リリーのためにもこの結果になって良かった。」


「そうよ、ずっと気になってたけどこの子は何なの?

 この大霊峰の山頂でこんな小さな女の子が暮らせるなんて、普通じゃ考えられないわよ?

 しかも見る限り人間だし……未開の地より魔素が濃いこの場所で魔族にもなってないなんて。」


ウンディーネから俺も気になっていた質問がフェンリルへ投げかけられた。


いくら何でもリリーの存在は異質過ぎる、フェンリルが一緒だと言ってもここで生きていける体力は無いはずだ。


それにただの人間だって?


てっきりよく似た種族だと思っていたがますますおかしい。


ただの人間がこんな所で過ごせるわけないんだ、それは元人間の俺が保証する。


「リリーは厳密に言うと人間では無いぞ、元々この霊峰の管理者だ……という事だけは知っている。

 某を生み出す時に聞いたからな――よって某は2代目の氷の精霊なんだよ。」


そんな事情があったのか、道理でリリーがこんなところに住んでるわけだ。


皆も事情を聞いて納得したのか、頷いたり考えたりリリーのほっぺたをぷにぷにしたり。


すごい柔らかそうだな、後で触りた……いや、変質者っぽいしやめておこう。


「あなた、本当にリリーってお名前?」


何かに気付いた様子のウンディーネが、リリーのほっぺたをむにーっとしたまま優しい口調で問いかける。


鍋を食べれなくて不機嫌そうなリリーだが、ウンディーネの目をじっと見てるとだんだんと焦った表情に変化していく。


どうしたんだろうか。


「リリーはリリーだよ?

 他にお名前なんかないもん。」


「その焦った表情、嘘をつくときに右手で横髪をいじる癖。

 それに幼くなっているけど当時の顔立ちは残っているわ――あなた、フラウでしょ?」


フラウと呼ばれたリリーは、びっくぅと体を跳ねさせてウンディーネから離れる。


どこからどう見ても図星だ、フェンリルはそのやり取りを見てイノシシ肉を口からはみ出させたまま固まっている。


そんな間抜けな顔にならなくても。


「リリー知らないもん、フラウじゃないもん。

 氷を司る精霊じゃないもん……。」


ほぼ答えを言ってしまっている、流石に隠し通せないんじゃないだろうか。


「フラウ、ちゃんと話せば怒らないでいてあげるわよ?」


「ごめんないウンディーネお姉様ぁぁぁ!

 フラウは自分の力不足が嫌になり、フェンリルを生み出して甘えて生きてましたあぁぁぁ!」


怒らないという言葉を聞いた途端に、手の平を返すように薄情するリリー……いや、フラウなのか?


というか、フェンリルってフラウが甘えるために生まれた存在?


ちょっとフェンリルが可哀想に思える。


というか、ウンディーネとフラウは知り合いだったんだな……まさかお姉様と呼ばれる関係とは。


「あんたね、せめて相談しなさいよ……フラウが居なくなって突然フェンリルが氷を司ってて、しかも世界を荒らすように暴れて……すごく心配したんだからね?

 それにフェンリルが生み出せるあんたが力不足なんて思わないけど、何が原因でそう思ったのよ。」


確かにそれはそうだ。


同じ実力を持った分体を取り込んでるホブゴはオスカーと実力が拮抗している。


しかも凄まじい氷の力だとオスカーは評していた、いくらホブゴの実力が物凄いと言ってもフェンリルの力以上に氷は操れないだろう。


「だって……誰も私に気付いてくれなくてぇ……。」


それを聞いたウンディーネは、抱えていたフラウを横に置いてうずくまってしまった。


「この子、私が教えた精霊の常識を何も覚えてないって……嘘でしょ……。」


まさか、精霊は認知されたり崇められたりしないと姿を見てもらえないというのを覚えてないってことか?


フラウはこんな寒いのにダラダラと脂汗を流して後ずさる、図星のようだ。


「某、どうすればいい?」


フェンリルはフェンリルで涙目になってるし……もうどうすればいいか分かんないぞ。


とりあえず鍋をつつくことにする、腹が膨らんだら新しい考えが浮かびそうだし。


皆もとりあえず食べるといいぞ。


俺は現実逃避をして無心に箸を進める、なるようになるだろうし大丈夫だと信じながら。

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