第387話 リッカの身に起きたまさかの出来事の対策を考えた。
「驚かないって言ったのに……。」
俺が言ったことを瞬時に破ったことが気に入らなかったのか、頬を膨らませて拗ねるリッカ。
でも、こんなの驚くに決まってるじゃないか。
だって――今のリッカはどう見ても魔族だ。
話を聞くと魔術を使えるようになったのは数日前。
そこそこの魔力量もあったので、ラミア族やミハエル、それにグレーテから戦闘に役立つ魔術を色々教えてもらっていたらしい。
生活魔術は使うつもりがなかったようだ。
それまでは体の不調なんかは無かったみたいだが、一昨日あたりから少し体はだるかったらしい。
そして今日起きたら魔族の姿に変わっていた……というのが今回の事の顛末だそうだ。
どうすればいいんだ、これ。
「原因は分からないのか?」
「全く分からないよ……分かっていれば話しているさ。
見た目のみだから、この村に居る分には別に不便はしないけど……人間領でどうすればいいか皆目見当がつかないよ。」
「そうだよなぁ……。」
リッカは王を継ぐつもりはないが、王位継承権を有している王族だ。
そんな人間領でも立場がかなり上で、前の騒動での領民の反応を見る限り信頼もある――そんなリッカが村に住んでて魔族になってしまったなんて大問題でしかない。
魔族自身が悪いイメージが無いのが唯一の救いかもしれないが、それは今回の問題と関係が無いのが辛いところだ。
「せめて何か分かる人が居ればいいが……人間がいきなり魔術を使えるようになること自体が物凄く珍しい事らしいんだよ。」
「それは僕もラミア族から聞いたよ。
村長もその口ぶりだと色んな人に聞いたんだね……お、そうだ。」
「どうしたんだ?」
リッカが何かを閃いたように手を叩く。
俺は特に何も思いつかないからな、何かあればどんどん意見が欲しい。
「村長、ドリアード様や他の大精霊様に聞いてみるのはどうだい?
あの方達は村の誰よりも長い時間生命を見守って来たのだから、この突然変異についても何か知ってるかもしれないじゃないか。」
「確かにそうだ、なんで思いつかなかったんだろう。
早速ドリアードに連絡を取ってみるよ。」
幸いここは森だ、ドリアードと連絡を取るのは簡単で助かる。
俺は早速その辺の木に触れてドリアードに念話を飛ばした。
『ドリアード、ちょっと緊急事態なんだ。
俺が居る場所に召喚して大丈夫か?』
『リッカちゃんの事かしら?』
『そうだ、流石に分かってるか。』
『急に走り去って行方不明になったら少しは騒ぎになるわよ。
それに村長が探しに行ってたのも知ってたし――いいわよ、召喚して。』
開口一番に断られなくて良かった、ドリアードはたまに容赦が無いからな。
俺より立場は低いはずなんだけど……まぁいいけどさ。
俺は許可を得たのでドリアードをこの場に召喚する。
「ふぅっ――さて、リッカちゃんは……ってあれ?」
魔族になってるリッカを見てキョトンとするドリアード、まぁそういう反応をするよな。
むしろ反応が薄いくらいだ。
「あはは……私がリッカですよ、ドリアード様。」
リッカはバツが悪そうな表情で頬を掻きながらドリアードへ言葉をかける。
別にリッカが悪いわけじゃないから気にしなくていいんだぞ?
「なるほどね、それで顔を隠して立ち去ったわけだ。
確かにこれは知らないとビックリするわよね。」
「原因を知ってるのか?」
「えぇ、これはむしろ自然な変化よ――しかし今の人間って全くと言っていいほど体に魔素が無くなっているのね。
私としては、リッカちゃんの変化は遅すぎるくらいだと思ってたんだけど。」
自然な変化だって?
「どういうことだ?」
「人間と魔族って元々同位体なのよ。
体に魔素が循環してるのが魔族、していないのが人間。
魔族が体から魔素をきっちり抜ければ人間になるし、その逆――体に魔素を溜めれば魔族になるわ。」
「じゃあここ最近私が魔術を使えるようになったのは――」
「体に魔素が定着してきたからよ。
それでも攻撃魔術が使える程魔力が最初からあるのは珍しい部類だと思うわ、元々魔術適性がある程度あったんでしょうね。
体内の魔素が足りなくて魔力を生成出来なかっただけで。」
俺は衝撃の事実を聞いて驚くことしか出来ないんだが、リッカは落ち着いて色々考え込んでいる。
よくそんなに冷静でいられるな!?
それよりドリアードだ、そういうことはちゃんと言っておいてくれないと困るぞ。
「何か知ってたなら教えてくれてたら嬉しかったんだがな。
そうすればこんな騒ぎにならずに済んだんだが。」
「知らなかった事を知らなかったのよ、悪い事をしたとは思ってるわ。
村長は仕方なくても、この世界に住む他の住民は知ってると思ってたのよ……昔はよくある変化だったし。」
なるほど、お互いの常識の認識がずれていたという事か。
「ドリアード様、体内の魔素を抜くのってどれくらいかかるんだい?」
「大体溜まって定着した期間と同じくらいかしら?
魔術を使えるほうが便利だから、人間から魔族に戻る人って少なかったのよね。」
確かにそれはそうだろうが、リッカには立場があるからそういうわけにもいかない。
「困ったな……近々人間領で神である村長の存在を崇める式典があるんだけど。
私も一番人間で神に近しい場所に居るということで先導の役割があったんだ――流石に魔族の姿で参加するのはまずいかもしれない。」
「確かにそれはまずいな……そもそもリッカが魔族になったという事実だけで人間領が混乱しそうだし。」
「私はそんな面倒そうな事に関与しないわよ?
式典で食事が出るなら参加するけど。」
ドリアードが何かしたわけじゃないし仕方ないといえば仕方ないが……少々薄情だな。
リッカも少し不服そうだが、仕方ないと諦めて再び何かを考えだす。
恐らく解決策を考えているのだろう。
ドリアードも食事が出るなら参加するって、神だけじゃなく大精霊まで参加したら本当に大混乱になりそう――いや、そうでもないのか?
魔族領の宴会では大精霊全員参加してたけど別にだったし、割と受け入れているのかもしれない。
気付いてないだけかもしれないが。
「――ちょっとした冗談だったのに、そんな本気にして私を睨まないでよ。
リッカちゃんの眼、結構怖かったんだけど。」
「いや、ドリアード様に責任は無いからね。
少し恨めしかったのは事実だけど、仕方ないと思ったんだ。」
「とりあえず村へ戻りましょ。
そのあたりの対策を教えるのはそれから、皆心配してるんだからね?」
俺とリッカはドリアードの言葉に返事をして村へ戻る準備をする。
準備と言ってもリッカの肌を再び隠すだけ、もういいんじゃないかと言ったが説明してから見せたほうが混乱は少なく済むだろうという本人の希望だ。
数分で肌を隠し終え、いざ村へ出発。
するとリッカとドリアードは俺と手を繋いでくる。
そんな仲良しな雰囲気で帰りたいのだろうか、俺は別にいいけど。
そう思って出発すると2人とも歩かなかった、俺はそうなるとは思わず尻もちをついてしまう。
「2人ともどうしたんだよ、村へ戻らないのか?」
「「瞬間移動してよ。」」
あ、それで手を繋いだのね。
すまない、気づかなかった。
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