第385話 遠隔会話の魔術が使えるようになった。

「――と、今までの経緯と想像錬金術イマジンアルケミーの説明はこんな感じだ。」


「はえぇ……そんな事があるんですねぇ。」


この機会を利用してウルリケに今まで説明出来てなかった事を話す。


思ったよりすんなり受け入れてくれたようで安心、まぁ想像錬金術イマジンアルケミーを先に見せてるし信憑性はあるか。


「それで村長、物は相談なのですが!」


「どうしたんだ?」


「フライハイト君に使っている人工培養液の基の在庫が切れてまして……。

 あれを作るとなると一苦労なんですが、村長のお力でパパッと済ませてもらえないかなと!」


「それは大丈夫だが――」


「ならぬのじゃよ、自分で作れるものは作らぬと技術が廃れる。

 それは村長も言っておったことじゃろう?」


俺が返事をしようとすると、クズノハが横から否定的な意見を投げかける。


確かに、それはそうだ。


ウルリケがいる限り大丈夫だろうが、もし俺がこの先作るとなって技術が消えていくのはかなりの損失になる。


「今回だけです、アタイもずっと作らないつもりじゃないですから!

 ですが今はフライハイト君が人工培養液を使ってますから、もしもの時の備えに培養液が無いとなると大惨事なんで。

 それに講義もありますし、遠隔会話魔術を使うためにこの機構と人との接続と調整もあるんですよぅ……お願いします!」


「む、そこまで面倒な物なのかの?」


「基を作るのに体感7日はかかりますぅ……。」


「それを早く言うんじゃ、技術提供を盾にサボりたいだけかと思ったのじゃよ。

 それなら構わぬ、村長も良いよな?」


クズノハは理由を聞いて少し呆れながら了承、早とちりも説明不足もあったしどちらも気にする必要は無いだろう。


「あぁ、大丈夫だ。」


「お願いします!

 原材料は家の近くにある実験室にしまってあるので、また持っていきますね!

 それじゃ私は早速これの接続と調整をします、まずは村長からいいですか?」


「大丈夫だけど、何をすればいいんだ?」


「立ってるだけでいいですよ――はい、終わりました!」


ウルリケが俺の前で軽く印のような物を結んだと思ったら、俺の出番はもう終わったらしい。


今度は魔力の中継と蓄積をする機構に向かって印を結んでいる。


その後自分自身ともう一度機構に印を結ぶと、ウルリケは笑顔で口を開いた。


「よし、これで村長とアタイは遠隔会話を使えるはずです!

 早速試したいので、声が届かないくらいの場所まで移動していただけますか?」


「それはいいが、これの限界距離ってどのくらいなんだ?」


「魔素さえ途切れなければ実質無限だと思いますよ?」


相当な高性能でかなりびっくりする――でも、人間領付近では使えないのか。


万能ではないのは残念だがそれは仕方ない。


「じゃあ村の端あたりで試してみるよ。

 遠隔会話のやり方はどうすればいいんだ?」


「アタイと遠隔会話をしたいと思ったら、繋がった感覚が体の中にあるはずです。

 その状態で通常通り話せば遠隔会話が成立しますよ!」


なるほど、念話のようなものじゃなくて音をきっちり利用してるんだな。


原理は全く分からないけど。


「分かった、それじゃ試してくるよ。」


俺はそう言って瞬間移動で村の端まで移動、周りに人も居ないしこれなら大丈夫だろう。


えっと、ウルリケと遠隔会話をしたいと思うんだっけ――お、確かに繋がった感覚があるな。


「どうだ、聞こえるか?」


俺はいつも通り話してみる……本当にこれで遠隔会話が出来るんだろうか?


『聞こえます!

 私の声は聞こえますか?』


少し半信半疑だったが、すぐさまウルリケから返事が来てその疑いも晴れた。


声自体は耳の中に響く感じだ、少し違和感はあるが別に気持ち悪いわけではない。


日常的に使っていればいずれ慣れるだろう、これはとてもいい技術だ。


「聞こえるぞ、成功だな。」


『はい、良かったです!

 では私はこれから村長の奥様方を始めに、村の住民の皆さんに接続の準備をしてきます!」


「大変だろうが頼むぞ。

 俺はこのまま村の見回りをしてくるから。」


『はい、わかりました!』


どうやってこの遠隔会話を切るんだろうと思ったが、切ろうと思えば勝手に繋がりが切れたのが感覚で分かる。


ちゃんと切ることも意識しておかないと、変な事を聞かれても困るから注意しておかないとな。


遠隔会話も切れたので見回りをしようと、体を浮かせて上空から村を眺めていたらウェアウルフ族とリザードマン族が手分けして誰かを探しているような様子が見えた。


声をかけてみるとするか。


「どうしたんだ?」


「あ、村長。

 それがですね、リッカさんが顔を覆い隠してどこかへ走り去ってしまって……今慌てて探している所なんです。」


「顔を覆い隠して走り去った?

 何か心当たりはあるのか?」


リッカは女性だからな、顔に傷でもついたとあればポーションで治療しなければ。


他にも何か危ないことがあったとか……リッカは人間領から大使として派遣されているから、何かあれば結構な問題だから早急に解決しなければならない。


「それが特に……先日までは普通だったんですよ。

 鍛錬所でもケガはしてませんし、強いて言うならここ最近魔術が少し使えるようになったと嬉しそうでしたね。」


リッカが魔術を?


全く適性が無かったし魔力すら持ってなかったのに、いきなり使えるようになるなんて事あるんだろうか。


それが関係して体に異常があるなら、突然の失踪も頷ける――そのあたり誰か知識があるか聞いてみるとしよう。


「俺は他の人に話を聞いてくる。

 そっちは引き続きリッカの捜索に当たってくれ。」


「分かりました、よろしくお願いいたします。」


とりあえず魔術を使える種族に片っ端から話を聞くとしよう。


それとポーションも作って持っておかなきゃ、それで治るならそれに越したことはないし。


リッカ、無事で居てくれよ。

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