第377話 カタリナと子どもを救う一手が舞い込んできた。

カタリナが予定日より大幅に早い破水をしてから皆が協力してくれているが、村全体が割と慌しい様子になって数十分が経っただろうか。


俺でも出来る限りの事はしたので呼ばれてもいいように、出産専用施設の近くで待機。


俺は作った覚えがない、何時の間にこんなものを建てたんだろう……でもそんなことはどうでもいい。


今はカタリナと子どもの無事を祈らないと……でも俺は神だし何に祈ればいいんだろうか。


星の核にでも祈っておくか。


神の力ならもしかしたらと思って何かしようとしたが、それはカタリナに止められた。


不死だからこそ命の尊さを認識するために、この世界にある技術と知識だけで産みたいそうだ。


それに子どもの意思も聞かないでその子の命を親がいじるのは、神であれ許されないんじゃないかと。


その通りだったから何も言えない、俺は神になってもやっぱり不甲斐ないな。


「村長、そこでうずくまってても気分が滅入るだけじゃない?

 外の空気でも吸って来るといいさ、こっちは……出来る限りの事をするから。」


「あ、あぁ……分かった。」


助産師さんが励ましに来てくれたが、表情は険しいものだった。


俺は言われた通りに一度外に出ることに、恐らくこの先この出産に関わる全員が苦しむだろうから気を利かせてくれたんだろうな。


聞いた話によると早産で子どもが無事な確率は相当低いらしい、医療技術が発達してないから仕方ないのかもしれないが……。


それに不死とはいえカタリナにも相当な負担がかかっているはず、死ねるのに死ねないのは考えるのも恐ろしいくらいの苦痛だろう……。


本当に、母子ともに無事でありますように。




行く当ても無く、ずっとため息をつきながら歩いているとダンジョン偵察部隊が帰ってくるのが目に入った。


流石あのメンバーだ、いくら高難易度ダンジョンでも簡単に偵察出来てしまったようだな。


俺に気付いてオスカーが近くに着陸しようとしているが、今は部隊を出迎える気分になれない。


本当に申し訳ないけど。


俺と村の異変に気付いたのか、オスカーが俺に質問してきた。


「村長よ、何があったのだ?」


「カタリナが破水した、今施設で色んな人が頑張ってくれてる。」


「っ……そうだったか、すまぬ。」


オスカーもそれを聞いて申し訳なさそうにする、ドラゴン族ですら早産は危険だということだろう。


ましてや体がそこまで強くないプラインエルフ族、本当に絶望なのかもしれない……。


「話は聞こえてきました、カタリナは出産施設ですね!」


「私も行くわ!」


メアリーとウーテも着陸するや否や即座に出産施設へ、出来る限りの事をしてあげてくれ。


「村長、気を確かにね。」


「分かってる、つもりだ。」


シモーネに励まされるが気持ちと出てくる言葉が一致しない、今は泣き叫びたい気持ちでいっぱいだが……それはカタリナと子どもの安否が分かってからだ。


「あの……この重苦しい雰囲気はアタイの所為ですか……?」


「……その人は?」


「高難易度ダンジョンの奥に居たウルリケ、私と同じ吸血鬼族よ。

 ここを出発する前に予測していた事と概ね一致していたから予定を繰り上げてダンジョンを攻略、そのままこの子を連れ帰って来たわ。

 飼いならしてる魔物には餌を与えて一時的にあの場に留まってもらってるから後日行かなければだけど。」


「そうか……後で対応する。

 すまないがシュテフィの家に泊めてやっててくれ。」


事情を聞いたので動かなければならないのだが……初対面にも関わらずつっけんどんな態度を取ってしまう。


申し訳ないという気持ちはあるから後で謝らせてもらおう。


「村長、事情は聞こえてたわ。

 その件なんだけど……ウルリケの知識と技術、使わせてみたら?」


「へっ?

 何がどうしたの?」


周りの人全員が分かっている中、ウルリケという吸血鬼族だけは分かってない様子。


結構大きな声で話してたんだが、聴力がそこまで良くないのか?


そもそも長い間ダンジョンに潜っていた人が、どんな技術を持っているというのだろうか……もしシュテフィが冗談を言ってるなら怒るかもしれない。


「何も聞こえてなかったの?

 村長の奥さんがかなり速い早産でね、母子ともに危険な状況なの。

 ウルリケなら、何か出来るんじゃないかなって。」


「それならまとめてある荷物で助けになれるよ。

それと母親の血液を少し採取させてくれたら、そこからその赤ちゃん専用の人体培養液を作れば早産児でも救えるかな?

母体もかなりしんどい思いはすると思うけど、命は救えるよ――でも、プラインエルフ族、だっけ……その種族に施術するのは初めてだから少し手探りになるけど理解してね。」


――え?


今、この吸血鬼族は助けになれるって言ったか?


しかも前の世界でもSF物の映画なんかでしか聞かない単語まで出てきたような。


聞き間違いか?


「やっぱり、ウルリケなら何とかなると思った。」


「ダンジョンに篭る前から生体の実験とか研究が好きだっただけだよ……時間はすっごいあったからね。」


どうやら聞き間違いじゃなく、ウルリケはカタリナと子どもを助けれると言っている。


だが手探りとはどういう事だろうか。


「あなた、手探りで神である村長の妻と子どもをどうにかしようとしてるの?」


シモーネが俺達の会話を聞いて、かなり凄んだ目で睨んでいる。


めっちゃ怖い。


「ひうっ……手探りっていうのは臓器の位置や身体的特徴を調べるだけで……!

 それが分かれば後は命ある限り最善の行動をしますぅ……!」


ウルリケが完全に気圧されてビビり倒しながらシモーネの質問に答える。


「自信はあるのか?」


俺はブルブル震えているウルリケに助け船を出すつもりで質問してみる、聞きたいことなには間違い無いし。


それにシュテフィが推薦するくらいだ、ふざけてないのであればその道では相当な実力者だと考えるのが妥当だろう。


「見てみない事には何とも……。

 ただ、通常通りの早産なら助かる見込みも自信も充分です!」


「頼む……カタリナと子どもを救ってくれ!」


俺はウルリケの肩を押さえ、叫ぶように頼みこんだ。


「では早速向かいましょう!

 少しでも早いほうがいいですから!」


「分かった!」


俺はウルリケの肩を抑えたまま施設の前まで瞬間移動をした。


ウルリケを案内しようとしても「え、あれ……?」と固まっている。


後で説明するから、今はカタリナと子どもを頼むぞ!

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