第373話 別視点幕間:ダンジョン攻略と聞いて浮かれているヒルデガルド。

私はヒルデガルド、女ながらリザードマン族の長。


でも今は未開の地の村という所で一族全て面倒を見てもらっている、長の仕事はここしばらくやってない。


そこそこの期間をここで過ごしたが、世界一安全で快適な場所だと言い切れるくらいには過ごしやすいのが分かった。


なんていっても村長が神様なうえに、世界に伝わる四大精霊が全て村の住民と契約しているし。


その四大精霊も村に住んでるうえに仕事をすれば衣食住が保証される、そんな場所はこの世界でここしかないだろう。


そんな快適な村で日常を過ごしていたある日、食堂で食事をしていたらダンジョンがあったというキュウビ様の声が!


何でもキュウビ様が一人で攻略するのを躊躇うくらいのダンジョンが見つかっているらしい。


今回のデパートは村の女性陣と買い物とやらに参加してみたかったけど保留で、ダンジョンは買い物より重要。


次の季節でもデパートはあるし。


後日行われた話し合いの場で意気揚々と参加を表明したが、キュウビさんが足を踏み入れるのを躊躇ったのを理由に参加者は少な目。


オスカーさんは少し不機嫌になったが、メアリーさんの提案でまずはそのダンジョンに偵察へ向かおうという事に。


偵察部隊にはオスカーさん夫妻の3人に参加表明をした6人、それにクルトさんとデモンタイガーのレオとトラ。


それに索敵魔術を使って調査するためにラウラさんとタイガと、帰還を容易にするためにミハエルさん。


デモンタイガーの3匹とはよく遊んだり組手をしたりして仲良しのつもりだから嬉しい、向こうもそうだといいんだけど。


でもタイガが索敵魔術を使えるなんて知らなかったなぁ、村長も確信は無いみたいだけど……ラウラさんが聞いてくれると思うから後で教えてもらおっと。




そして偵察部隊を編成してダンジョンへ出発。


村長も来ると思ってたけど、子ども達が寂しがってるので今回はパスらしい。


可愛い盛りだものね、仕方ないわ。


私もいつかローガーの子を……ふふっ。


おっと、今は集中しなきゃ。


何せ今から行くダンジョンの魔物の強さは未知、キュウビ様が躊躇するくらいの場所だもの。


「オスカー、そこの遺跡だ。」


オスカーさんの背に乗ったキュウビ様が下を指差す、もうすぐ到着だ。


戦いたくてウズウズする、磨き上げた両手短剣の技術を試すためにも先陣を切らせてもらわなきゃ!


近くに着陸してまずは野営の準備、これはこれで大事だから手を抜けない。


ミハエルさんが来てるし転移魔法陣を描けばいいのではと思ったが、誰も進言しないしやらないということはダメな理由があるんだろう。


まさかとは思うけど、村に脅威が及ばないようにするためなのだろうか?


この顔ぶれで誰かに負けるとは思えないのに……でも用心には用心をという事なのね。


「さて、野営の準備も終わりましたしそろそろダンジョンに侵入・調査するための話をしに――」


「はい!

 先陣を私に切らせて、手前のオークとオーガをやるわ!」


メアリーさんが作戦会議を始めたので私は即座に戦いたいと主張、こんな機会滅多に無いものね。


「いえ……まずは入り口前に向かってどうなってるか見ない事には……。

 キュウビさんの話では襲ってこないみたいですし。」


どうやら早とちりだったみたい、皆に笑われるし恥ずかしいなぁ……。




いざダンジョン前に、襲ってこないなんて眉唾物だと思ってたけど本当に襲ってこない。


「どうだ、何か作戦はあるか?」


「いや、もうこうなると正面切って突入以外に無いと思いますね……。

 しっかり入り口の警備をしてますし、後続にも槍を持ったオーガに弓矢を持ったオーク……そしてあれがナーガですか。

 全員こちらに気付いていますが襲ってくる様子もありません、恐らく敵意を見せた瞬間に戦線を前に出して襲ってくる算段なのでしょう――魔物にそんな知恵があるのに驚きですが。」


「ウルリケは魔物を手懐けようと躍起になってたから、それに成功してるのかも。

 改造なんてのも当時やってたと思うし、実験室に入った時は気持ち悪くて吐きそうになったのを覚えてるわ。」


「魔物を改造ですか……それに成功して知恵があると考えれば納得はしますね。」


何やら難し気な話をしてるけど、魔物だしさっさと倒しちゃえばいいと思うんだけどなぁ。


倒して中を探索すればいいのに。


「ラウラ、索敵魔術はどう?」


「ダメです、見えてる魔物以外何も反応はないですね。

 メアリー姉の予想通りあのダンジョンは入り口以外異空間です。」


「やはりそうですか、開様から高品質なダンジョンコアのダンジョンは異空間になるというのを聞いてましたので。

 吸血鬼一族の命の欠片は相当な品質をしていたのでしょう――これは思ったより厄介ですね。」


「ねぇ、さっさと倒しちゃダメなの?」


堪えきれなくて怒り気味にメアリーさんへ質問してしまう、こんなにうだうだするなんて思ってなかった。


後で謝らなくちゃ。


「すみません、シュテフィさんのお願いとウルリケという方の罠の警戒と未知の魔物全てを警戒するとどうしても……。」


「シュテフィさんのお願い?」


「ヒルデガルド、お主聞いてなかったのか?

 村での話し合いで話しただろう、ここは吸血鬼一族がかつて住んでいた里の跡だ。

 シュテフィはここにルーン文字の使い方を書いた本が残ってないか確認しに来ている――それの持ち主がウルリケという者だ。

 ダンジョンを倒壊させるような事を起こしてはならんということだよ。」


――そんな事いつの間に話してたんだろう、全然聞いてなかった。


でも両手短剣ならその心配も無いから行ってもいい気がするけど……援護が必要な時に遠距離攻撃でダンジョンが破壊されるかもしれないのね。


なら悩むのも仕方ない、私が聞いてなかったのが悪いので小さくなって反省。


……あれ、中の魔物の様子が何かおかしい気がする。


何かをこっちに訴えようとしているような、そんな感じ。


でもそうと見せかけて油断したところをザクリ――とかだったらダメだし今は反省中なので余計な事は言わないようにしておこう。


ってあれ、あいつら武器を床に置いて両手をあげてる!?


ナーガもとぐろを巻いて頭を後ろに向けてるし……。


皆は作戦会議で気づいてない、伝えたほうがいいよね?


「ねぇ皆、ダンジョンを見て。」


私の声に反応して皆がダンジョンを見ると、どこから出したのか分からないけど白旗をパタパタと振っているオーガが見えた。


皆は声も出ないのか口をあんぐり開けて固まってる、メアリーさんは頭抱えてるし。


……これ、ダンジョン攻略ってことでいいの?

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