第365話 適当に挨拶をして宴会に参加した。
天井裏からスーッと空中移動の要領でゆっくりと地面に降りる俺。
普段こういう儀式や式典のような事をするなら、この時点で司会進行をする人が何かしらアナウンスを入れて全員が俺に注目するだろう。
だが現在俺に気付いてる人は見えない、魔族領の領民どころから村の住人すら気づいてないぞこれ。
そもそも分かりづら過ぎるんだよ、何も合図をせずにわざわざステンドグラスを見ながら食事をする人はいないだろうし。
注目されるのも少し嫌だが、全く気付かれないのも寂しい。
何事も程々が一番という事だな。
「魔族領で解決出来ないことがあれば、未開の地の村を頼ってくれていいからな。
神である俺と住民が極力いい方向へ解決出来るように動くから。」
俺は少し大きめの声でそう言うとそのまま食事へ、この言葉も近くに居た人は気づいたくらい。
他の人は変わらず食事と談笑に夢中だ。
絶対失敗だろこの式典、とも思ったが……これは宴会だ。
それに神がこの場に居るというのは流石に分かっているはず、それでも変わらず日常を過ごせているのは宗教に縋らなくてもちゃんと幸せに生きれている証拠かもしれない。
そう考えるとこの状況でもいいかもしれないな、その分頼られたらしっかり助けよう。
「村長、神のようなお言葉を発せられてましたがどうしたんですか?」
色々考えながら食事をしていると、近くに居た魔族の人に話しかけられた。
「ん、どうもこうも俺が神だからなぁ。
ああして有難い言葉を~なんて言われたが、誰も聞いてないし……神に縋らなくていいならそれに越したことはないしいいだろう。」
先ほど自分の中で至った考えを伝えると、魔族の人は青い顔を更に青くして土下座をする。
なんだどうした。
「申し訳ございません、村から神が来られるという通達はありましたがまさか村長とは知らず……!
何か催しがあるのかと思って見る程度に留めてしまいました……!」
その人の土下座を皮切りに不安が更に伝播していく、この流れはまずい。
「大丈夫だ、俺が神になったことを領民が知らないのは魔族領にも考えがあっての事だろう。
俺はそれを気に病んで無い、そして俺は神になっても今までの生活スタイルを変えるつもりは毛頭ない。
今まで通りたまに魔族領に顔を出すし商売だってするつもりだ、その時は変わらない対応をよろしく頼むぞ。」
俺は極力遠くまで言葉が届くように大きめの声で思いを伝える、これで不安が少しでも消えてくれればいいが。
「しかし……。」
「遠慮なんてしてないから。
謝られるよりこの見たことない料理は何か説明してくれたほうが、俺は嬉しいぞ?」
「……っ!
分かりました!」
俺の気持ちが伝わってくれたのか、俺の言葉を聞いて笑顔を取り戻してくれた魔族の人は料理の説明をし始める。
食べたことない味だからか、原材料が分からないんだよな。
――名前を聞くとブルートヴルストというそうだ、原材料は腸詰めした動物の血だそう。
血って食べれるんだな……しかも変わった味だがすごく美味しいし。
血を食べなければいけないくらい困窮してるか不安になったがそうではないらしい、それを聞いて安心したよ。
ひとしきり料理を食べ終えて妻達に合流しようと探していると、少し離れた所からクズノハの怒声が響いてきた。
……多分向こうに居るだろうな。
そう思いクズノハの声が聞こえる方へ近づくと、だんだん内容が聞き取れるようになってきた。
どうやら俺の件のようだ。
仕方ない、魔王に助け船を出すとするか。
「まったく、何の説明もせず村長に無茶ぶりをしてどういうつもりじゃ!
しかも誰も気づくことなく終わったし、あれでは何のためにやったのか分からんではないか!」
「すまぬのじゃ……最近皆忙しく上手く伝達が出来てなかったらしいのじゃよ。
後で村長には私から詫びておくのじゃ。」
「当然じゃな、何故か知らぬが不安が広がりそうになったのが止まったのは幸運じゃったが。
しかしそこまで忙しい事はあったかの、我も大分魔族領で仕事をしておるがそこまで急務は見当たらなかったと思うのじゃけども。」
近づきながら2人の会話を聞いていたが、少しずつ険悪なムードは収まっていっている。
俺は行かなくても大丈夫か、と思ったが魔王の顔が明らかにおかしい。
クズノハの言葉の後目が泳いでいる。
「……どうしたんじゃワルター。」
「ナンデモナイノジャヨー。」
めっちゃカタコトになってるし、そんなんじゃ何かあると言っているようなものじゃないか。
「そうか、それならよいのじゃが。」
クズノハも気づかないのかよ、何であの状態の魔王を見て何も無いと思うんだ。
しかしあの会話の中に魔王が困るような内容はあっただろうか……これはこれで詳しく聞いておかないといけないような気がするな。
よし、ちょっと首を突っ込んでみるか。
――この宴会が終わった後でな。
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