第364話 魔族領で行われた宴会に妻達と参加しに行った。
ダンジョンの稼働を確認してから2日。
特に修正や追加で必要な物も無く過ぎているのでしばらくは大丈夫だろう、農業に俺が必要じゃなくなったものも大きいが――それより大きいのは農業に携わっていた人員が大多数別の仕事に回れるという事だろう。
今までは一斉にかかって手早く済ませていたがそれもしなくていい、何より生成速度を早めることが出来たらしく収穫すると1分くらいで新しい作物が目の前にポンッと出てきてた。
ゲームか何かだろうか。
下手したらゲームより快適まである、植え付けから収穫まで半自動はヤバい。
これがリアルか……もう俺前の世界に戻っても過ごせる自信が無いぞ。
「開様、準備出来ましたか?」
「あぁ、もうすぐ終わる。」
なんて考え事をしているとメアリーが俺を呼んで急かしてきた。
今日は魔族領で宴会と式典だからな、早く準備しないと。
しないとなんだけど。
昨日イザベルから渡された服が如何にも神様ですという見た目で少し恥ずかしい……実際俺は神になってるんだけどさ。
しかしこれ以上待たせれないしな……仕方ない、着るとするか。
「待たせたな、変じゃないか?」
着替えが終わり皆と合流して似合ってるかどうか確認、鏡は見て来たが自分じゃどうしても似合ってるかどうか分かりづらいし。
妻達からの返事は全員似合ってると言われて安心したが、ドリアードにはしこたま笑われた。
俺が真面目なのと民衆の神が持つイメージに引っ張られてて面白かったらしい。
後者はともかく前者は失礼じゃないだろうか――そう思ったが妻達5人に殺意のこもった視線を向けられてドリアードは笑うのを止めた。
「ひゅっ。」という呼吸が詰まる音を聞いたのは初めてかもしれない、もう言わないからやめてやってくれ。
大精霊が恐怖で体を震わせてるのは見てて可哀想だから。
「おぉ村長……いや、今日は神様と呼んだほうがいいかの?
よく来てくれたのじゃ。
最初に挨拶を済ませたら好きに飲み食いしてもらって構わぬ、ゆっくりしていってほしいのじゃよ。」
「いつも通りでいいよ、最近やっと自覚してきたくらいのものだし。
それにやる事も人間だった頃と変わらないからな。」
「それが懸命じゃな、よほど困っておらぬ限り神が個を助けるのは争いの火種になりかねん。
領民にはそのあたり通達をしておるが、願い事をされても聞き流してくれて構わんぞ。」
頼られているのを無視するのは心苦しいが、今の立場では仕方ないだろうな。
「大丈夫ですよ魔王様。
村として聞き入れるかどうか決めるために村長の妻である私達が同席しているので。」
すごい真面目そうにメアリーが魔王に返事をするが、転移魔法陣をくぐるまでは魔族領のグルメについてしこたま皆と話していたのを俺は聞いている。
でも口には出さないでおこう、この世は神でも言っちゃいけない事がある。
「流石頼もしいの。
何でも奥方達も不死になり村長と共に世界を治めてくれるとか……これは魔族領も村長の村に帰属することを考えてもいいかもしれんのじゃ。」
「そんな事我が許さぬぞ。
村に帰属すれば生きるのは容易い、だが領民はそう簡単に慣れぬ……それに魔族の成長を考えるなら今の生活をするのが一番じゃろ。」
「むぅ、冗談じゃったのに。
クズノハは手厳しいのじゃ。」
クズノハの言葉には一つ間違いがある。
人間だけじゃなく魔族も、美味しい食事と楽な環境があればあっという間にその環境に慣れる事が出来るぞ。
グレーテがそうだったからな、魔族も大体同じなはずだ。
問題があるとすれば、魔族領の総人口に仕事を割り振ることが出来ないということくらいか。
むしろそれが一番問題なのでいきなり帰属するのはやめてほしい。
「では宴会までこの部屋でゆるりとしててくれ。
時間になれば衛兵を迎えに出すからの。」
そう言って魔王は部屋を後にする。
……ここ謁見の間なんだけど?
「わー、魔王の玉座の座り心地すっごいわね!」
ドリアード、子どもみたいなことをするのはやめなさい。
1時間ほど謁見の間で待機していると、衛兵の人が俺達を呼びに来た。
「大変お待たせしました。
宴会の準備が整いましたので、私に付いてきてください。」
「分かった。」
あまりに暇だったのでカタリナが隠し持ってきていたトランプをしていたが、途中で切り上げて宴会へ向かう。
結構白熱してたんだけどな、また今度再戦するとしよう。
要人専用の通路を通り、宴会場になっている神の神殿へ。
「では奥様方はあちらへ。
そんちょ……神様はこちらへお願いします。」
「村長でいいぞ。」
もしかしてこのやり取り毎回しないといけないのだろうか。
神として魔族領と人間領に通達を出しておいたほうがいいかもしれないな、神様より村長と呼ばれるほうがしっくりくるし。
しかし衛兵に連れられて歩いてる場所が気になる。
こっちって天井裏に繋がる通路があるだけだよな、なんでこんなところに連れて来られてるんだろう。
「天井裏からゆっくりと床へ降下しながら領民へ有難い言葉を向けてほしいと、魔王様からの伝達です。
では……よろしくお願いいたします。」
ちょっと待って、何も聞いてないぞ。
「有難い言葉って、何を言えばいいんだ?」
「さ、さぁ……。」
魔王め、無茶ぶりしやがって……せめて前もって言ってくれてたら何か考えたのに。
妻達がだけど。
しかしどうしたものか……ん?
悩んでいると近くに植物を植えている鉢を発見した、これはついてる。
ドリアードに念話を送って相談するとしよう、もしわからなければ妻達に何か案を出してもらえばいい。
『ドリアード、ちょっといいか?』
『よくないわ、今料理取ってるから。』
開口一番拒絶されて念話が切れてしまった……嘘だろ?
というか既に飲み食いが始まってるのか、もう誰も俺の話なんて聞かないだろこれ。
もういいや、適当に出て行って皆に紛れ込むとしよう。
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