第239話 温泉製作の作業が全て終わった。
「ふー、これでいいわ。」
「こっちも終わったわよ。」
カタリナとミハエルの魔法陣が書き終わる、これでいつでも作業を再開出来るな。
穴を開けるときにミネラル成分を含んだものを思い浮かべて周りを固めたし、これで準備万端かな?
「よし、それじゃあ地上に戻って配管作業をしようか。」
そう言って全員で帰る、ウーテは待機しててもよかったが「暗いところに一人で居るなんて嫌!」ということで一緒に帰還。
確かに何の光も無い空間に一人で居ると気が狂うと言うし……戻って正解だろう。
配管に使う素材に悩んだが、1回地震もあったし耐食性・耐震性・強度すべてに優れた素材を探す。
結果としてはオレイカルコスが採用、この金属便利すぎるだろ。
ケンタウロス族に運んでもらって、最初にカタリナが書いてくれた魔法陣から男湯・女湯の湯船に配管を伸ばす。
カタリナの書いてくれた魔法陣に余ったオレイカルコスで貯湯タンクを作製、オーバーフローしたお湯は排水管に流すようにすれば問題無いだろう。
「よし、これで完成かな?」
「村長、これは何?」
ウーテはバルブを指差して質問する、確かにこの村じゃ初めて使うものだからな。
「これはバルブと言って、ひねることで配管の開閉を行うものだ。
掃除の時にお湯が出っぱなしだと時たま面倒もあるだろう、これで自由に給湯を止めることが出来るんだよ。
止めたらさっき作ったタンクにお湯が溜まって、余剰分は排水に流れていく仕組みだな。」
俺は
この世界で一番役立ってる知識かもな、あの時の先輩は厳しかったが今はかなり感謝している。
「なるほど、確かに能力で出したものは私じゃないと止めれないからこれはいいかも。」
「これ、厨房のドワーフ族に教えれば革命が起きるんじゃない?
給水所から水汲みをする係が居るくらいだもの、きちんと水を配管で運んであげたらもっとやりやすいんじゃないかしら?」
「え、そんなことになってるなんて俺知らなかったぞ。」
カタリナから思わぬ事実が話されてびっくりする、もしかしてシンクのようなものも無い状態で料理しているのだろうか……。
もしそうなら確かに革命が起こるかもしれない、それよりそんな状態であの量の料理を常に作るドワーフ族に若干の恐怖を覚えた。
手際良すぎじゃないか?
だがそれは後でやることにしよう、今はこのお風呂の試運転が最優先だ。
「それじゃあウーテ、地下でお湯を出してきてくれ。
温度は沸騰するちょっと手前で頼む。
それとカタリナ……悪いんだが水の温度調整って魔法陣で出来るか?」
ある程度熱くないとミネラル成分は溶けださないだろうし、もし冷め切らなかったらとんでもない熱さのお湯が給湯されてしまう。
「あのタンクの中にある魔法陣を直せばいいのね……仕方ないか。
すぐ終わるからちょっと中に入るわね。」
そう言ってカタリナは取り付けておいた梯子を上り、中に入って魔法陣の手直しを始める。
頭に完成形を描いておかないとダメだな、行き当たりばったりではこういうことが起きやすいし。
もしかしてメアリーやカタリナはそうやって物事を考えているのだろうか……というか他の人はそうしているのかもしれない。
俺の思考の仕方が要領悪いだけだろうな、今後注意しておかなければ。
「終わったわよ、前のお風呂と同じ温度にしたわ。」
湯船の温度って人によって様々だよな、ちなみに俺は41度が適温。
39~42度くらいで結構揉めたりする、1度変わるとかなり変化を感じるからな。
「よし、それじゃあウーテにお湯を出してもらうか。
よろしく頼むぞ。」
「分かったわ、すぐ帰ってくるからね。」
ウーテは魔法陣に入り、すぐさまこちらに帰還。
能力を使って帰ってくるだけだから一瞬だろう、ミハエルはウーテが帰って来たと同時に魔法陣を消し始める。
「もし誰かが入ったら大事故だから忘れないうちにね。」
確かにそれは大事故だ、消してくれてありがとう。
しばらくしてお湯がどんどん流れ込み、お風呂として機能するように。
「ちょっと濁ってるけどホントに大丈夫なの……?」
カタリナが不安げになっている、ウーテとミハエルも同様にお湯を触って確かめているが不安は拭えなさそうだ。
「大丈夫だ、温泉とはこういうものだから。
さて、作業者の特権だ……一番風呂をもらおうじゃないか。
皆着替えを取ってきて入ってみてくれ。」
「村長がそう言うなら……。」
こればっかりは入ってもらわないと説明出来ないからな、どれくらい気持ちいいか自分の感覚で確かめてもらうしかない。
しかしよくよく考えるとほぼ源泉かけ流し、贅沢だなぁ。
俺も着替えを取りに帰りウキウキで温泉に入る、3人はまだ着替えを選んでいるのだろう。
まだ日も高いからな、寝間着や部屋着になるのは憚られるのかもしれない。
俺はしっかりと部屋着だけど、温泉に入ってその後仕事なんてやってられるわけがないし。
温泉に入った感想としては最高、最早これは完璧なんじゃないだろうか。
今まで普通のお湯に入っていたのが馬鹿らしくなるくらい気持ちがいい、浸透圧とやらがいかに大事かがよくわかる。
疲れも取れる気がするし体も早く温まる……大成功だな。
隣からは3人の声が聞こえる、聞いた感じかなり恐る恐る入っているのだろう。
「なにこれ、すごーい!」
「すっごい気持ちいい……やばい……!」
「はーっ……さいっこう……。」
三者三様の意見が聞こえるが、大好評のようでよかったよ。
気持ちよさで忘れていたがバルブや排水周りもきちんと機能しているか確認しないとな――よし、大丈夫そうだ。
俺は少し名残惜しいが外に出る、看板を片付けないと誰も温泉を利用出来ないからな。
だがこれからはいつでもこの温泉を使えるんだ、名残惜しく感じることもない。
俺はウキウキで看板を外して食堂へ行きビールを飲む、ホットワインもいいが温泉あがりと言えばやっぱりビールかコーヒー牛乳だな。
そういうばコーヒーってこの世界で飲んだことないな、機会があれば探してみるとしよう。
それより明日は厨房の改装とアンケートの集計をしなければ……だが今は温泉が出来た喜びを嚙みしめたい。
俺は幸せを実感しながらビールと唐揚げを口に運ぶ、早く皆も利用して俺の気持ちを理解してほしいな。
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