第234話 デパート最終日、やることが多いが一つ一つ潰していくことにした。
今日はデパート最終日。
昨日しっかり休むことが出来たし流澪のおかげで体もすこぶる快調だ、俺の体ってこんなに軽かったんだな。
知らず知らずのうちに疲労が溜まってることを痛感する、休める時にきちんと休んで体をほぐさないとな……日々のストレッチを大事にして過ごそう。
今日はカタリナとの見回りで休憩場所を増設しようと思ったが……いきなり村の施設に変更が入るとデパート利用者に迷惑がかかるかもしれないので終わったらにしよう。
利用者の事を考えるとすぐにしたほうがいいのかもしれないが、ただでさえ少なくなってる人手を割いてしまうと他の仕事に抜けが出るかもしれないし。
なので今日はデパートの中を軽く見回りしたあと、温泉の計画について流澪ともう少し話をしよう。
昨日の話し合いでは入浴剤についての話が主だった理由だからな、ウーテの能力を地下に使って疑似的な温泉を作れないかと思いついたので聞いてもらわないと。
それとアンケートの回答率がどうなってるかもプラインエルフ族に聞いてみないとな、村の食事が無料だからいい回答率だといいけど……結構食堂や広場で食事をしている人を見かけたしそうだと信じたい。
やることが多い、だがこれも俺の仕事だし間違いなく村のためになる――頑張らないとな。
俺は自分を鼓舞してやれることを一つずつ終わらせようと思い、まずはデパートに向かった。
デパートは相変わらず大盛況、倉庫を作ったおかげか前回のように品薄状態が続くようなこともなくお客の回転率も高い水準だと思う。
店を切り盛りしている人達もしんどそうだが楽しそうでもある、利用権の転売騒ぎがあるくらいだからお客の質は心配だったんだが問題無さそうだ……と思ったら少し騒ぎになっているところが見える。
俺は人混みを上手く避けながらそこへ向かうと、ドラゴン族とウェアウルフ族に別室へ連れて行かれるのが見えた。
にこやかに怒っていたしお説教があるのかもしれないが覗くのはやめておこう、後で何があったか聞けば済む話だし。
それを見た他のお客は「ありゃ怖いよ……どの憲兵よりも怖い。」とひそひそ話ながら買い物を続ける――お客の質は見回りの住民によって保たれているのかもしれない。
だが悪いことに悪いと言える環境はいい事だ、それでもゴネてくるような人は利用をお断りしても問題無い。
根も葉もないクレームを真に受けてこちらが対応するのは間違ってるし、そういう声を聞いて利用をやめようと思う人は総じて質が悪いイメージがある。
真っ当にしていれば大多数の人には分かってもらえるはずだ、そう信じているからこそ騒いでる人を別室に連れて行ったのだろう。
こちらが悪ければ誠意をもって謝らなきゃダメだけどな。
その後1階から3階までぐるっと回ったが特に問題は無さそうだし、盛況なのも変わりない。
デパートは大丈夫そうだ、次は流澪の所へ行って温泉のことについて話すとしよう。
「流澪、居るかー?」
俺は流澪の家をノックする、研究施設に行ったが誰も居なかったしデパートでも見かけなかった。
あの人数全てを見分けることは出来てないだろうが、多分居なかったと思う。
「ちょっと待って、すぐ行くから。」
少しすると流澪の返事が聞こえた、良かった家に居たみたいだな。
「お待たせ、村長が家まで訪ねてくるなんて珍しいわね。」
「昨日のお風呂の件について新しいことを思いついたから、可能かどうか聞いてほしくてな。
ウーテの能力を地下に使えば疑似的な温泉を再現出来るんじゃないかと思って。」
俺は思いついたことを率直に伝える、もっと難しいことが地下で起きているかもしれないが……結局は熱と水流で地中の成分が水に溶け込んでいるだけのはず。
それを再現してやれば出来るんじゃないかと思ったんだが……流澪の顔が難しい表情になっている。
やっぱり突拍子も無いことだったろうか。
「確かに……わざわざ湯船に成分を溶かし込む必要も無いのよね。
フィルターもいい案だと思ったけど交換が面倒だし、直接温泉を湧かすことが出来ればそれが一番よ。
地盤沈下なんかが少し心配だけど、もし温泉でそんなことが起きてるなら私達が住んでた国は今頃穴だらけだし大丈夫だと思う。
ミネラルは地中から湧き出てくるうちに溶け出すでしょうし、汚れに関してはろ過装置を作れば交換も頻繁に行わなくていいはずよ。」
思ったより前向きな答えを得ることが出来た、俺は温泉好きだし出来るなら早く改造したいのだが……ろ過装置なんて詳しくないぞ。
「私も温泉入りたいしちゃっちゃとろ過装置の準備を始めましょ。
私はダークエルフ族から炭、ケンタウロス族からタオルを作ってもらってくるから、拓志はミノタウロス族から砂と砂利、それに小石をもらってきて。」
分かった、と返事をしようとしたがふと思いついたことがもう一つ。
フィルターをわざわざ作らなくても、生活魔術でろ過に近いことを行う事は可能なんじゃないだろうか?
貯水場だって生活魔術で施した魔法陣で飲み水になるまで浄化されているわけだし、汚れを取るのなんて訳も無い気がする。
俺はそれを流澪に伝えると「生活魔術ってそんな事も出来たの!?」と驚かれた。
そうか、流澪はそのあたり詳しく知らなかったんだよな……伝え忘れててすまない。
「ろ過も考えなくていいなら、後はボーリングとその底に広めの空間を作ることくらいかしら。
ボーリングって言っても調査するわけじゃないから、大きい穴を開けて底まで降りた後ウーテさんに能力を使ってもらって出てきたら完成かしらね。
後は配管をすれば終わり、私することないじゃないの。」
一瞬玉を転がすボウリングかと思ったけどボーリング調査のボーリングか、いきなり何をするのかと思った。
しかしそれなら俺とウーテの2人で可能だな、明日にでも取り掛かるとしよう。
「意見をくれただけでも有難いよ、俺一人じゃ想像の域を出なかったし。
前の世界にあった案に具体的な意見をくれるのは流澪が一番だからな、頼りにしてるよ。」
「ぅん……ぁりがと……。」
俺が素直に褒めると流澪は照れくさそうにもじもじしている、返事もいつもと考えれないくらい小さい声だ。
褒められることに耐性が無いのだろうか、それならどんどん褒めて慣れさせてやらないと。
自己肯定力を高めるためにも他人に褒められるのは重要だし、自分で自分を褒めるのはもっと大事だけど。
「あのさ。」
ふと神妙な顔をして俺に問いかける流澪。
「どうした?」
大事な話だろうか、俺も少し構えて返事をする。
「それなら、さ……私を拓志の家に住まわせてよ。
研究施設に行くときは居ないけど、それ以外はどんどん意見出してあげるしさ……。」
流澪が急に大きな願いを伝えてきてびっくりしてしまう、気持ちを知っていてもあまりに突然だ。
……いや、突然ではないのだろう。
流澪自身色んな所で機会を伺っていたみたいだし、妻達にも相談や協力をお願いしていたみたいだからな。
だが、俺は気持ちを伝えられたら流澪に問おうと決めていた質問がある。
「俺の家に住むという事は、メアリー・ウーテ・カタリナの3人の妻と一緒に住むということだぞ?
子ども達だって居るし、することだってしている……流澪が俺の家に住むと言うのは夫婦になるという解釈になるがいいのか?」
俺は流澪の気持ちがそうなのか確認する、俺がすると決めた質問はこれじゃない。
「うん……そのつもり。」
20歳にも満たない流澪が真剣な表情で返事をする、本気なのだろうな。
「しかし、見て分かる通り前の世界のように一夫一妻制ではない。
この世界の女性は一人の男が複数の妻を持つことに何の抵抗も無いからな、そのあたりの心構えは大丈夫か?」
俺がしたかった質問はこれだ、男の俺でさえ最初は抵抗があったからな。
女性である流澪はもっと抵抗があるだろうが、そのあたりはどうなのだろうか。
「それは大丈夫、郷に入っては郷に従えというし。
それに前の世界でもその風習に疑問は持ってたのよ、自分がその人の子を成したいって思ってるのに他の問題が介入するなんてちゃんちゃらおかしいって思ってたのよね。」
思いの外大丈夫そうでよかった、俺は一夫一妻制に疑問を持ってなかったからその考えには驚きだが。
常識に囚われないからこそ、色んな知識を持っているのかもしれない。
「しかし一回り近く年が離れてる俺でいいのか?」
俺もまだ若いつもりだが、流澪は文字通り若いからな……この先もっといい人が見つかるかもしれないのに俺で妥協してないか不安ではある。
「同じ前の世界出身っていうのもあるけど、私を損得勘定無しで助けてくれて真っ直ぐ評価してくれたのは人生で拓志が初めてだったから。
あ、正直に言うと顔の好みからは少し外れてるわよ?」
前半は嬉しいが後半は少しグサッと来るものがある、自分の事をイケメンとは思ってないからいいけどさ……。
「……まぁ、流澪が心に決めてるなら俺の返事はOKだ。
改めてこれからよろしくな、荷物は今度運ぶのを手伝うから。」
「うんっ、よろしくね拓志!」
ようやく気持ちを伝えれて嬉しいのか、ものすごい笑顔で抱き着いてキスしてくる流澪。
普段からは考えれない行動にびっくりしてしまったが、驚きながらも流澪に答えてキスを返した。
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