第219話 カタリナが行方不明になった。

メアリーとウーテと俺で三手に分かれて居なくなったカタリナを捜索する、通りがかった人に聞いても知らないか見ていないという返事しか得ることが出来なかった。


「くそ、どこに行ったんだ……。」


焦る気持ちが口に出る、ここまで探して居ないなんて何かあったと考えるのが普通だからな。


俺は総当たりでカタリナを探す、途中心配してくれた村の住民も協力して探してくれることになった。


この村は広いが人が一人消えるとは考えにくい、せいぜい子どものかくれんぼで苦労するくらいのものだ。


「開様、カタリナは……?」


メアリーが肩で息をしながら俺に問いかけてくる、その質問があるという事はメアリーも見つけれてないか……。


「見つかってない、他の住民も手分けして探してくれているよ。」


「そうですか……しかしどこに行ったのでしょう。」


「俺は一度家に戻って何か手掛かりがないか探してみる。

 メアリーは引き続きカタリナを探してくれ。」


「分かりました、何か分かれば教えてくださいね。」


これ以上しらみつぶしに探すより、何かカタリナが残してないか確認しなければな……もし何も無ければまた探すしかないけど。


何かあってくれよと願いながら家をくまなく散策する、一応物陰なんかに隠れていないかも確認。


やっぱり居ないよな……書置きのようなものもカタリナの私室に無かったし。


望み薄か、そう思いながら書斎に入って机に目をやると、俺が置いた覚えのない紙が一枚置いてあるのを見つける。


何だろうと思い確認すると、カタリナの字で書かれた手紙だった。


『村長へ。

 いきなり姿を消してごめんなさい、ここでの生活が嫌になったというわけではないから安心してほしいわ。

 恐らく私は妊娠してる、それと同時に十日熱という致死性の高い病に罹ってしまったと思う……恐らく発症から4日ほど経っていると思うの。

 カール君、ペトラちゃん、ハンナちゃんも居る家にはもちろん村の住民に感染させる訳にはいかないから、一旦元プラインエルフ族の里に行って一人で治療を試みるわ。

 警備の人にバレないよう出ていったから、心配かけたらごめんなさい……それともしかしたら既に誰かに感染させているかもしれないから注意してね。』


「馬鹿野郎……!」


俺は手紙を握りしめて書斎を飛び出す、そして広場まで走り大きく息を吸い込み思いっきり叫んだ。


「誰でもいい!

 十日熱について知識のある人は広場に集まってくれ!」


生涯で一番大きな声を出しただろう、たった十数文字の言葉を発しただけなのに喉が潰れるように痛くなった。


俺の声を聞いた住民や魔族は一斉に俺を見てざわつきだす、誰も知ってる人はいないか……?


そう思っていると何人かが俺に近づいてきた。


ハインツ・ザスキア・ヒルデガルド・グレーテの4人。


「十日熱のことで叫ばれていたようですが、まさかカタリナさんが……!?」


ハインツが来るや否や即座に察する。


「その通りだ、あいつ十日熱に罹ったからと行って元プラインエルフ族の里へ一人で向かってしまったんだよ。」


「まったくあの子は……人には優しくして自分に厳しくするクセにも度がありますね。

 帰ってきたら注意しないと。」


薄々俺もそういうクセがあるとは思っていたが、ザスキアの言う通り今回は度が過ぎている……というかもっと頼ってほしかったな。


「でも本当に十日熱なら、被害が拡大する前に一人離れたカタリナさんは英断でもあるわよ。

 知識を持っている人だけがその場所に赴いて対応すればいいんだから、感染を最小限に抑えるには最高の一手だと言っていい……ただ不安と心細さに勝たないと出来ないけど。」


ヒルデガルドの考えを聞くと、カタリナなら有り得るかもしれないと考える。


カタリナもかなり頭の回転が速いからな、もしヒルデガルドの考えが当たっているなら書置きだけして黙って出ていったのも納得がいく。


それより十日熱だ、カタリナの思惑よりそれをどうにか解決しないと。


「十日熱というのはどういう症状なんだ?」


「その名の通りです、十日間ほどの高い発熱と体の痛み……それに倦怠感や食欲の減衰に咳や喉の痛みもありますね。

 それとこれは経験談なのですが、状態異常回復魔術は十日熱に効果を発揮しません。」


グレーテが俺の質問に答える、しかし状態異常回復魔術が効かないのは厄介だな……。


だが症状を聞く限り風邪のようなものだろうか、十日間くらい続いて治るなら別に自身を隔離する必要なんてないだろうに。


「十日熱の恐ろしいところは、十日間症状が続けば高確率で死に至るところです。

 しかも感染力が恐ろしく高い病気でして……過去には里が半壊した種族も居たと聞いたことがありますよ。」


「魔族領でも昔に農村が1つ十日熱で全滅してるわ、それだけ恐ろしい病気なのよね……。」


ハインツとグレーテの情報を聞いて一気に不安が募る、そんな危険な病気なのか……!?


「治療法は無いのか!?」


「村長落ち着いて、根本的な治療法は無いけど解熱薬の調合は私が出来るから。」


俺を宥めるようにヒルデガルドが話す、落ち着きたいが不安が勝ってしまうんだ……許してくれ。


「確かに解熱薬が一番かもしれません、ただカタリナの体が十日熱に勝てるかは時間が経たないと……。」


5人で話していると、騒ぎを見つけたウーテとメアリーがこちらに向かってくる、ウーテの背には流澪も乗っていた。


俺は3人に事情を説明。


「そんな……カタリナが十日熱!?」


「しかも妊娠してるかもって……大丈夫なの!?」


メアリーとウーテの顔は真っ青に、妊娠の事を話してなかったので他の4人も顔は真っ青になる……ザスキアは相当辛くなったのか倒れそうになっていた。


流澪はずっと考え込んでいる、何かブツブツ言ってるし。


「流澪さん、何か思い当たることがあるんですか?」


「今回カタリナさんが罹っている十日熱とよく似た病気が、私と拓志が居た世界でもあるのよね。

 でもこの世界では病気に対する根本的な対処法が成ってないわ、とりあえずカタリナさんを迎えに行くわよ。

 拓志はインフルエンザの予防接種受けたことあるんでしょ?」


「あ、あぁもちろん。」


「症状と死亡例を聞く限り十日熱は十中八九インフルエンザよ、未開の地の里と農村の共通点は衛生管理と栄養管理が徹底されてないこと。

 不衛生な場所で精神論と根性論のようなもので治療しようとしたって悪くなる一方よ、インフルエンザだって致死率はものすごく高いんだから。

 きちんと掃除した部屋で綺麗な布団と綺麗な空気、それにしっかりと栄養と水分を取って解熱薬を飲ませればカタリナさんはまず間違いなく助かるわ。」


流澪って本当に18歳なのだろうか、俺より明らかに頭も良くて大人な気がする。


気が動転してたのもあるが、インフルエンザなんて思いもしなかった……この世界に来て初めて病気と対峙したのもあるけどさ。


「ウーテさん、拓志と私を乗せてプラインエルフ族の里まで飛んでくれる?」


「もちろんよ!」


「ありがとう、それじゃあヒルデガルドさんは解熱薬の調合を、ザスキアさんは村長の家を生活魔術でピッカピカにして窓を開けて空気を入れ替えておいて。

 ハインツさんは消化に良い食べ物とあっさりしたお肉料理、それにサラダをドワーフ族に作るよう頼んでほしいの。

 グレーテさんはカタリナさんと接触したであろう人に声をかけて、症状が出たらすぐに私に教えてくれるよう伝えてくれるかしら。」


「「「わかったわ。」」」


「すぐに伝えてきますね。」



流澪が4人に指示すると、しっかり4人はそれに答えて動き出す……俺より村長してる気がするな。


「では私は3人が帰ってくるまで村長代理を務めます、どうかカタリナを助けてやってください。」


「もちろんそのつもりだから安心して。

 メアリーさんにもカタリナさんにも借りがあるんだから、こういう時に返さないと!」


そう言って張り切る流澪、いつの間に借りなんか作ったのだろうか。


だが助けてくれるのは有難い、抗体を持ってるのは俺と流澪だけだろう……しっかりしなきゃな。


「よし、それじゃあ準備が終わればまた広場に集合という事でいいか?」


「私も準備を手伝うわ、ウーテさんもお願い。」


そういって3人で倉庫に向かって必要な物を持っていく、カタリナのことだしポーションは既に試したんだろうが念のため持っていっておくか。




話し合った結果布団と氷嚢、アルコール度数の高い酒と飲料水を持っていくことに。


酒は消毒に使うらしい、スピリタス程ではないだろうが度数の高い酒と氷をドワーフ族に見繕ってもらった。


布団はケンタウロス族から今日出来た分を貰って準備完了、さあカタリナのところへ向かうぞ!

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