第183話 人間領で起きた騒動が無事解決、そのまましばらく滞在することになった。
テンガイと大臣の捕縛は無事完了したので、ダンジュウロウが捕えられている牢へ向かっている道中。
「流澪、”テンガイとの関係”を切ったと言ってたが……流澪自身に何か変化はあるのか?」
もしかしたら今後概念を切る可能性もあるし、そこは意識しておいたほうがいいと思い問いかけてみる。
「私には特に無いわね、テンガイがどういう人物かどうかというのは分かってるしどういう関係だったかも記憶にある。
恐らくだけど、テンガイは私という人物の記憶がすっぽり抜けてダンジュウロウという人物を捕えて人間領を自分の手にしようとしている記憶だけが残っていると思うわ。
テンガイの表情を見て何となく感じたことだけど。」
流澪自身に変化は無いが相手に変化があるという事か、あの神も面倒な能力を作ってるなぁ……。
記憶の相違で物事が混乱するとかは考えなかったのだろうか、完全に能力の使用が自己責任になっているぞ。
それを言えば俺もか、自制しているがこの世界の経済を破壊するには充分な力を持っているし……やっぱり神の力というのはそういうものなのかもしれない。
「とりあえず後はダンジュウロウを救出して終わりだと思うが、流澪はこの先どうするんだ?」
一応村に家を作っているが聞いてみる、あくまで切った概念はテンガイとの関係だけだし……他の人物は流澪の記憶は残っているだろう。
人間領に戻ってそこで第二の人生を謳歌するという選択肢も充分にある、何しろ最初の転移先は人間領だったんだからな。
「あの村に戻ってそのまま住むつもりだけど?
だってお風呂が無いのよ、水浴びをする場所はあったけど……あれ冬も水ってことよね?
そんな地獄は死んでもごめんだし髪が痛んじゃう、私これでも18歳なんだからその辺は気にするわよ?」
制服を着ているからもしかしたらと思ったが、やっぱり若かったな……俺より一回り弱も違うのか。
若くして運動をしているって羨ましい、俺は中高と帰宅部だったし大学は文化系サークルだったから運動とは無縁の存在だったもんなぁ。
小学校の頃はスイミングに通ってたけど、それだけだ。
流澪と今後の事や前の世界の事なんかを話しながら歩いていると、キュウビが「牢に到着したぞ。」と声をかけてくれた。
幸い道中争った跡が無かったので平和的な解決が出来たのだろう、俺は安堵しながら牢へ入っていった。
入った先ではダンジュウロウが入っていた牢の壁に大穴が空き、鉄格子はひん曲がっていた。
他の牢に捕えられている罪人はガタガタ震えているし、ダンジュウロウは深いため息をついてるし……警備をしている兵士は気絶している。
「これは一体どういうことだ?」
道中とは打って変わって大荒れの牢に驚いてしまう、何があるとこうなるんだ。
「すみません、そこに気絶している兵士がテンガイという王子の私兵らしくって……話を聞いた限りでは今回の騒動を起こした王子だと思い威嚇行動を取ったんです。
武器はすぐに無力化したんですがそれでも徒手格闘に自信があったのか向かってきて、軽くいなして壁と鉄格子をこのようにしたら気絶しました。」
そりゃ気絶するよ、アニメやゲームじゃないんだから。
「拓志の村の住民は怒らせないでおこうっと……。」
流澪が村の住民に少し恐怖する、普段そんな事は無いから安心してほしい。
とにかくダンジュウロウが無事で良かったよ、騒動があったとはいえ五体満足で救出することが出来たからな。
「村長、ここに来たということはカタリナ殿から私が話したことを聞いたのだな。
予想の斜め上過ぎる結果だが救出してくれて礼を言う。」
話し方が固いなと思ったがここは人間領だったな、王の威厳を醸し出している口調と態度だ。
テンガイとは大違いだな、先に産まれただけで王位継承権第1位になるのは破綻しそうだから今後止めたほうがいいと思う。
「話を聞いた時はびっくりしたが何とかなって良かった。
恐らく建物を破壊したのはここだけだ、
いつでも自由に出入り出来るくらい風通しが良くなっているが、投獄された身のダンジュウロウは律儀に牢の中で座っていたので外に出てもらう。
そして
「流石村長だな、この騒動が終わればその力を借りるため依頼することもあるだろう。
このような事があって大変心苦しいが、今後も人間領と友好な関係を続けてもらえるだろうか?」
「それはもちろんだ、俺はそのためにダンジュウロウを救出しに来たんだからな。
ただ異世界から人間領に転移してきた流澪は俺の村に住みたいという意思表示をしている、それに関して人間領は問題無いか?」
転移してきた先に住むという決まりは無いだろう、そもそも異世界転移者自体が異質な物だからな。
だが数日とはいえ流澪は人間領の世話になっているし、聞いておくべきだろう。
「もちろんだ、王位継承権第1位王子テンガイがした仕打ちを考えれば人間領に縛り付けることなど出来ぬからな。」
流澪はそれを聞いてほっと胸をなでおろした、もし何か因縁をつけられて人間領に住めと言われるかどうか不安だったんだろう。
「さて、私は未だ囚われの身なので牢の中に戻らせてもらうとするよ。
王位継承権第15位王女リッカよ、王族権限で会議を開き私の解放の可決を取ってくれ。
解放さえしてくれれば後は私が全てを引き継ぎ処理する、頼んだぞ。」
「分かりました、謹んでお受けいたします。」
リッカは跪いて返事をする、これは俺が思っていたより何倍も厳しい環境で育ったのが分かる一場面だった。
話がまとまり一度牢から出ようとした最中、外が騒がしくなってきていることに気付く。
テンガイの私兵が騒いでいるのだろうか、もう直属の上司は囚われているのに頑張るものだ……と思ったがどうやら様子が違う。
「少し様子を見てきます。」
そう言ってウェアウルフ族が外の様子を伺いに行こうとした時、1人の兵士が牢に転がり込んできた。
「だ、ダンジュウロウ様はいらっしゃいますでしょうか!?」
「うむ、ここだ。
緊急時と見える、だが息を整え正確に状況を報告せよ。」
そう言われた兵士は一度深呼吸をして落ち着きを取り戻し、姿勢を正してダンジュウロウと向き合った。
「領民がダンジュウロウ様を解放せよと騒動を起こしております!
ここに見られる未開の地の住民に負けていられない、これが領民の総意だと明確な意思表示をして城門を破らん勢いですが……。」
「これから王位継承権第15位王女リッカに王族権限で会議を開いてもらう、領民の意思は私と会議の主催である王女リッカに届いておると伝えよ。」
「承りました、そのように伝えてきます!」
「俺も行こう、今回の騒動が落ち着いたことを俺達の口から伝えれば騒動が収まるのも早くなるはずだ。」
俺は兵士と一緒に領民の前へ行くことを伝え、この場は解散。
リッカは会議を開くための手続きや準備をするため一旦別行動、他の住民達は俺についてくるみたいだ。
中庭に出てオスカーの背に乗り門の外を見ると、全領民が集まったんじゃないかというくらい人がごった返している。
前の世界で行われていたアイドルのライブや大規模同人イベントより人が押し寄せているんじゃないだろうか。
一度着陸して別の通用口から兵士と外に出て領民へ今回の騒動が解決したことを伝える、それを聞いた領民は人間領が揺れんばかりの大歓声でそれを喜んだ。
それを見た俺は間違ったことをしてなかったと安堵する、差し出がましい真似だとは思ったが……俺の思いは流澪とダンジュウロウの為と村の利益のためだけだったからな。
人間領そのものを救うつもりはなかった、結果としてそうなっただけだし。
だが人間領の領民が皆テンガイのような考えじゃないと分かっただけでも安心だ、これからの交易でも仲良くしてもらいたいものだ。
キュウビ達を迎えに行くと、他の王子と王女が兵士を連れて駆けつけてきてくれたらしくテンガイと大臣の見張りを変わってくれていた。
「さて、リッカが残っているが恐らく全て終わるまでそこそこな日数がかかるだろう。
俺達は一旦村に戻るとするか。」
「そうですね、リッカさんを待ってもいいですがお金を持ってきてないので滞在出来ませんし。」
「私としては人間領の印象回復のために色々紹介したかったが仕方ないな、そのようにするか。」
皆と話していると、それを聞いた王子がこちらに駆け寄って来た。
「人間領を救ってくださった皆さんをこのまま帰すなんてとんでもありません、人間領の沽券にかかわります!
お金など必要ありません、王位継承権第15位王女リッカが村に戻れるようになるまで城へ滞在していってください!」
思わぬところから滞在の支援が入った、まさかそんな事を言われるとは思ってなかったな。
「じゃあそうさせてもらうよ、ただ村への報告もあるから一部の人は村に帰ってもらうが問題無いか?」
「分かりました、また人数が分かれば私に声をかけてください。
客室の準備をさせていただくので……御前様、お久しぶりで申し訳ないのですがそれまで先ほど仰っていた人間領の案内をしてくださいますか?」
「もちろんだ、私が育て上げた所も多々あるのだ。
このようなところでしかあの村では自慢出来ん、存分に案内させてもらおう。」
しばらく人間領に滞在することになりそうだな、俺はオスカーとシモーネ以外のドラゴン族とウェアウルフ族を村に帰すよう指示して、キュウビの案内で人間領を回ることにした。
せっかくだ、存分に楽しみながら勉強させてもらうとするか。
王子には残る人数を伝えて部屋を後にする、伝えた後「思ったより少数ですね……。」と少し残念がられた。
別に人間領が嫌とかじゃないからな、そんなしょぼくれた顔をしないでくれ。
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