第182話 人間領の王子と大臣を無事捕えた。
人間領の城の中庭に到着、海側を見るとウーテの能力で海水が天を貫くような高さの壁になっている……とんでもないな。
城内は俺達と海を見て大騒ぎになっている、泣き声や叫び声……それに何とか統率しようと指示を出す声と様々だ。
「お騒がせして申し訳ない、王子と大臣さえ捕えることが出来れば何もしないから安心してくれ。」
近くに居た衛兵にそう告げると、ドラゴン族を見て固まったまま頷くことしか出来なくなっていた。
とりあえず通っていいみたいなので通してもらおう、失礼します。
「ではダンジュウロウ様の救出部隊は牢へ向かってください、無闇に建物を破壊しないようにだけお願いしますね。
ダンジュウロウ様の安全さえ確保出来れば、事が収まるまで牢の中で我慢していただいてもいいので。
王子と大臣の捕縛部隊はキュウビさんとリッカさん、それにシモンさんが先導をお願いします。
その後ろにオスカー様とシモーネ様、殿は他のドラゴン族の方々で――開様と流澪さんを中央で守るような隊列で進みましょう。」
それを聞いたダンジュウロウの救出部隊は返事をして牢に向かっていく、地図が完成してからそんなに時間が経ってないのに迷わず行くことが出来るのだろうか。
俺なんてショッピングモールの地図と睨めっこした後にしっかり迷子になれるのに、地図を正確に読める人は羨ましい。
決して読めないわけではないんだけど、慣れてない道や建物はしっかりとした目印が分かってないと迷ってしまうんだよな。
この世界ではまだ迷子になっていないが、人間領は少し入り組んでいそうだし城は初めてだから一人になると間違いなく迷子になる自信がある。
「流澪とやら、これを企てたのは王位継承権第1位のテンガイで間違いないか?」
キュウビがこの企ての主犯だと思われる名前を流澪に尋ねる、それを聞いたリッカは「やっぱり……。」と悲しそうに俯いた。
「えぇ、王子はテンガイと名乗っていたわよ。
キュウビさん……だったかしら、事が終われば少しお願いしたいことがあるんだけどいいかしら?」
「私で聞ける願いならな、まずはこの騒動を終わらせよう。
しかしテンガイめ、武力もいいが領民の事を考えないとついてこないぞと再三教えたんだが……まぁ転移魔術に目がくらんだ私が言えたことではないな。」
キュウビも少し残念そうな表情でテンガイとやらと大臣が居るであろう場所へ向かって歩いている、先導している3人の表情が全員暗いんだが大丈夫か?
俺は不安になりながらも隊列を乱さないようにしっかり着いていく、兵士が奥を守るために襲ってきてはいるが……ラウラが索敵魔術で兵士を見つけたのを告げ、オスカーがその度に前に出てものすごい速度で武器をへし折っているので何も問題が無い。
矢が飛んできても指でつまんで床に放り投げている、身体能力も動体視力もどうなっているんだ?
「ワシが先に進んで全員気絶させてきてやろうか?」
面倒くさくなってきたであろうオスカーがメアリーに問いかける。
「ダメですよ。
オスカー様が誰かを守ることを優先すれば、力を出し間違えて相手を傷つける事なく戦意をへし折れるので。」
なるほど、相手の事を思っての配置か……確かにオスカーが先頭を守ろうとすればどうしてもキュウビ達を守るための行動が最初になるからな。
「やることが無くて暇ねぇ……次の攻撃は私が住なすわ。」
シモーネが不満をオスカーに漏らす、そんな遊んでるような感覚なのか……?
その後はシモーネがしばらく攻撃を無力化した後武器を使えないように壊して歩を進める、この世の終わりのような顔をこちらに向けているのが分かるので必死に目を合わせないようにして前についていった。
道中でテンガイではない王子や王女と出会う、俺達から被害が及ばないよう避難する途中みたいだったが。
キュウビ・リッカ・シモンの3人が必死に呼び止めて理由を説明し、テンガイと大臣の居場所を聞き出す。
「ダンジュウロウが牢に入ったから代わりに施政をしているから謁見の間にいるのではないか、ということだ。
きついお灸が必要かもしれんな。」
キュウビが少し怒りながら歩みを早める、そんなキュウビを見たリッカとシモンの顔が青ざめていた。
怒ったらそんなに怖いのだろうか、そういえば怒ったところなんて見たことないな……というかこの世界で誰かが怒ったところを見たことが無い気がする。
怒りのあまりに傷つける事はしないでくれよと思いながら謁見の間の前に到着、ここにテンガイと大臣が居るのか。
「失礼するぞ。」
そう言ってキュウビが扉を開けると、大量の兵士がこちらに向かって襲い掛かって来た。
「異形種の間抜け共め!
外に居る兵士で全てだと思っただろうがあれは父に仕える兵士、この兵士達は私の私兵だ……父の兵士のようにぬるくはないぞ!」
玉座にふんぞり返ったテンガイがそう言い終わった直後、兵士の動きは止まっていた。
「テンガイよ、おいたが過ぎたようだな?」
キュウビが見たことも無いような笑顔でテンガイへ話しかける、あれは本気で怒っている笑顔だ。
「……御前様か!?」
テンガイが驚くと同時にキュウビの姿が巨大な九尾の狐へと変わっていく……何をする気だ!?
「見たところ私利私欲に走った愚行のようだが、どう落とし前を付けるつもりだ?」
顔を真っ青にして脂汗をダラダラと垂らしながら口を噤むテンガイと大臣、あのキュウビは怖いだろうな……御前様という名で活動していた時期がどうだったかは知らないが施政に携わっていたしどういう人物かは知っているのだろう。
王族の間では人ならざる者だという噂はあったみたいだし、この姿を目にしてそれが本当だと分かり圧倒的な恐怖と力の差を見せつけられている。
ちなみに兵士はこちらに突撃してくる姿勢で固まっている、メアリー曰くそういう妖術があるそうなのでそれを使っているのだろうとのこと。
テンガイが目線を動かしていると、流澪を見つけたのかニヤァと笑って流澪を指差した。
「流澪、こいつらの味方だと思わせてここに戻ってくるとは大儀だ!
お前の力でこいつらすべてを斬り裂け、それでお前の地位は安泰だ!」
「は?
何言ってるの、命の恩人に向かってそんなことするはずないでしょ。
こっちはあんたらを捕えに来たのよ。」
流澪は即答でテンガイの命令を一蹴する、それを聞いたテンガイはワナワナと体を震わせて怒号を飛ばした。
「この世界に来たお前を拾ってやったのは誰だと思っているんだ!
その恩を忘れたのか!?」
右も左も分からない状態であれこれ世話をしてくれるのは有難いだろうが、それを盾に人殺しをしろというのはお門違いだろう。
「確かにそれは有難かったわ、でも最初に言ったわよね……罪もない人を斬るのは嫌なの。
あなたの傲慢さにはほとほと呆れてるし、ここまで絶望的な状況でそんな態度を取ってる馬鹿さ加減も嫌になったわ。
怖いから使いたくなかったけど、貴方になら実験がてら試してみてもいいわね。」
そう言った流澪が刀を構えた直後、虚空に向かって振り下ろす。
するとテンガイの態度が急に大人しくなり、再び顔色を青くして頭を抱えて座り込んでしまった。
「何をしたんだ?」
俺は流澪が何かしたのだろうと思い問いかける。
「”テンガイと私の関係”という概念を切ってみたのよ、手ごたえはあったからこれで私とテンガイは無関係になったわ。
いざという時には便利ね、どうなるか試せてよかった。」
上手くいったからよかったものの、少し扱い方を間違えればとんでもない問題になりそうだな……。
それを聞いていたメアリーはすべてを理解したのか、テンガイと大臣を捕える指示を周りに送りそのまま捕縛。
キュウビも妖術を解いて兵士に何が起きたか告げて武器を下ろさせ、謁見の間で起きた騒動はひと段落だ。
さて、次はダンジュウロウの安否を確認しなければな。
キュウビとシモーネ、それと部隊の半数を謁見の間に残して俺達はダンジュウロウが捕えられている牢へ向かって移動しはじめた。
あっちも無事に解決してるといいけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます