第180話 人間領へ侵攻するための話し合いと準備をした。

流澪達が村に来た次の日、広場で人間領が現在どうなっているか兵士達を集めて教えてもらった。


流れとしては、ダンジュウロウが村から帰ったその日に人間領への裏切り行為をしたという言いがかりで王子と大臣、それと直属の私兵に囚われ投獄。


その後に流澪が訳も分からぬままこの兵士達と小隊を組まされ、魔族領と未開の地を攻め堕として来いと命令される、ろくな装備や食糧も持たされないまま出発して飢餓状態になり俺達に助けられて今現在だそうだ。


その辺に居るオークなんかは食えるぞと伝えると「そんな発想あるわけないですよ……。」とちょっと引かれた、結構美味しいんだけどな。


ブランド家畜をダンジョンに出現させるようにしてからは全然食べてないけど、あれはあれで美味しかったのでたまにはいいかもしれない。


タイガ達も内臓を好んで食べていたしな、今度頼んでみよう。


おっと、考えが逸れた。


「ダンジュウロウが処刑される可能性はあるのか?」


一番懸念していることを兵士に尋ねる、もし処刑される可能性があるなら急がなければならない……処刑されなくても早く救出はしてやりたいけど。


「すぐに処刑するのは不可能です、投獄されていると言えど人間領の王ですから。

 王の処刑という大きな決定をするには領民の意見を集めて権力者の会議、そして領民投票を行わなければなりません。」


なるほど、それならとりあえずダンジュウロウの命の心配は急がなくていいかな。


「……そうとも限らないかもしれません。

 出された食事に毒を盛って毒殺も考えられます……それに牢から星が見えるとも限らないので占星術も使えない可能性が。

 急いだほうがいいのは間違いないですよ。」


メアリーが物騒だが的確な意見を出す、確かにその可能性もあるか……実の父親を殺してまで王の座が欲しいものなのだろうか。


流澪という全てを斬る戦力が手に入って舞い上がったのかもしれないな、人間領に帰るつもりはさらさら無さそうだけど。


「兵士の皆さんは城内と首都の地図を出来るだけ詳しく書いてくれませんか?

 それと些細な事でもいいので、何か役立ちそうな情報を思い出したらすぐに教えてください。

 私達は戦術と戦力の話し合いを進めますので。」


「分かりました!」


メアリーは兵士に指示をして、村の住民と流澪を交えて話し合いに移る。


「どれ、私も兵士達に混ざって確認をしようか……そういえばリッカはどこにいったのだ?」


まだ村に滞在していたキュウビが地図の作成に混ざりにいこうとして、リッカの不在を指摘した。


兵士達はキュウビの声を聞いて「御前様!?」と驚きを隠せない様子だが、そんなことよりリッカだ。


そういえば人間領との騒ぎなのに見当たらない……自分の住む領の問題で王女でもあるんだから真っ先に意見を出しそうなものだが。


「誰か、リッカがどこに行ったか知らないか?」


「魔族領から避難してきた人間と一緒にどこかへ向かっていました、避難時はごたついていたのでどこに行ったかまでは……。」


避難誘導をしてくれていたハインツからリッカの目撃情報をもらう、魔族領に人間が居たのか?


それを聞いた兵士が「あっ……。」と声を出し、顔色が青ざめていく。


「何か思い当たることがあるのか?」


それに気づいた俺は兵士に問いかける、重要な事なら知っておかないといけないからな。


「ダンジュウロウ様はリッカ様の他にもう1人、交流のために王子のシモン様を派遣していたんです。

 私が聞いた話では魔族領とこの未開の地に一人ずつでしたので、もしかすると魔族領に居たシモン様と人間領に向かわれたのかも……リッカ様の性格ならあり得るかもしれません。」


それを聞いた俺とメアリーは顔を見合わせる、村を訪問していただけのダンジュウロウが冤罪で投獄されたとなるとリッカ達も危ない。


「メアリー、すぐに出発は出来るか?」


「まだ完璧な戦略は練れてないんですが……まぁ負けはないでしょう。

 ドラゴン族の皆さんはウェアウルフ族・アラクネ族、それにキュウビさんを乗せる班とラミア族と要石を運搬する班に分かれてください!

 オスカー様は開様、シモーネ様は流澪さんを、クルトさんは私とラウラを乗せて飛んでください!

 ウーテさんは参戦出来ますか?」


「もちろんよ、村長のポーションを飲んで体調は完璧。

 お腹の赤ちゃんも健康なのが自分でも分かるわ、それにお母さんも頑張れって言ってる気がする。」


「無理はしないでくださいね、では人間領に到着したら近海の海水を天まで壁のようにして威嚇をしてください。」


「分かったわ、任せて。」


メアリーが続々と指示を出しているのを聞いて俺は疑問が浮かんだ。


「無血開城なんだよな、ここまでガッチガチの戦力を投入する意味はあるのか?」


最早攻め落とすのかと勘違いするくらいの戦力だ、ダンジュウロウとリッカ……それにシモンという王子を救うためだけにここまで必要なのか?


「流澪さんが居なくてもこちらに攻撃の意思を見せるかもしれません、絶対的な戦力差を見せつけての戦意喪失が狙いです。

 もし攻撃してきても無力化するのも大事ですからね。

 あ、それと準備している間に極力地図の完成をお願いします、都はこの際いらないので城内だけでも。」


「分かった、急ごう。」


キュウビと兵士が地図の作成に本気で取り掛かりだした、自分達の領にこれだけの戦力が攻め入ろうとしているんだがな。


それだけダンジュウロウが慕われていて、王子や大臣が嫌われているということだろう……今回ばかりは俺も少し怒っているので命は奪わなくても痛い目には合ってもらうつもりだ。


権力や富に溺れて他人を利用するのはいただけない、しかもこの世界の事情を知らない流澪を戦力だけ見て巻き込むなんて言語道断だ。


どう見ても若い女の子なのに何とも思わないのだろうか、人間じゃない魔族や村の住民のほうがまだ人の心があるぞ。


「ねぇ、本当にこんな戦力で人間領に攻め入るの?」


流澪が不思議そうな顔で俺に問いかけてきた。


「俺の妻であるメアリーの案だからな、彼女は相当頭が切れるしこういう戦術で間違いを犯したことが今まで1回も無い。

 戦力が不足しているならメアリーに伝えるけど、不安か?」


「いや……明らかに過剰よ?

 蒸気機関はあるにはあったけどそれだけ、火薬も無ければバリスタや投石器なんかの攻城兵器も無かったもの。

 遠距離攻撃手段は弓だけよ、ドラゴン族が一人いればそれだけで完封出来ると思うのだけど……。」


女の子の口から出てきたとは思えない単語がチラホラあったな、そういうのに詳しいのだろうか?


確かにそういうのは魔族領でも見かけなかったな、いかんせん魔術があるから物理的な遠距離攻撃手段を重要視してないのかもしれない。


「メアリーも言ってたが戦力を見せつけて戦意喪失させる狙いもある、それに備えあれば憂いなしと言うだろ?

 それに皆には無闇に命を奪うなと再三伝えてある、ダンジュウロウを救って流澪をけしかけた王子と大臣を捕えればそれで終了だから安心してくれ。」


「それならいいんだけど、流石にちょっと可哀想になったから。

 一宿一飯の礼があるから滅ぼされると少し嫌だったのよね、料理も私達が住んでた国の郷土料理みたいで美味しかったし。」


流澪は自分が嫌な目にあっても相手の気持ちを考える子なんだな……そういう性格ゆえ思い詰めて自殺なんかを考えたのかもしれない。


最近の若い子は若い子でSNSなんかの発達で色々大変らしいからな、そういう所は2年弱で加速こそすれ改善されるようなことはまずないだろうし。


それにその郷土料理みたいなものは俺も食べてみたい、そして村でも食べれるようにしたいぞ。


それから他に何があったか流澪に聞いていると「拓志は村長なのに何かやらなくていいの?」と痛いところを突かれた。


こういう荒事に対して俺は無力だからやることが無いんだよ……。


「開様、戦力と地図の準備が整いましたので出発しようと思います。」


「分かった、すぐに向かうよ。

 流澪はあっちに居るシモーネというドラゴン族に乗ってくれ。」


「ドラゴン族に乗っていいの!?

 ファンタジーな世界だとは思ってたけど、こんなファンタジーによくある体験が出来るなんて思ってなかったわ!」


今から人間領に攻め入るというのに嬉しそうだ、さっきのバリスタや投石器といい……ファンタジー小説なんかが好きだったのかもな。


俺もオスカーに乗り込もうとすると、オスカーに拒否をされる。


初めての事なのでかなりびっくりしてしまう、何か嫌がられることをしただろうか……。


「開様、兜と鎧を着てこいと仰っているのかと。

 ドラゴンの姿ですと人間の言葉は喋れませんし。」


メアリーが指摘するとオスカーがこくりと頷く、そういう事だったか……嫌われたかと思って泣きそうになったぞ。


俺が兜と鎧を着て全員の準備が完了。


「ではこれより人間領に侵攻します!

 目的はダンジュウロウ様とリッカさん、それにシモンさんの救出及び流澪さんと兵士達をけしかけた王子と大臣の捕縛――王子と大臣、及び今回の問題に加担したと思われる人物以外へは一切の危害を加えることを禁止!

 攻撃された場合は最低限の危害で無力化を図ってください、では出発!」


「「「「「おぉぉぉぉーーーー!!!!!」」」」」


メアリーの号令と共にドラゴン族が一斉に飛び立ち、圧巻の光景を広げながら人間領へ向かいだした。


ダンジュウロウ、リッカ、それにシモンとやら……無事で居てくれよ。

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