第162話 ワイバーン肉が大量に手に入ったので、今日は宴会だ。

今日はワイバーンの群れを討伐出来たのでワイバーンの肉を使った宴会だ。


俺がリクエストを出したステーキ・カツは既にテーブルに並んでいるが、俺は現在それを食べることは出来てない。


何故か。


タタキをリクエストしたんだが、この世界にタタキという料理は無かったのでその説明をしているからだ。


「しかしこれは、ほぼ生ではないのか?」


表面だけ肉のブロックを焼いて氷水に通し、切ったドワーフ族が疑問を投げかけてくる。


「あぁ、そういう食べ物だからな。

 これからお腹を壊さないように一度冷凍して、それから更に薄く切って皿に盛りつければ完成だ。

 味付けをしたドワーフ族ならこれが美味いって分かるだろ?」


塩コショウとニンニクというシンプルな味付けにした、俺がそれしか知らないからな。


それに刺身や寿司で生に抵抗は無いかと思ったが、どうやらあれは魚だけらしいな……ワイバーンのタタキで肉の生食のバリエーションも広がればいいんだが。


流石に内臓はダメだけど、美味しいけど内臓の生は怖すぎる。


いくら状態異常回復魔術があると言っても、食中毒は最悪の場合死んでしまうからな……生食は避けるべきだろうが魚や肉は大丈夫だと信じたい。


今までは大丈夫だったが、今度から生食するものは一度しっかり冷凍して食べることにしようか。


ワイバーン肉パーティーで得れるものがあってよかった。




「おぉ、このタタキとやらも美味だ!

 酒とよく合うのが非常にいい!」


タタキもテーブルに並んで皆が食べている、好評のようで何よりだ。


「火が通ってない肉なんてお腹を壊すのが普通なのに、どうやったんだ?」


リッカがタタキを頬張りながら聞いてくる、生活魔術で冷凍をしていると説明したら「是非人間領にも欲しい技術だ。」とつぶやいていた。


人間領からも生活魔術を使える人を育成するために派遣すればと思ったが……そういえば人間は魔術適性が低いんだったな。


もしかしたら鍛錬しても生活魔術を使うことは難しいかもしれない、せめて魔力があれば魔術刻紙で何とでもなるんだろうが。


だが全く使えないわけではないはずなので、魔力を持った人間がある程度居るなら交易の視野に入れてもいいだろう。


魔族領にも一般領民の手に渡らないルートで流通させてはいるが、クズノハ曰く「まだまだ流通させても余裕はある。」とのこと。


魔族領からももっと流通させろという声も出てないので、クズノハと相談してみることにするか。


「しかし元スラム街の住民の方々もすっかり強くなりましたね、ワイバーンに一切臆することなく一方的にねじ伏せることが出来るようになってるし!」


「あれ、グレーテ居たのか。

 てっきり魔族領に行ってるものだと。」


「危機というほどではないですが、村に魔物が襲ってきてるのを尻目に魔族領へ行くことはしませんよ?

 それに向かってる途中、ワイバーンは美味しいと伺ったのでそんな機会逃すわけにはいきませんし!」


どっちも本音なのだろうが、より強い理由は後者なんだろうな……実際ワイバーンはダンジョンに居るブランド家畜とはまた違う美味しさがある。


この味はワイバーンにしか出せないだろうな、それくらい美味しい。


しかし元スラム街の住民、そんなに強くなっていたのか……最初は守られる立場だったのに今やすっかり守る側だな。


やはり継続は力なりという言葉はどの時代でも共通なのだろう、俺も鍛錬頑張らないとな。


「普通の領民があそこまで強くなれるというのは、冒険者ギルドで開く育成会の宣伝になりますね……魔族領に行くときは2人ほどついてきてもらいましょうか。」


グレーテって割と商売っ気あるよな、冒険者のはずなのに。


決して悪いことではないんだけど。


「そんちょー、のんでるー?」


グレーテと話していると、後ろから誰かに抱き着かれながら絡まれる……誰だと思い振り返るとミハエルだった。


「飲んでるし食べてるよ、ミハエルは飲みすぎじゃないのか?」


「そんなことないわよー、いつもどおりのりょうくらぃしかのんでないしー。」


そんなに顔を真っ赤にして呂律が回りかねている状態では信用ならないが……だがそこまでお酒に弱いイメージはなかったけどな。


「あぁ村長すみません、ミハエルさん水割りにして飲むお酒を割らずにジョッキ丸々一杯飲んじゃって……。」


一緒に鍛錬しているウェアウルフ族がミハエルを俺から引き離そうとするが、全く離れる気配がない。


「やめてよー、きょうはそんちょうとのむのー。」


「ミハエルさんダメですって、メアリーさんやウーテさんが睨んでますよ……。」


それは怖いのでやめてほしい、だがこの様子を見れば俺が悪いわけではないと分かってくれるはず。


よほど離れたくないのか俺を掴む力がどんどん強くなる、これ以上は痛いからやめてほしい。


「はーいミハエルさんそこまで、一回お水飲んで夜風に当たってきたほうがいいわよ。」


ウーテにがばっと引き離される、ミハエルも「もぅ、いけずー。」と言いながらウーテに運ばれていった。


助かったよ、ありがとうな。


「ご迷惑をおかけしました……。」とウェアウルフ族が謝りながらミハエルの所へ走っていく、お世話役や上下関係というわけでもないのに大変そうだ。


もしかしていい関係なんだろうか、それなら応援したいけど。


「開様、ああいう場合は多少強く怒っても問題無いんですからね?」


メアリーが隣に座って少し小言を言ってきた、両手にはしっかりワイバーン肉の串焼きとビールを持って。


「今度からそうするよ、悪かったな。」


「しかしミハエルさんが村長にべったりするなんて珍しいですね、もしかして好かれてるんじゃないですかー?」


悪い笑顔をしながら肘で俺をつついてくるメアリー、確かに珍しいがそんなことはないと思うぞ?


女性特有の柔らかさにドキドキはしたが、あれは完全に酔っているだけだろう。


そんなこんなでワイバーン肉のパーティーは夜更けまで続いた、交流に来てる魔族と一緒に食べたんだがまだまだ処理しきれる量ではないので明日以降食堂に並ぶそうだ。




翌朝。


「そういえばなんであんなにワイバーンが大量に村を襲いに来たんだろうな。」


朝ご飯を食べに行く前に身だしなみを整えている途中、メアリーに聞いてみた。


「哨戒していたドラゴン族に聞きましたが、多分食糧難だったんでしょう。

 氷の季節で疲弊して花の季節で狩りをする元気が無く、自分たちより弱そうな種族が居る村に目を付けたのではと言ってました。」


定期的に空を哨戒しているドラゴン族が目に入らなかったのだろうか、あまり知能はよろしくないのかもしれない。


もしかしたら哨戒のスキを突いたのかもしれないが、自分と相手の力量を計れないあたりはやはり魔物だな。


だが、最初は皆怖がっていた種族だし……ワイバーンが自分たちのほうが強いと思うのは仕方ないのかもしれない。


「ちなみにメアリーは、今もワイバーンが怖いか?」


「いいえ全く、もう一対一どころか小隊程度の数なら私一人で勝てますよ?」


最初あんなに怖がっていたのに……皆の強さや価値観が俺の知らない速度でおかしくなっている。


俺がついていけてないだけなのだろうか。


それだけ強くなってくれてるのはありがたいんだけどな、それだけ村の防衛力が上がっている証拠だし。


しかしメアリーはいつそこまで強くなったんだろうな……今度秘訣を聞かなければ。


そう思い朝ご飯を食べるために食堂へ、するとリッカが食堂の前に居た。


「良かった村長、まだ食べてなくて。

 少し相談があるんだけど、時間は大丈夫かな?」


「朝ご飯を食べてからでいいなら大丈夫だぞ、後で家を訪ねるから待っててくれ。」


それを聞いたリッカは「分かった、では待ってるよ。」と家に帰っていった。


結構真剣な表情だったけど、どんな相談だろうな?

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