第153話 別視点幕間:リザードマン族の事情。

俺の名前はインゴ、未開の地に住むリザードマン族の戦士。


今リザードマン族は窮地に立たされている、食糧の備蓄が底を尽きかけているからだ。


暖かくなってきたとはいっても動物達はまだ活発的に活動を行っておらず、オークも実力差が分かっているのか里の近くには近づいてこない。


まずは女子供に食わせなければリザードマン族の未来は無い……男が我慢をしなければ種が途絶えてしまう。


そして戦士でもある俺は狩りをするために外へ出る、空腹がかなり続いて力が出ないが動物やオーク程度に後れは取らない。


少し里から離れると肉の焼ける匂いがする……この辺りにはどの種族の里も無いはずだと不審に思い近くへ行くと、動物の尻尾と耳が生えた種族が食事をしていた。


だが見たことない種族だな……尻尾が9本もあって不気味だ。


だが、動物の亜人ということはその程度の能力しか持ってないのだろう……申し訳ないが俺たちリザードマン族の未来の礎となってくれ。


音を立てずに近づき、狙いを定めて亜人の首元をカトラスで横一閃に薙いだ。


……おかしい、何かを斬った感触が無いぞ?


「何だ、一言も無く襲ってくるとは。

 私でなければ首が飛んでいたぞ、どういうつもりだ?」


声がした方向に視線を向けると、肉をかじりながらこちらを睨んでいる先ほどの亜人が立っていた……かなりの怒気を孕んだ表情をして。


まずい……動物程度だと思って侮ったが相当な実力者か!


だが俺しかこいつを襲ってない、周りにはまだ仲間が潜んでいる――数の利で押し切り食糧を奪わせてもらおう。


「ふん、たかだがトカゲ10匹程度でこの私をどうにか出来ると思ったのか?

 私を無礼なめるなよ。」


バレてる!?


そう思った瞬間、亜人が何か印を結ぶのが見えた……それと同時に俺の視界にはさっきまでとは違う景色が映る。


この世の終わりのような風景、それに驚いたと同時に土中から骨となった仲間が次々と這い上がり襲い掛かってくる……!


「うわぁぁぁぁ!!!」


俺はそれらに向かってカトラスを振り回し撃退しようとする、なんだ……何が起きている!?


「何も分からないまま逝ね。」


亜人の冷たい声が聞こえた、我欲に溺れ見知らぬ者を殺そうとした天罰だろうか……俺は無我夢中で襲い掛かってくる骸を斬り倒すしか出来ない。


「あ、待て!

 やっぱり駄目だ、死ぬな!」


必死になって骸に抵抗していると、亜人の叫び声と同時に地獄のような光景が消えた……どうなっているんだ……?


周りに居た仲間も腰を抜かした者や泣き叫ぶ者と様々だった、俺も腰を抜かして動けなくなっているけど。


「危ない……そのままお前たちが死んでしまっては私も死ぬところだった。

 手間を掛けさせおって、ちょうど動けぬようだし縛りつけておくか……逃げようとなど思うなよ。」


こいつに逆らっては死ぬ、何か事情があって俺達は生かされている。


「分かった、大人しくしている。」


他に選択肢は無かった、仲間にも抵抗はするなと伝えて素直に亜人に捕縛されることに。


幸い仲間も同じ気持ちだったのだろう、俺の指示に首をものすごい勢いで縦に振っている。


亜人は少し離れて誰かと話しているようだ、会話はよく聞こえないが遠くの仲間と喋ることが出来るのか……こうして落ち着いて状況を把握するととんでもない奴なんだというのが分かった。


少しの食糧に目がくらんで相手の力量を計り違えるとは……戦士失格だな。


しかしリザードマン族は魔術を使うことが出来ない、その手の力を持つ者はどうしても苦手だ。


しばらくすると亜人がこちらに向かって歩いてきた、仲間とどういう話をしたのだろうか。


「1日程度で私の知り合いが来る、とりあえずお前たちは私と共にここで知り合いが来るまで待機だ。

 見たところお前たち飢えているな、私が確保している食糧を分けてやるからそれを食べて生きろ。

 それと里の場所を教えるんだ、知り合いなら悪いようにはしないはず……私を襲った罰はあるかもしれんが。」


それを聞いた俺は驚いて声が出なかった、何も出来なかったとはいえ襲った相手に食糧を分けるうえに里を悪いようにしないだと?


理解の外だったが、縛られたまま亜人は俺達の口に肉を運んで食べさせてくれた……俺達は何も考えず目の前に出された肉に貪りつく。


久々のまともな食事に涙が流れる、亜人も「ふふ、そんなにがっつかなくてもまた獲ってきてやるさ。」と先ほどの殺気からは考えれない優しさで俺達に食事を与えてくれた。


もしかしたら里が助かるかもしれないという一縷の望みに掛けて里の場所も話す、今すぐ何かをするかと思えば「わかった。」の一言だけで会話が終わる……これから何が起こるのだろう。




それから1日くらい経っただろうか、里の食糧を上手く分ければ持つだろうから大丈夫だとは思うが。


「お、私の知り合いが来たぞ。」


上空を見ながら亜人がそう言った、空を飛べる種族でしゃべれるって……まさか!?


嫌な予感がして俺も空を見上げる、嫌な予感は的中した……目に映ったのはドラゴン族。


まさか亜人がドラゴン族と繋がりがあるなんて思いもしなかった、俺達は終わりだ。


生かすと言ったのもこいつの気まぐれだろう、ドラゴン族の気分を損ねて生きれるとは思わない。


「あら、あんた確かインゴって名前の戦士よね。

 キュウビを襲うなんて馬鹿な真似したわね、以前プラインエルフ族の里に来た時はそんな愚かなことをする人物には見えなかったけど。」


ドラゴン族がこちらに着陸すると、どこかで聞いたことがある声で俺にしゃべりかけて来た。


項垂れた首をあげると、そこにはプラインエルフ族が立っている……確かにこのプラインエルフ族は見覚えがあるな。


「どうしてプラインエルフ族がここに?」


ここに来たのはドラゴン族のはず、ドラゴン族がそんな他種族と交流があるなんて聞いたことが無い。


「積もる話は後にするわ。

 キュウビ、ここにいるリザードマン族に朝ご飯は食べさせたの?」


「軽くは食べさせたぞ。」


「ならいいわ、じゃあ全員連れて里に移動するわよ。

 案内して、ドラゴン族はリザードマン族を引き連れて来てね。」


プラインエルフ族の指示の下、全員で里に向かっていく……俺は何がどうなっているのか分からず、ただ里に向かって歩くしか出来なかった。


里に到着するとドラゴン族が運んできた食糧を使ってドワーフ族が料理を始める、里全員にこの料理は振舞われるらしい。


全員が感謝を述べながら料理を食べる、こんな美味しい食事は生まれて初めてかもしれないな……しかし食糧を奪いこそすれ仲間を襲った種族に食事を振舞うとはどういうことだ?


「食べながらでいいから答えて。

 なんでキュウビを襲ったの?」


プラインエルフ族がそう質問してきたので、事情を説明する。


それを聞いたプラインエルフ族は「やっぱりね、そんな事だろうと思った。」と一人納得している、どういう事だろう。


「リザードマン族全員に問うわ、この先この里で全員無事に生き延びられるかしら?」


質問の答えは否だが、意図が読めない。


全員同じ気持ちなのだろう、質問には首を横に振って答えた――中には涙を流しながら「無理なのは分かってるだろ、プラインエルフ族だってそうじゃないのか!?」と激昂している者がいる……周りに止められているが。


「そうね、以前なら厳しかったと思う……でも今はそうじゃないのよ。

 私は今未開の地に出来た新しい村に住んでる、氷の季節を2回経験して死者は0……それどころか飢えなんて長らく感じてないわ。

 そういう場所があるんだけど、リザードマン族も移住しないかしら?

 事情があるならキュウビを襲ったのは不問、この先仕事をしてくれれば村に住んで衣食住が保証されるけど、どうかしら?」


「待て、私を襲ったのは不問なのか?」


「どうせキュウビの力なら何もさせないまま完封してるでしょ?

 異形の者をものともせず倒してるって聞いてるわ、ドラゴン族の次に強いんじゃないかって私は思ってるけど……違うの?」


「その認識で大丈夫だ、ただ膂力はそこまで強いわけではないぞ?

 妖術さえ効いてしまえば独壇場に持ち込めるだけだ。」


「盛り上がってるところ悪いが、先ほどの話は本当か?

 仕事は与えてくれれば魔術を操ること以外は喜んでしよう、キュウビとやらを襲った罰があれば甘んじて受ける。

 一族が安心して暮らせるならなんだってする……助けてくれ。」


俺はプラインエルフ族の気持ちが変わらないうちに会話に割り込んで返事をする、ドラゴン族も何も言わないという事は……事情は分からないが今ここに居るトップはプラインエルフ族なのだろう。


「そう言うと思ったわ、とりあえず思ったより食糧が消費出来てないからどんどん食べて。

 ドラゴン族やキュウビも食べて減らしちゃいなさい、荷箱を開けないとリザードマン族を村まで運べないから。

 リザードマン族はお腹いっぱいになったら荷物を纏めておいてね、準備が出来次第村に出発するわ。」


信じれない話だが、ここまで食糧をもったいぶらずに消費する様を見て信用するしかなかった。


俺達は指示通り荷物を纏めて荷箱に詰めていく、出発は明日ということで今日は休むことに。


ここで寝るのも最後か……そう思うと少し寂しくもあるが生きるためなので仕方ない。


村とやらでどんな過酷な仕事が待っていようが衣食住が保証されているなら安いものだ、俺はこの先に待っている厳しい仕事をする覚悟をして眠りについた。

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