第151話 魔族領の神殿で神の像を錬成した。

今日は魔族領の神殿に来ている、ユルゲンが村に来て神殿で祈りを捧げた後、その次の帰り便で魔族領へ帰り最速で通達を送って来たから本当に1週間後だった。


神の像が入れ替わるだけで、前のようなイベントでもないから少々人が多いくらいだろうと思っていたが。


前と同じくらいの人だかりが出来ている……これ、俺一人で来ないほうが良かったかもしれない。


護衛とかは必要ないと思う、魔族領の人は今のところハイノ金融以外信用に足るだろうと思っているし。


だが、めちゃくちゃ心細いぞ。


妻たちに「今日は像をさくっと作って終わりだし、その後神殿の見学をするから退屈だろ。」なんて言って一人で来るんじゃなかったな……。


寒いのでフードのついた服を着て来たのが唯一の幸いか、フードを被っているおかげで周りに俺だとバレていない。


一旦城に行ってどうすればいいか意見を聞くとしよう、この人だかりの中俺一人で行動するのは気が引ける……しかも目的は俺が作る像だし。




何とか人ごみを遡り、城の前に到着。


「おや、村長。

 こんな時間にどうされたのですか、もう少ししたら神殿で像を錬成されると伺ってましたが。」


門番が疲弊気味の俺に声をかけてくれる、その通りなんだがあんな大勢の人が居るなんて聞いてなくてな。


「ちょっと正面から入れそうになくて、誰か案内してくれる人が居ればと思って城に来たんだが……誰か心当たりはないだろうか?」


ダメ元で門番に聞いてみる、城から誰か行くならそれについていきたいんだが。


「それならもうすぐ魔王様が神殿へ向かわれます、ご一緒に行かれてはいかがですか?」


「それはありがたい、そうさせてもらうよ。」


門番に感謝しつつ城へ入れてもらう、そのまま魔王が支度をしている部屋の近くへ案内してもらう。


しばらくすると、前のイベントで着ていた服とマントをまとった魔王が部屋から出てきて俺を見てびっくりした表情をした。


「村長どうしたのじゃこんなところで。

 もう神殿に入ってると思ったのじゃが。」


俺は事情を説明して魔王もそれに納得する、仕方ないと言われたがあそこまで多いなんて思ってないぞ……全員見られる人数でも無いだろうに。


軽く愚痴を聞いてもらいながら関係者専用通路を通って神殿へ向かう、こんな通路を整備していたのか……だが魔王なんかが正面から行くにはセキュリティ的に問題があるのだろう。


魔族領は比較的平和だが、それに甘えて何か事件が起こってからでは遅いからな。




神殿へ無事に到着、あまり来ることは無いが子の通路の事は覚えておこう……何かする際には通らせてもらいたい。


「そういえば、今日はイベントでも何でもないんだろ?

 普通に前に出て像を想像錬金術イマジンアルケミーで作れば終わりだとユルゲンから聞いてるが。」


「そうじゃの、神殿内じゃのに大声で司会をするわけにも行かぬし。

 じゃがユルゲンが今日の礼拝の司式をするはずじゃから、最初に像の錬成に対して一言あるはずじゃぞ。

 その時に村長が出て像を錬成してくれたら大丈夫じゃ、錬成し終わったら像に向かい片膝をついて祈れば完璧じゃの。」


結構いろいろあったがそのくらいなら何とかなるだろう、通達にきちんと書いてくれてたらここまで混乱しなかったんだがな……しかし魔王と合流できて良かったよ。


「あ、そういえばクズノハと真剣に付き合うことになったみたいだな。

 頑張ってくれよ、夫婦の契りを交わした時には盛大にお祝いさせてもらうから。」


「ふふ……ありがとうなのじゃ。

 本当にダメ元じゃったが勇気を出してよかったのじゃよ、大臣からは猛反対されたが不思議とお父様は何も言わんかったの。」


恐らく先代魔王は多少なりとも妖狐一族を滅ぼしたことに負い目を感じているんだろうな、だが家臣に反対されるあたり魔王はやはり大変な役職だ。


恋愛くらい好きにしたっていいとは思うが、後継ぎなんかを考えると仕方ないんだろう。


「では今日の礼拝を始める前に、この神殿が崇めるべき神の像を未開の地の村の村長がこの場で作成していただける事になりました。

 神の御業で村長がこの目で見た神を模った像を錬成する、まさに歴史的瞬間です。

 しかと目に焼き付けて、神への感謝をさらに深いものにしましょう。」


「お、ユルゲンから一言があったのじゃ。

 村長、出番じゃぞ。」


簡単に言ってくれるが、俺がこの場に辿り着けてなかったらどうするつもりだったんだ……この人だかりで入れなかったら何も出来ずに問題になってたぞ。


ちょっと不満を覚えながら大神殿の最奥の台座へ向かう、台座の上に乗った大理石を見て神の像を思い浮かべて錬成。


高さ3mほどの神の像が出来上がった……材料を使い切ろうと思って大きくしたがやりすぎたかもしれない。


あともう少し高ければ天井を突き破ってた。


後ろから「おぉ……!」と驚嘆の声が上がるが、俺が祈りを捧げるとそれも静まる。


皆祈ってるのだろうな、俺もついでにきちんと祈っておくか。


俺が祈りを終え立ち上がりユルゲンの近くへ行く、このまま何もせずに裏にはけるのもおかしいと思ったし。


「村長、ありがとうございました。

 これから改めて礼拝を行うので、皆が祈る時に裏へ戻っていただいて構いませんよ。」


小声で俺にアドバイスをくれる、それはありがたい……結構長そうだしマナーも分からないからどうしようかと思っていたところだ。


そうして礼拝が始まり、ユルゲンのアドバイス通り裏へ戻り部屋で休ませてもらう。


礼拝が終われば神殿を見学させてもらうとしよう、自分で作ったとは言えただただ図面を見てその通りにしただけだからな。


どんなふうになっているのかこの目で見てみたいのもある、今後作る建物の参考になることろがあれば覚えて帰りたいし。




1時間ほどで礼拝も終わり、人が帰りはじめて静かになるかと思ったらその後から続々と人が入ってきて神の像の前で祈り始める。


もしかしてこれ、全員がやるまで終わらないのか……相当な人数が並んでるぞ。


礼拝堂は避けて他の所を先に見るとしようか、礼拝堂は最後でもいいだろう。


図面に細かく指定をしてくれていたおかげで、多少の芸術的な模様もうまく再現されてて良かったよ、図面を頭に入れるのに相当時間はかかったけど。


もう寝不足を解消するためにポーションは飲みたくない、いくら何でも絶対に体に悪いだろうし。


途中様子を見に来たメアリーとカタリナと合流、どうしたんだと聞くと「開様のことですからじっくり見て相当時間がかかると思いまして。」とのことだ……よくわかってるなぁ。


この調子で見ると陽は落ちるだろうなと薄々感じていたよ。


「私もメアリーもこの間の買い物でおばあ様と神殿を見てるから、多少なら説明出来るわよ。

 一人で見るよりきっと参考になるし早く回れるわ。」


2人に手を引かれながら俺は神殿を早足で見学し始める、そんなに慌てなくても大丈夫だろうに。


「ふふ、幸せそうで良かったよ――ありがとう。」


ふと俺の耳に声が聞こえる、立ち止まって周りを見渡してもメアリーとカタリナ以外誰も居ない……気のせいか?


「どうされたのですか?」


「いや、なんでもない。

 立ち止まってすまないな、案内の続きをしてくれ。」


聞き覚えのある声が耳の残りながらも、3人で神殿を回りながら説明を受けることにした……こういうデートもいいかもしれないな。


ウーテは拗ねるかもしれないけど、今度埋め合わせを提案しておこう。

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