第120話 神殿建設イベント前日に、最後の問題が出てきた。

神の神殿建設イベントの前日。


結局台詞は自分じゃ思いつかず、妻たち3人が10分ほど話し合って当たり障りのない自己紹介を考えてくれた。


俺は1日くらい考えながら過ごしたんだがなぁ……そんな早く完成されると少し落ち込む。


目を通しても全く問題ない、こういうのでいいんだ。


魔王の考えたアレを読むのは本当にごめんだからな、あれから魔王も新しい台詞を考えてないようで良かったよ。


妻たちから「今日1日、想像錬金術は使用禁止です。」と言われたので、今日はついでに見回りも休んで家でゆっくりしている。


なんで禁止なんだろうと思って聞いてみると、魔力が完全に回復しないまま神殿の建設をするのは危険とのことだ。


ポーションを飲めば大丈夫だとは思うが、あれも完全に回復するかどうかは確かめれないんだよな。


シモーネに頼めば確かめれるかもしれないが、現状困ったことは無いので本当に暇で何もすることが無い時でいいだろう。


回復量に人命を左右されるような大きな出来事も無さそうだし、慌てることはない。


「村長、暇ねぇ。」


企画書に目を通しながら考え事をしていると、家に居るウーテに声をかけられる。


メアリーは狩り、カタリナは魔族領へ行っているので家には俺とウーテ、そして寝ているカールの3人。


ウーテは妊娠が発覚したので空の哨戒からも一時離脱、本人は平気だと言っていたが妊婦が休まないと他の妊婦が休みづらいから休んでくれと頼まれたらしい。


そういうことがあって現在ウーテは特にやることがないらしい。


「メアリーみたいに他にやることを探してみるのはどうだ?

 やったことないけど裁縫に挑戦してたぞ、今でもちょくちょくやるくらいにはいい趣味になってるみたいだが。」


「ああいうチマチマした作業って苦手なのよ……。」


ドラゴン族の種族柄なのだろうか、確かにドラゴン族が細かい作業をしているのを見たことはないな。


というか似合わない。


「しかし趣味ね……私としてはこういう何もしない時に色んな知識が手に入れば文句は無いのだけれど。

 そういう施設は村には無いし。」


確かにな、本の執筆や知識を書き留めるなんてことは誰もしてないだろう。


そういう役目の人が居てもいいかもしれないが、現状村には適任者がいないからなぁ……。


そう思っていると、グレーテが魔族領の冒険者ギルドには資料室があると言っていたのを思い出した。


そこには少なからず文献や本があるだろう。


「魔族領の冒険者ギルドにある資料室に行って本を読むのはどうだ?」


「もし悪阻が来た時が怖いから長時間遠出は出来ないわ、明日のイベントも登場が終われば目立たないように先に村へ帰るつもりだし。」


それもそうか、ウーテが確認している谷以外で安全に吐き戻し出来る場所が魔族領では確認出来てないもんな。


「資料室の文献や本って、グレーテに頼めば貸出出来たりしないかな。

 もし出来たら、家でゆっくり読むことも出来るんじゃないか?」


俺がそう言うとウーテが目を見開く。


「私グレーテさんに聞いてくる、もし出来るなら貸出をお願いするわ!」


そう言ってものすごい勢いで家から出ていくウーテ、暇だったのがよっぽどストレスだったのだろうか。


それにしても妊娠してるというのに元気だな、メアリーは状態異常回復魔術が効いてても少ししんどそうだったが。


プラインエルフ族とドラゴン族のバイタリティの差だろうか。


心配なので落ち着いてほしいという気持ちもあるが、ずっと暇でストレスを抱えているよりは健康的だろう。


開けっ放しにされた玄関を閉め、俺は再び企画書に目を落として内容の確認をし始めた。




ウーテが出て行って30分ほど経っただろうか、玄関をノックする音が聞こえる。


ウーテが帰って来たならノックはしないし、誰か来たのだろう。


「今行くからちょっと待ってくれ。」


そう言って企画書を机に置き玄関を開けると、結構な荷物を持ったケンタウロス族とティナが立っていた。


「村長、明日のお召し物を作ってきました!

 いくつか案があるので、是非着ていただいて決めてもらえたらと!」


「私はイベントの時に身に付ける装飾品を持ってきたよ!

 ディアマントはもちろん、他のシュムックも最高ランクのものを使ったやつだから輝きも最高だからね!」


そんな話初めて聞いたぞ!?


ケンタウロス族とティナが荷物を広げ始めると、映画やゲームで見るようなものすごい装飾を施された衣装と煌びやかな装飾品が並び始める。


「そんなの着たり付けたりしなくていいって、いつも通りでいいと思うぞ?」


「ダメですよ、魔族領のほとんどの領民が集まるイベントにいつもの服なんて。

 神に認められても繁栄は約束されないのかと思われてしまいますから、さぁどれも自信作ですから選んでくださいね?」


「そうだよ村長、普段からこんなの着てたり付けてたりするとちょっと引いちゃうけど……大きなイベントくらいは着飾らなくちゃ!」


反論したが2人に反論されて「そうなのかもな……。」と言いくるめられてしまう。


しかし、どれも豪華絢爛な服や装飾品ばかりで俺には似合わないと思うんだよな。


悩んでいるとメアリーとウーテが帰って来た。


「ただいま戻りました、そこでウーテさんと会いまして……あら、そちらの豪華な服や装飾品は?」


メアリーならきっといつも通りでいいと言ってくれるはず、メアリーから反対されたら2人とも諦めてくれるだろう!


2人が事のいきさつを説明、メアリーウーテは頷きながらその説明を聞いている。


「うん、いいですね!

 村の技術力と繁栄を表現出来てます!」


「私もいいと思うわ、こんなこと滅多にないことだし!」


俺の最後の砦が一瞬で瓦解した、やっぱり着なくちゃダメなのか……。


そうして俺が決める前にメアリーとウーテが選び始め、俺は着せ替え人形と化して心を無にしてそれに従った。


途中カタリナも帰ってきて俺の着せ替えに参加、女性5人……しかも全員俺より力が強いと着ているので反抗のしようがない。


途中カールが泣きだして一時中断したが、オムツを変えてご飯を食べるとまたすぐに寝始めた。


いい子で非常にありがたいが今はもう少し起きててほしかったぞ、カール。




「やはりこの組み合わせが一番ですね。」


「そうね、これが主張しすぎず豪華さを出せてていいと思う。」


「装飾品もたくさんつけれて良かった、選別も加工も頑張った甲斐があったわ!」


気が付くともう日がどっぷりと暮れていた、そりゃお腹も空くわけだよ。


「もういいか……?

 流石に疲れたしご飯を食べたいんだが……。」


5人とも元気そうだが俺は疲労困憊、早くご飯を食べて風呂に入って休みたい。


「えぇ、これで決定ということでいいと思います。

 お疲れ様でした開様、楽しかったです!」


楽しんでリラックスしてくれたなら救いだよ。


「しかしケンタウロス族とアラクネ族がここまで頑張ってくれて、使ってない服があるのはもったいないわね。

 何か村でも定期的なイベントを考えて、そこで使うことは出来ないかしら?」


カタリナがいい意見を言ってるようだが、俺は出来れば言わないでほしかった。


イベントを開くのは賛成だが、俺がそこで着飾る必要もないだろ?


「それはいいですね、とりあえず今回はこれで失礼しますがまた改良を加えて村長に試着していただいて決めましょう!」


女性の中で話がまとまって、そのまま解散した……またこんな服を着る機会が来るのか?


「では今日は明日に備えて早めに休みましょう。

 今後のイベントはまた後日話し合いをして練っていけばいいですから。」


うん、とりあえずそうするよ……。


ご飯と風呂を早々に済ませて、早めに布団に入る。


とうとう明日か……台詞も普通になって気が楽だと思ったらまさか服でここまで不安になるとは思ってなかった。


5人の意見を信じて魔族領の領民に萎縮されないことを信じよう、そう願いながら瞼を閉じて眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る