第79話 スラム街の住民が村に馴染んでくれた。

スラム街の住民が村に来て3日が経った。


どうやら魔術適性がある魔族が多かったらしく、生活魔術を宿した紙を使って難なく生活魔術を使役している。


「その紙は魔術刻紙という名前なのじゃが。」


クズノハからツッコミが入った、そんな難しい名前だったのかこれ。


プラインエルフ族によると、適性はあるけど魔術を使う環境にないから生活魔術を使い続ければ普通に使えるようになるだろうとのこと。


魔族から生活魔術が使える人が出るのは大きいな、これを機に技術が広がると広い範囲で生活が豊かになる。


それに魔族領に戻っても次の職は簡単に見つかるだろうし、いいことづくめだ。


生活魔術で稼げなくなるとミハエルからツッコミが入ったが、食糧だけで相当稼がせてもらっている状況だし、稼ぐことが俺の目的じゃない。


お互い友好な関係を築くことが第一だ、村が困ったことがあって魔族領の助けが必要なら迷いなく頼れるような関係でありたい。


逆も然り、だから俺はあちらに益があることは喜んでやるつもりだ。


何人か魔術適性が無い人は、鍛錬所に混ざって訓練をしたりミノタウロス族と畑を広げたり。


料理に興味を持った人も居たので、ドワーフ族と一緒に料理をしたりする人も居た。


それぞれ邪魔になっていることはなく、むしろそれらに固定概念が無いので吸収が早くむしろ助かっているらしい。


何も出来なかったのがここで武器になるとは、人生何があるかわからない。


スラム街の住民からは食事の度にお礼を言われるが、こちらも仕事をしてもらっているのでお互い様だとその都度伝えている。


何をしてもらったかはその場所の代表者にメモしてもらっているので、それを魔族領に渡して給金を計算して渡してもらおう。


これが分からないことは頼るってことだ。



その2日後、ダークエルフ族を救出しに行ったオスカーたちが帰って来た。


「よかった、無事だったか!」


「間に合わず里の者すべてを救うことは出来なかったが、ギガースは討伐してきた。

 生き残ったダークエルフ族はここに居るもので全てだ。」


50人程度だな、どれだけ居たかは聞きにくいが救えた命があることが大きい。


すぐに居住区を準備するから、しばらくはゆっくり休んでくれ。


ポーションを人数分配っておく、傷はそれで大丈夫なはずだ。


「しかし、助けてもらったうえ無償で住まわせてもらうわけには……何か仕事をさせてくれませんか?

 里では林業とキノコの栽培を行っていました、今は原木を失ってしまったのでまた準備しなければなりませんが……林業は道具を頂ければすぐ再開できます!」


林業もそうだがキノコの栽培だと、かなり魅力的だな。


「わかった、ダークエルフ族は動けるようになり次第林業とキノコの栽培を再開するための準備をするようにしてくれ。

 キノコは森で見かけても怖くて手を付けれなかったんだ、期待してるよ。」


「はい、絶対に期待に応えて見せます!」


キノコは前の世界でも好きだったから楽しみだな、松の木は見えないからマツタケは食べれないだろうが俺が一番好きなキノコはシメジだ。


シメジ、あるといいな。




それからまた1週間。


生活魔術を使ってた魔族は完全に生活魔術を使いこなせるようになったし、鍛錬所に通っていた魔族は、グレーテ曰く「Cランク冒険者くらいにはなったと思います。」とのこと。


料理を手伝っていた魔族は「助かっていたからずっと居てほしいんだがの。」とドワーフ族からお墨付きをもらっているくらいだ。


畑も大分広がった、むしろ目標より広く広がっている。


この短期間でここまで伸びるとは思ってなかった、やはり環境は大事だな。


そんな魔族が馴染んだ風景を見ながら村の見回りをしていると、魔法陣から魔族の衛兵が出てくるのが見えた。


「村長ですね、魔王様がお呼びでございます。

 今日の昼過ぎに謁見の間まで来てほしいとのことですが、可能でしょうか?」


「大丈夫だ、その時間にそちらに伺うと伝えてくれ。」


衛兵は「確かに承りました。」と一礼をして魔族領へ帰っていく。


……そういえばマルチンに会うの忘れてたな、魔王との謁見が終わったら会いに行こう。


食事を終えて、魔王との謁見へ。


「村長、よく来てくれたのじゃ。

 先日のハイノ金融じゃが、洗いざらい調べた結果真っ黒じゃった……報告感謝する。」


「俺もそんな商売を許してなくて安心したよ。

 ちなみに魔族領で罪を犯すとどうなるんだ?」


興味本位で聞いてみる、今後村の住民に注意喚起するのにも使えそうだからな――皆ならそんなこともしないとは思うが。


「まず不正に稼いだ金は全額城が没収する、そして禁固刑を科すの。

 殺人など凶悪犯罪を行ったものは斬首としておる、ちなみに禁固刑は法で定めた犯罪数詞に15を掛けた年数じゃ。

 ハイノ金融、及び芋づるで捕まった者の禁固刑はざっと見て300年くらいじゃの。」


相当重いな、これは真っ当な活動をしないといろいろ危険だ。


前の世界じゃ詐欺罪とかって懲役10年くらいだったよな、それにお金は別に回収されなかったはずだし……そんなことしないとは思ってもカルチャーショックは受ける、しかし犯罪者はこのように重い罰で裁かれるべきなのかもしれない。


「それと、この件に関しては完全に解決したのじゃ。

 よってスラム街の住民を開放しても問題はなくなったのじゃが。」


「わかった、村に帰ったら住民と話してみるよ。

 だが、ドワーフ族について料理を教わった魔族はもしかしたらドワーフ族が放してくれないかもしれないんだが……かなり助かっているようだし。」


口に出してみると、かなりやばい感じがする――これって普通に誘拐や拉致と変わらないんじゃないか?


「あの村の料理を作ってるドワーフ族に認められるとは……余程のことじゃろう。

 無理やりは許しがたいが、その魔族が残るという意思表示を示したなら問題ないのじゃ。」


「それを聞いて安心したよ、俺も無理やりは止めるつもりだったからな。

 その住民が納めるべき税が必要なら魚を買うためにプールしている金から差し引いておいてくれて構わないからな。」


「よっぽど苦しくなるまではそのようなことはしないのじゃ。」


魔王が笑いながら返事をする、それからは他愛もない世間話をして俺は謁見の間を後にした。


さて、マルチンのところに行かなきゃな。




冒険者ギルドについてマルチンがいるかどうか尋ねる、しばらくするとマルチンが顔を出してきた。


「よかった、今日も居なかったらどうしようかと思ったよ。」


「村長が訪ねてきたと聞いて、俺も極力こちらに居るようにしていたんだ。」


迷惑をかけてしまったかもしれない、今度からは気を付けよう。


「そろそろサンプルで渡していた紙、クズノハ曰く魔術刻紙というらしいが。

 あれの感想やレポートがあれば引き取ろうと思ってな。」


「あぁ、あれは非常に素晴らしいものだった。

 生活魔術があそこまで生活のレベルを上げるものだったとは思ってなかったよ、もし流通して手が出せる金額ならずっと買いたいくらいだ。」


そんなにか、でも家事はそれ一つでサクッと終わらせれるから時間削減には間違いなく貢献するだろうからな。


「そういう感想も含めたレポートをまとめてあるよ、取ってくるから待っていてくれ。」


マルチンはそう言って奥の部屋に行き、レポートを持ってこちらに戻ってきた。


……レポートの量が尋常じゃないが、何枚あるんだそれ。


「このようなものを使わせてもらった以上これくらいはやらないと気が済まなくてな。

 通常の羊皮紙60枚分にまとめさせてもらった。」


真面目か!


俺は苦笑いをしながら、レポートを受け取って冒険者ギルドを後にしようとした。


手に取った瞬間、予想より重すぎて思わず落としてしまう。


「ははは、村長がまさか非力だったとは思いもしませんでした。」


笑われたが、紙で20キロくらいあるなんて思わないから仕方ないだろ!


俺はバックパックを借り、息を上げながらレポートを村まで持ち帰った……疲れた。

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