第73話 魔王の城に風呂を作ってきた。
クズノハが村に来て2週間ほど経った、氷の季節も終わり花の季節に。
最初は少しオドオドしていたが、ここ最近はだいぶ慣れたのかプラインエルフ族のところで生活魔術を見学したり鍛錬所に顔を出したりと活発になっている。
鍛錬所に行くようになってミハエルとも顔を合わせだしたが、特にトラブルも無く普通に接しているらしい、鍛錬所にはそこまで行かないからあまり見えてないんだけどな。
わだかまりはすぐには解けないだろうが、ゆっくり時間をかけていけばいいさ。
そういえばキュウビについて聞いてみたが「よくは分からぬ、自分の快楽や利益になるなら何でもする気狂いとは聞いておるが。」と言われた……あまり情報らしい情報もないな。
魔族領にいるかもしれないと言っていたが、もう何百年も似たような被害が出てないし別の場所に移り住んでるか既に絶命しているかもな。
あまり考えすぎないようにしよう。
俺は花の季節になる少し前に出荷分の食糧の補充と、魚を仕入れるため魔族領まで行っていた。
大漁が続いたらしく前よりかなりの量を仕入れることが出来た、かなりの金額になるかと思ったが、ギュンター曰くこれでも全然余裕があるので気にしないでくれとのこと。
魔族領を助けるという大義名分があるからしているが、やはり
帰り際に呼び止められギュンターがプラインエルフ族、冒険者ギルドのギルド長がウェアウルフ族・ケンタウロス族の代表者と話がしたいらしくそれぞれ向かってもらっている。
こちらに帰ってきてはいるが話し合いは終わってないらしい、どうもギュンターは生活魔術での食料保存の増員、冒険者ギルドは訓練の指導者とS級難易度の依頼が出た時の非常要員が欲しいと。
二つ返事で引き受けていいと思うが、話し合いが長引くということは村に負担があるのかもしれないな。
俺に話は回ってきてないので、相談されたらそれぞれ対応することにしよう。
それより、冒険者ギルドのギルド長の名前を聞きそびれているな……ミハエルかグレーテに今度教えてもらうか。
「村長、魔族領から言伝が届いています。
城の風呂に使用する建材が準備出来たのでお願いしたい、とのことです。」
村の見回りをしていると、警備のウェアウルフ族から呼び止められた。
「わかった、多分ウーテは必要だろうから予定を聞いて早いうちにそちらに行くと返事をしておいてくれ。」
「わかりました、すぐにお伝えしてきますね。」
城には何度か足を運んだが、周りの立地や川・池なんかの確認は出来てないからな。
海が近いしそちらに排水をしてもいいかもしれないが……プラインエルフ族がどうにか出来ないかな。
それも相談してみるか、もし無理なら村と同じように貯水場を作って川や海に排水するということで――なんとか出来るなら村もついでに改良したいな。
「水を蒸発させたりするのは難しいですが、魔法陣を書いてきれいな水にすることは可能です。」
掃除とかで水が汚れたまま排水するのは気になってたんだ、早速一時的に排水を止めて
いまいちわからないが「これで大丈夫です、何ならこの貯水場の水は飲むことも出来ますよ。」と言われた上実践されたので信用することに。
これはかなりいい改良になった、何かあった時に飲料水が半無限に確保できるのは大きいし環境破壊にも繋がりにくくなるからな。
後日プラインエルフ族を1人魔族領に連れていくことを相談すると、OKをもらえたので後はウーテの予定だな。
「私はいつでもいいわよ?」
家に帰ると居たので聞いてみると即OKをもらえた、なら明日にでも行くことにするか。
風呂はいいものだからな、早く知ってもらいたいのもある。
本当は氷の季節の間に作りたかったが、建材の準備は向こうの仕事だから仕方ない。
風呂上がりに飲む一杯の多幸感は是非味わってほしい、プラインエルフ族に冷やしてもらったビールは格別なんだよ。
色々明日のことを考えて俺は床についた。
翌日。
ウーテとカタリナを連れて魔族領に来た――カタリナの予定ではなかったが「ウーテだけずるいわよ。」ということで変わってもらったらしい。
メアリーはずっとそんな気持ちじゃないのかと聞いてみたが「「子どもを授かってるんだから少しくらい!」」と口を揃えて反論された。
そういうものなのだろうか。
俺は衛兵に風呂の件で城に来たことを伝え、担当者に案内されて建設予定地に案内された。
建材も運び込まれている、かなりの量だがよく運んだな。
「こちらがどういった形のものがいいかを纏めた案になります、不可能なら仕方ないですが可能ならば是非叶えていただけたらと思います。
それと、今日から着工されると聞いておりますが人員は3名のみですか?」
「案には目を通しておくよ、芸術的なものじゃなければ概ね通せると思う。
人員はこの3人で行う、魔王に話せばこっちに来ると思うから呼んできてくれないか?
作業を見たいと言っていたからな。」
俺が担当者にそう言うと、よくわからない顔をしたまま「わかりました……。」と魔王を呼びに行ってくれた。
そりゃこんな大規模工事を3人でするなんて狂気の沙汰だし、終わるわけがないと思っているだろうな。
しばらくすると魔王が「ようやっと
一瞬で終わるから特に何も見ることはないんだけどな。
「魔王、この案を見ると排水は直接海にすることになっているが少し迂回して貯水場を作ってそこから海に排水してもいいか?
きれいな水を流さないと、漁業に影響があるかもしれないからそれの対策をしたい。」
「大丈夫じゃよ、その辺は好きにして大丈夫じゃ。」
後の案は問題なく出来そうなので、案に書いてある風呂を参考に想像すると無事に素材が光ってくれた。
大丈夫みたいだな、それじゃ発動。
流石魔王が利用する風呂だ、立派だなと思いながら完成した風呂を見ていると「何が起きたのじゃ!?」と魔王が狼狽している。
もっとすごいことになると思っていたのだろうか、夢を壊したようなことになって済まない。
「これが
不満が無ければ貯水場と排水路を作ってお湯を出すようにするから、一応中の確認をしてくれ。」
魔王に話しかけても驚いた顔のまま反応が無い、どうしようこれ。
そうだ、担当者に言えばわかってくれると思い後ろを向くと気絶していた。
この反応、久々だなぁ……とりあえず介護をするか。
無事2人とも意識を取り戻し、確認をして問題ないと言ってくれた。
それを聞いた俺は貯水場と排水路を作り、カタリナに魔法陣を書いてもらう。
「よし、これで完成だな。
ウーテ、風呂にお湯を張ってくれ。」
「わかったわ。」
無事お湯も湧きだした、これで俺たちの仕事は終わりだな。
城の風呂だからもっと手直しを要求されると思ったが、きちんと案を練ってくれていたのでそれもなかったのがよかった。
「じゃあ俺はこれで。
問題はないと思うが何かあったら連絡してくれよ。」
「まさかこんなに早く終わるとはの……しかし食糧をあれだけ魔族領に出荷できる理由もわかってよかったのじゃ。
また何かあれば連絡するのじゃ、感謝しておるぞ。」
また今度会った時には風呂の感想を教えてくれると嬉しい、すごい気持ちいいはずだからな。
仕事を終えた俺たちは、村に帰って風呂に入ることにした。
見てると入って酒を飲みたくなったからな、まだ日が高いが仕事も終わったししたくなったものはしてもいいよな?
こういう現象に名前があった気がするが、思い出せないまま首都を歩いて村へ続く魔法陣を目指した。
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