第69話 別視点幕間:我は妖狐、ドラゴンに囚われた。
我は妖狐、恐らく一族最後の生き残り。
遠き過去、詳しいことはわからぬが魔族に里が攻め入られ、応戦したが一族は敗北……弱き者や子ども全て皆殺しにされていた。
我は長の娘ということもあり、里から離れた場所に逃がされて助かってしもうたが。
その復讐のため修行をし、闇堕としの妖術を身に付けこのダンジョンに影法師を配置し、魔族狩りを行っている。
しかしここ最近ダンジョンの道中で死に往くものが多い、魔族の実力も年々落ちていってるのかもしれぬな。
数百余年前、単身で乗り込んできた魔族は強かった……闇堕としの妖術で破壊行動を行わせたら想像以上の被害を出すことが出来たので少し満足しておる……まだまだ足りぬがな。
あのドラゴンさえ居なければ魔族の土地を壊滅出来たものを……忌々しい。
だがあのドラゴンには勝てぬな、何じゃあの実力……童の御伽噺でもあんな馬鹿げた強さのドラゴンは出ぬぞ。
む……誰かがダンジョンに入ってきたのう……久方ぶりの贄じゃ、どこまで持つかのう?
待って、待つのじゃ、すとっぷ!
ダンジョンの突破速度が尋常じゃないぞ、単身で乗り込んできた魔族の数倍以上のスピードじゃ……あんな速さでこのダンジョンを突破する奴になんぞ勝てるわけがない!
誰じゃ、魔族か!?
魔族ならとんでもない隠し玉じゃぞ、それとも今までずっとここを踏破するため育て上げた精鋭か……?
とにかく影法師をぶつけ、操れるならよし、無理ならこのダンジョンは捨てることにするかの。
ダンジョンコアの精製技術はあるのだ、また拠点を変えればいいだけよ……。
む、最奥まで来たな……どれどれ。
あの時のドラゴンではないかー!?
無理じゃ無理じゃ、ここは捨てることに決定じゃ――だが最奥の扉を開けてダンジョンコアも見えてる部屋に地下室があるとは思うまい。
奴が去ったらゆるりと抜け出させてもらうわ。
あ、影法師はあっさりと消し炭にされてしもうた、一応闇堕としの妖術も使ってみるか……やはり弾かれるよなぁ。
さて、さっさとダンジョンコアを破壊して出て行ってくれ。
「何、ここに地下室があるだと?」
今なんて言ったのじゃ?
「どれどれ……。」
そう聞こえた瞬間、ものすごい音と共に天井が崩れてきた。
何でバレたのじゃ!?
まずいまずい……このドラゴンには勝てぬぞ……!
「お主がこのダンジョンの守り主の妖狐か。」
「そうじゃ……まさかバレるとはの……。」
「過去何人もの魔族をダンジョン内で殺し、ミハエルを操って世界に甚大な被害をもたらした罪を裁きに来てやったぞ。
最期の言葉くらいは聞いておいてやるが、何かあるか?」
実力じゃ助かるのは不可能、じゃが何か利のあることを言えば見逃してくれることはないか?
恐らくこのダンジョンの外には思念を使える奴がおる、じゃないとあの独り言とここがバレたのが説明がつかぬからの。
そして、恐らく敵の位置を知る方法を持ってるものもおる……ただただ逃走しても追い詰められて終いじゃ。
それならば、このドラゴンの意思で見逃してもらい、しばし時を経てまたダンジョンを作り同じことをすればよい……今度はここから離れた地での。
「我は魔族に滅ぼされた妖狐一族の生き残りじゃ、やってきたことを許してくれとは思わぬ。
じゃがみすみす殺され一族が絶滅するのは嫌じゃ、せめて滅ぶなら独りでゆるりと天寿を全うさせてくれんか?
このダンジョンはもう使い物にならぬし、益のある情報が欲しいならくれてやるが……どうじゃ?」
頭と思考をフル回転させ、ドラゴンに言葉を発する……悩んでくれれば助かる道は生まれるはずじゃ。
「益のある情報か……我一人で来たのは失敗だったかもしれんな。
何が有益か判断しかねる、村長に相談するためにお前を一度村に連れて帰ることにしよう。」
なんと、思った以上に助かりそうじゃぞ!?
我歓喜。
ていうか、このドラゴンが長じゃないのかのぅ……村長ってどれほどの実力なのじゃ?
外に出ると、数十体のドラゴンに過去操った魔族、それにエルフ族かの?
なんじゃこれ、勝てるわけなかろう。
「お前が私を過去に操ったやつか……!」
「恨まれるのは当然、恨むなとも許してくれとも言わんよ。
じゃが我はこうして囚われ生かされておる、今お前に我の命を奪う権利はないぞ。」
「オスカー、どうして生かして帰ってきたんだ!」
直接恨みがあるだけによく吠えるの、だが他の軍勢も満場一致で頷いておる。
よく考えれば魔族がドラゴン族と交流があるのもおかしいぞ、そんな事が聞いたこともない……背に乗せておるということは余程友好関係が深いはずじゃし。
「こ奴が死の間際に有益な情報をくれてやるということでな、村長と話してもらうことにしたのだ。
こいつの実力は確実にワシ以下だ、もし少しでも勝算があれば歯向かってきてるか逃げるかしておるからな。」
さすが鋭いの、我は多少の攻撃妖術と影法師、後はミハエルとやらに使った闇堕としの妖術しか取り柄がない。
「何かこちらに害のある行動をした瞬間にこの世から消し飛ばしてやる。
村の益になればよし、ならなければ過去の罪を断罪してやればいい。」
生きれたが、もし村長を満足させることが出来なければ殺される。
オスカーというドラゴンの言葉に、皆納得し帰る支度を始めたが魔族だけはまだ我を睨んでおるな――他の者も警戒をしておるしの。
まぁ、和解するつもりもないし別にいいがの……恨みがあるのはお互い様じゃ。
帰る途中、我はオスカーの手に潰されない程度で握られておる。
扱いがひどい、というか怖い……生きた心地がせぬぞこれは。
「そちらのエルフよ、村長とやらがどんなことが知りたいかとか想像はつかぬのか?
教えてくれれば村に行くまでに多少は頭の中で整理出来るのじゃが。」
恐怖を必死に押し殺し、オスカーというドラゴンに乗っているエルフ族に聞いてみる、こんな状態でも考えることは出来るからの。
「村の暮らしが豊かになる情報や技術なら欲しがると思うです。
話してみないと分からないですよ。」
我は暮らしが豊かになる情報なんて持っとらんぞ……とうとう罰が下る時が来たようじゃのぅ。
覚悟をしておくかの……一族の皆、無念だがもうすぐそちらに行くぞ。
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