第59話 魚を確保するルートが構築出来そうだ。
笑いながらステーキと付け合わせを完食したギュンター……どうだったんだ?
過大評価かもしれないが、この店に出てる肉と同等かそれ以上だと思ったんだが……魔族の口には合わなかったか?
でもグレーテもミハエルもそんなこと言わなかったし……いや村の皆を気づかって言わなかっただけなのかもしれない。
食糧を基に魔族領で商売するのは無理かな……と半ば諦めてかけていたらギュンターが口を開いた。
「開さん……これはダメです。」
やはりダメか、なら諦めて他の方法を考えるしかないな。
「美味しすぎます、これが流通しすぎたら魔族領で酪農や農業をしている地方の町や村の仕事が壊滅しますぞ。」
……あれ?
「ギュンター様がそれほどまでに褒めちぎるとは……グレースディアーは魔族領でも時々獲れますので味は知っていますがそれほどなのですか?」
ギュンターがここまで褒めるのは珍しいのか、傍から見ていた料理人が驚いている。
「旨味、脂の質、柔らかさ……肉を美味しく感じるために必要なものは色々ありますがこれは魔族領のそれとは一線を画していますぞ。
それにこの野菜も、シンプルな故に素材の味が強く出ますがこれもまた美味しすぎる。
開さんはこれをどれだけ流通させるかわかりませんが、商人ギルドで管理しないといけないレベルで美味しいのです。」
そこまでのものなのだろうか、まぁ確かに村のもののほうが美味しいとは感じていたがそこまでかけ離れたレベルとは思えない。
大衆向けのものは村のほうが格段に美味しいとは感じたけどな。
「ここは単純にいい料理店というわけではないのですよ、魔王様も来店されて食事をなされるレベル……いわゆる最高級料理店なのです。
そのような店で扱う素材はもちろん魔族領でも最高級のもの、そのレベルより美味しいと感じてしまうものを特に厳重な守りをつけるわけでもなく持ってきたということは、ある程度余裕を持って生産出来てるということでしょう。」
そういうことか、商人ギルドで許可を取ってその辺で売るのが最終手段だったからそれは危なかったな……ギュンターが気づいてくれてよかった。
武具でもそうだが、魔族領の仕事を奪うつもりは本当にないからな。
「買取は可能ですが、このレベルの食材を大量に買い取るとなるとすぐにお金を用意するのは厳しいですぞ……魚の分だけとおっしゃられてましたがどれくらいの量が必要になるので?」
「ざっと計算して最初は500人分くらいのものが何食分かあればいいと思っているが……。」
住民の数はそんなに居ないが、よく食べる種族もいるからまぁそのくらいあればいいと思う。
だが、そう伝えるとギュンターの表情が険しくなった。
「漁師たちの漁獲高を上げてもらわないと魔族領に十分な量の魚が足りなくなりますね……。」
それなら1回分とかでいいぞ、俺たちのワガママで魔族領の人に迷惑をかけるわけにもいかないし。
「とりあえず漁で揚がった最高級の魚を確保致します、そしてお肉と野菜と物々交換をしましょう。
それで味がお気に召したら今後の取引を前向きに、ということでどうでしょうか。」
最高級の魚か、魚の種類にもよるがマグロみたいな魚を丸々1匹貰っても困るしなぁ。
どちらかというと鯛とか鰯とか鯵が食べたい、いやマグロが食べたくないわけでもないが。
「一度漁から揚がった魚の種類が見たい、市場みたいなのはあるのか?
あるなら明日の早朝にでも市場に行って見てみたいんだが。」
「詳しいですね……まさにその通りでございます。
確かに、最高級の魚といえども色々な種類があります、失念していました。
では明日の早朝に市場でお待ちすることにします、場所を案内しますね。」
そう言ってギュンターとの話し合いは終了、食糧だけでなく技術もお金になりそうだな。
まぁ儲けて何かしようというわけでもないし、魔族領からお願いされるかこっちが困らない限りは何もするつもりはないがな。
ギュンターに市場までの道を案内してもらって、今日は帰ることにした。
「村長、未開の地に海は無いのに色々詳しかったですね。」
帰り際グレーテから疑問を投げかけられる。
「そこまで詳しいわけじゃないぞ、俺が前に居た世界には海がないほうが珍しくてな。
趣味で釣りが出来る程度には海があったから、漁とかの知識も勝手に付くようになったというほうが正しい。
本格的な漁の知識はないし、細かいルールなんかもあるだろうがその辺はさっぱりだな。」
「しかし魚か、ワシも数度食べたことはあるが開どのがそこまで欲しがるほどの味ではなかったと思うが……。」
オスカーが魚の味について過去の感想を述べた。
「食べたのは夜じゃなかったか?
どこで食べたかにも影響されるが、魚は肉よりも鮮度の落ちる速度は早いから魔族領の品質管理の技術じゃどうしても鮮度がガタ落ちしたものになると思う。
処理によって多少抑えることが出来るが、やはり魚は揚がって〆て血抜きした後すぐに冷凍するのが一番だ。
それか十分な広さの生け簀に入れて、食べる直前まで生かしておくかだな。」
「確かに食べたのは夜だった、残り物しかありませんが……と譲られたから納得したがそういうことだったのだな。
ならワシは本当に美味しい魚を食べてないことになる、楽しみになってきたぞ。」
食べれる食材のレパートリーが増えるのはいいことだからな、花の季節まで我慢かと思ったが思ったより早く手に入れることが出来そうだ。
先代魔王・魔王・ミハエルとの対談の日程にもよるが、まぁそんなすぐに決まることもないだろう。
向こうも家族と数百年経って再会出来たんだから、家族だけの時間をある程度過ごしたいはずだからな。
そう思いながら帰るために設置した転移魔術の魔法陣まで来ると、見張りの魔族が話しかけてきた。
「お帰りですね、開さんとお連れの方々。
魔王様から伝言があります、明日のお昼に話し合いをされるとのことなので、昼前に城までお越しくださいとのことです。
そこから話し合いをするための料理店まで案内すると伺ってます。」
魔王の血筋、案外ドライなんだな。
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