第58話 商人ギルドのギルド長と知り合うことが出来た。

謁見が無事に終わり、グレーテに案内してもらいながら魔族領の首都で食事をしている。


食文化は豪快で単純な味付けのものがたくさんある、お酒に合うものが多いイメージだ。


ちなみにお金はグレーテに出してもらっている、いずれ返すようにすると言ったが「こんなことでしか返せないんでもらってください!」とものすごい勢いで断られた。


貸し借りと考えず、恩を返してもらってると受け取ろう。


「うぅむ……調味料はスパイシーなものが多いのぅ、だが酒に合うものを手軽に作るならあながち間違いでもないの。

 素材の味は間違いなく村のものが良質じゃのぅ。」


デニスが食べながら村でも使えそうな調味料を選別している、まだお金は無いから見るだけ。


スパイシー……カレーが作れるかもしれないな、材料をデニスに見せて一回想像錬金術で作ったら再現してくれたり出来ないだろうか。


作り方は知ってるが、前の世界では一人暮らしだったしレトルトか外食でしか食べる機会がなかったからな……手に入れる方法が確立出来れば試してみよう。


食べ終わって散策再開、色々な人に声をかけられるがグレーテが上手くあしらってくれている。


そして色々なものが売ってる商店街にやってきた、老若男女いろいろな人が買い物や談笑をしている。


「通貨の文化って便利なのね、色々な人が自分に合った仕事を見つけて身の丈にあった生活が出来るし……何より領民が多いとこれが一番管理しやすそう。

 少し考えると悪いことも出来ちゃうのが難点だけどね。」


ウーテが首都の散策をしながらつぶやく、確かにその通りだ……みんながみんな悪いことをするわけじゃないけどな。


それを裁く法も整備されているだろうし、もしかしたら持ちつ持たれつかもしれない。


まぁそこまで深く踏み込む問題でもないさ、身にかかってきた火の粉は払わせてもらうが……俺以外の誰かによってだけど。




武器は鉄とぱっと見では分からない鉱石が使われている、鍛冶担当のドワーフ族ならすぐにわかるんだろうが。


「武器は見なくてもいいですよ、どう考えたって村のもののほうが高品質ですから。」


グレーテがさっさと通り過ぎていく……まぁ村の武具は特殊な例過ぎるからな。


メアリーの言う通り武具の流通はやめたほうがよさそうだな、苦労して作ったり手に入れたりしている人の仕事を奪うわけにはいかないし。


食糧も経済を混乱させるほど流通させるつもりも無いしな、調味料やスパイスは種さえ手に入れば村で育てれるから、魚の分さえ稼げればそれでいい。


「お、散策に出たと聞いたからこっちに来てみたら正解だったな。」


ギルド長とばったり会った、散策がひと段落したらギルドに戻ろうと思ってたからちょうどいい。


隣には別の恰幅のいい魔族も居る、この人は?


「商人ギルドのギルド長さ、俺の仕事が終わって商人ギルドに行ったらたまたま居てな。

声をかけたらこの通り興味津々でついてきたわけだ。」


「おぉ、この方々が未開の地の住民ですな。

 商人ギルドのギルド長をしてるギュンターと申します、以後お見知りおきを。」


「未開の地にある村の村長をしている開 拓志だ、こちらこそよろしく。

 冒険者のギルド長から聞いてるかもしれないが、相談したいことがあるんだ。」


「わかっております、ですがこのような道端でするような話でもありますまい。

 個室のあるいい料理店が近くにあるのですが、そこでいかがですかな?」


それはありがたいが、未開の地には通貨が無いから払うことが出来ない。


グレーテはそのお店を知ってるのか「あそこの代金を払えるほど持ち合わせはないですよ……。」と耳打ちしてきた。


「ありがたい話だが、未開の地には通貨の概念がないしグレーテも持ち合わせが無い……そちらにとって有益な話になるか確信もないしギルドに行って話をしてもいいか?」


正直に伝えるとギュンターは笑いながら「大丈夫です、全て私が持ちますぞ。」とさらりと言った。


さすが商人ギルドのギルド長と言うべきか、羽振りがいいなぁ。


「それに今有益でなくても、いずれそうなるかもしれないですからな。

 先行投資と思ってくださっていいですぞ。」


デニスはいい料理店と聞いて珍しくウキウキしてるし、お言葉に甘えようか。




「なるほど……食糧を売りに出すか直接の物々交換で魚が欲しいと……。」


「そうなんだ、手に入りさえすれば保存や流通は村で何とか出来るだろうし、魚の確保さえ出来れば問題ない。」


ケンタウロス族とプラインエルフ族、転移魔術がきちんと展開出来るまではドラゴン族の力を借りれば何とか出来るはずだしな。


そう思ってると、ギュンターが腑に落ちない顔をしている。


「村の皆さんが魔族領で食べる分だけかと思いましたが、村まで運ぶとなると難しいかと。

 魚は保存が効きませんぞ、獲れたその日に食べないと痛んでしまいますからな。

 限界まで冷やした地下室に入れても、1日持てばいいほうですぞ……。」


そうか、魔族領には生活魔術がないのか。


そもそも生活魔術自体プラインエルフ族が編み出した魔術なのかもしれないな、祭事に少しでも時間を割くためにってカタリナが言ってたし。


「保存については問題ない、村に住んでるプラインエルフ族が瞬間冷凍してくれるからな。

 後は食べるときに冷やした地下室で自然解凍させれば新鮮な状態で食べれる。

 獲れたてが一番美味しいのは間違いないけどな。」


俺がそう言った瞬間、ギュンターの目が輝きだした。


「な、なんですかその技術は!

 やはり魔族領名うての冒険者たちが沈んでいくほどの危険な地を生き抜いてる住民には、それだけ生活に長けた技術があるのですな!

 ぜひ、その技術を見せてほしいですぞ!」


それはいいが、食糧の買い取りないし物々交換の話が先だ。


「確かにそうですな、そういえば今持ってきているとのこと。

 ここの料理人に調理させて判断いたしましょう。」


ギュンターが料理人を呼んだので、デニスが持ってきた食料を渡す。


「これは未開の地から来られた方々が持ってきた品です、調理して出してもらえるかな?」


そうギュンターが伝えると、料理人は「かしこまりました。」と食糧を受け取り、厨房へ下がっていった。


「ここの料理は大衆に向けたものとは違ってまたいいのぅ、味の変化は食を楽しむには大事じゃからの。

 料理人も腕が良さそうじゃし、じゃがちと量が少ないのではないかの?」


「ここは格式の高い料理店ですので、仕方ないことなのです。

 素材も腕も一級品ですので、色々な味を楽しむために必要なことなのですぞ。」


貨幣経済なら当然こういうお店もある、前の世界では無縁だったから俺もちょっと落ち着かない。


「お待たせいたしました、上質なグレースディアーのお肉と野菜をお持ちいただいておりましたので、味を知るためにもシンプルにステーキと野菜の付け合わせにしてみました。」


おぉ、こうやって村で採れたものがお店の料理になるのは嬉しい。


味もいつも通り美味い、デニスの言う通りこのお店の人の料理の腕は良いんだな。


ギュンターの反応が気になったのでチラ見すると、プルプル震えていた。


どうした?


「わはははははは!

 これはこれは……。」


どうした、お気に召さなかったのか?


「はっはっは……これはまぁ……。」


笑いながら食べ続けるギュンター……ちょっと怖いぞ。

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