第34話 プラインエルフ族の使者が村に来た。

「うーん……ここは?」


家に運んでしばらくすると、ザスキアが目を覚ます。


「おばあ様、大丈夫?」


メアリーが声をかける、2人を見る限り仲が悪いわけじゃなさそうだよな。


「えぇ、ありがとうメアリー……。

 少しびっくりしすぎてしまったわ。」


「おばあ様、開様の力を見たでしょう?

 ドワーフ族とドラゴン族は花の季節になって移住しましたが、ウェアウルフ族・ケンタウロス族と力を合わせて氷の季節を越えることが出来てます。

 開様なら神の樹も移動させれますし、プラインエルフ族のしきたりにも口を出すこともないでしょう、移住をしてくれないかしら?」


メアリーからも後押しをしてくれる、ありがたい。


「すぐには決断出来ないわ、プラインエルフ族代々ここでずっと暮らしてきたのだから。

 ですが、里から1人村へ使者を出しましょう。

 稔の季節から少し経つまで村で過ごしてもらいます、その使者の報告を聞いて移住を決めましょう。

 開さんがしきたりに口を出さないというのが本当ならですが。」


内容によるぞ、住民に危険が及ぶなら許可は出来ない。


「毎日朝・夕暮れ・食事の前後に一族で神に祈りを捧げるのです。

 時間は1時間ほどですね、後は季節の変わり目にも神への感謝の祈りと祭事をそれぞれ3日ほど……それと……」


待て、まだあるのか。


全部聞いてるとキリがなさそうだな。


「まぁ村全体を巻き込まなければ問題はない、移住したら適切な仕事をプラインエルフ族に割り振るつもりだったからな。

 だが、長期の遠征でプラインエルフ族を連れて行く場合は許してやってくれるか?」


さすがに遠征中は勘弁してほしい。


「神への祈りは出来ればしてほしいですが、遠征のご迷惑になるなら簡易の祈りでも問題ありませんよ。」


「あのー、私たちも祈らなきゃダメ?」


メアリーがザスキアに恐る恐る確認を取ってる、その後ろにラウラもくっついて覗き込んでいるな。


「えぇ、あなたたちもプラインエルフ族ですから。

 一緒に住み始めたらそうなりますね。」


「祈りを捧げたって何もならないじゃない、神に選ばれた開様がしなくていいって言ったらしなくていいんじゃないかしら?

 ドワーフ族がせっかく作ってくれた出来たてご飯を冷ましてから食べるなんて私はイヤ!」


「そうです、やらなくていいですよ!」


2人ともよっぽど嫌なんだろう、まぁこれだけするとなると苦痛な人は苦痛だろうな。


プラインエルフ族は別に食事を作ったほうがいいかもな、ドワーフ族が移住してきて人手に余裕はあるだろう。


食堂も拡張したし。


「開様は神に選ばれてますが神ではありません、ダメですよ。」


「それに私は開様と、ラウラはクルトと結婚してるんです!

 妻の私たちが夫と離れて一族の祈りや祭事はやれないわよ!」


確かに、一族のしきたりや祭事とは言えちょくちょく離れ離れになるのは嫌だな。


ほら、クルトもめちゃくちゃへこんでる顔してる。


「あら、そうだったの?

 それは仕方ないのかしら……私が知る歴史では過去に他種族と結ばれたプラインエルフは居ないからどうしましょうね。」


「初の事例で夫の種族に合わせるということでいいんじゃないです?

 よっぽどじゃないと他種族と結ばれるのは珍しいと思うですし。」


「そうねぇ……私の知らぬところで結ばれてますから、特例であなたたちはしなくてもいいでしょう。

 でも神への感謝は絶対に忘れてはダメよ?」


ザスキアの決定を聞いて、クルトがパァァッという効果音が似合うほどの勢いで笑顔になった。


シモーネとウーテもホッとしている、俺も安心だ。


「神への感謝は忘れたことないわ、開様に出会えたのは神のおかげだもの!」


ザスキアは「そうでしたね。」と笑いながら返事をする。


うん、仲がこじれないまま解決してよかった。




しばらくして、ザスキアが使者を選び出し村に行くよう指示する。


使者の名前はカタリナというらしい、女性のプラインエルフだ。


使者は生活魔術が使えて、構築出来る者を希望していたがどちらも出来るとのこと。


いろいろ試せそうだな、1人だけでは負担がかかるのでやはり移住はしてもらいたい。


特別扱いするわけではないが、悪い印象を与えないようにしないとな。


「じゃあ、また稔の季節が少し経ったらカタリナを連れて里に来るよ。

 いい報告をさせるから期待してくれ。」


「ふふ、私はしきたりに倣った暮らしが一番だと思っていますから。

 ですが報告は期待しています、よろしくねカタリナ。」


「えぇ、わかりました。」


帰ろうとすると、ウーテが里の中を回りながらプラインエルフ族の1人と談笑していた。


コミュニケーション能力がすごい、だがもう帰るぞ。


ウーテを呼んで別れの挨拶を済ませ、里を出発する。


カタリナはずっと目をつむって震えながらウーテに乗っていた。




「さぁ、着いたわよカタリナ。」


メアリーがカタリナに声をかける。


「こ、怖かった……空を飛ぶなんて初めてだったし、ドラゴン族に乗るなんて畏れ多くて……。」


まぁいきなりハードルが高かったかもしれない、こういう事態を想定してなかったらケンタウロス族も連れてきてなかったしな。


「でも、やっと堅苦しいしきたりだらけの里から出れたわー!

 ありがとうメアリー!」


「選ばれたのは運が良かっただけだし、プラインエルフ族の移住を提案したのは村長である開様よ。

 お礼を言うのは私じゃないわ。」


別にお礼を言われるようなことはしてない。


「開様、ありがとうございます!

 一族が移住をしなくても私はもう里には戻りませんから、どんどん仕事を振ってくださって構いませんよ!」


古来の風習に固執して、若い人の意見を取り入れないのは前の世界でもあったな。


この世界だと外は危険だから出て行く人が少ないだけで、前の世界だとどんどん若者が都会に移って田舎は寂れていってた。


たまたま選ばれたカタリナでこの状態なら、割と真面目に考えたほうがいいぞザスキア……。


「それは個人の自由だ、だが俺は信仰や宗教に関して口を出すつもりはないぞ。

 神は実際に居る、それは俺が保証するからな。」


「神への感謝はしていますが、しきたりが多すぎるんですよね。

 メアリーとラウラとは顔見知りなんですけど、連れて行ってほしかったくらいですし。」


「あなた戦えないでしょうが……私たちは何回も死にかけたのよ。」


「やっぱり行かなくてよかった……。」と少し体を震わせながらカタリナは小声でつぶやく。


顔見知りなら積もる話もあるだろう、案内をしながら3人で村を回ってくれと言うと「わかりました。」と快諾して案内をし始めた。


さて、俺はカタリナにしてほしい魔術の確認とそれをまとめる作業をしてくるか。


明日には仕事に移ってもらおう。

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