第22話 両親との和解。

「開様、大丈夫でしょうか。」


後から追いかけてきたメアリーが、怖がった表情で問いかけてくる。


「クルトの話だと危害を加える性格じゃない。

 俺はクルトを信じてる、きっと大丈夫さ。」


そう話してると、2頭のドラゴンが平原側にある門の前に降りた。


「そこの人よ、まずは突然の来訪を詫びる。

 我はドラゴン族の始祖リムドブルムのオスカーと、妻のシモーネだ。

 危害を加えるつもりはない、民に安心せよと伝えてくれないか?」


「わかった。

 メアリー、みんなに危害の心配は無いと伝えてきてくれ。」


「わかりました。」


さて、こちらも自己紹介をしないとな。


「すまない、挨拶が遅れた。

 俺は開 拓志、さっきのプラインエルフが妻のメアリーだ。

 神に異世界から転移させられ、この地で暮らしているただの人間だよ。」


自己紹介をすると、オスカーもシモーネも目を見開いた。


「神に転移……信じがたいが、人間が複数の種族を束ねているということは力があるのだろうな。

 まぁそれはいい、一つ尋ねたいことがあるのだ。」


「名前がクルトという子どものドラゴンを見なかったか、じゃないか?」


「そうだ!

 今どこにいるかわかるのか!?」


「どこにいるも何も、この村にいるさ。

 今警備のウェアウルフ族に呼んできてもらっている。」


オスカーとシモーネは安堵の表情を浮かべた。


「よかったわ、クルトが無事で……。」


シモーネは不安が無くなったのか涙を流した。


我が子がケンカで家出したんだ、心配して当然だろう。


「クルトを引き留めてくれて感謝する。

 ドラゴンが村に居ると畏縮させてしまっただろう。

 引き取って帰った後、改めて礼をしにこちらへ来させてもらう。」


ドラゴンのお礼ってなんなんだろうな、気になる。


「大丈夫だ、クルトは村に馴染んでくれたぞ。」


「クルトが他種族と上手く交流していたのか、成長したんだな……。」


オスカーはしみじみと子どもの成長を喜んでいた。


上手く馴染むどころか、奥さん見つけてるけどな。


それは本人の口から言ってもらおう。


「父さま、母さま……。」


お、本人登場だな。


バツが悪いのかいつもの元気がない。


「クルト!

 心配かけるんじゃないの!」


シモーネはクルトに抱き着いて叫ぶ。


よほど心配だったんだろう。


「ごめん、母さま……。」


「まったく、心配かけおって。

 さぁ、帰るぞ。」


オスカーが帰りを促す。


「父さま、母さま。

もし僕が帰らないって言ったら許してくれる?」


クルトがシモーネから離れ、真剣な表情で両親に問いかける。


「……理由次第だわ、私たちを納得させるほどの理由がクルトにあって?」


シモーネは瞬時に真剣さを察したのか、真剣な表情で返答した。


オスカーも黙って2人を見ている。


「この村に好きな人が出来た。

 僕の隣に居るプラインエルフのラウラだ、夫婦の契りも交わしている。」


包み隠さず言ったな。


ラウラも恐怖と恥ずかしさが入り混じった表情だ。


「クルトと契りを交わしたプラインエルフのラウラです。

 ご両親とケンカ別れとわかっていながら、クルトの熱意に負けて今の関係に至ってるです。

 挨拶が遅れたことを許してほしいです。」


持ち直して真剣に挨拶をするラウラ、えらいぞ。


「ワシらが持ってきた縁談を蹴って飛び出したのはそれが理由か?」


オスカーもシモーネも険しい表情だ。


ケンカの理由は、クルトがしたくない縁談だったか。


「違うよ、それは本当にしたくなかった。

 ウーテのことは良く知ってるよ、だから夫婦になる仲じゃないって言ってるって何回も言ったじゃないか。」


「親同士が決めた縁談なのは認める、子どもたちの意思を確認してないのはこちらが悪かった。

 だが、その飛び出した先で妻を見つけたと言っても、ラウラとやらを隠れ蓑にしていると取られても仕方ないぞ。」


「それは絶対に違う!

 ラウラは一目惚れだったんだ、僕にはこの人しか居ないって!

 今まで感じたいことない衝撃だったんだ!」


クルトがドラゴンの姿になり、怒りをあらわにして両親に食って掛かっている。


それだけラウラに真剣ってことだろうな。


ラウラの顔が真っ赤になってる。


「ウーテにはきちんと謝る、感情的になって飛び出したことも謝るよ。

 だけど僕のラウラへの気持ちをそんな風に言うのは、たとえ父さまと母さまでも許さない!」


クルトをじっと見つめ、ふーっとため息をつくシモーネ。


諦めた顔をしている。


「わかったわ。

 あなた、私たちの負けね。」


「……そのようだな。

 あの温厚なクルトがここまでワシらに食って掛かるとは。

 本気なのは伝わったぞ。」


よかった、ドラゴン同士の肉体言語が始まったら止められなかったぞ。


「ここに残るのを許可しよう。

 ただし条件がある、ラウラさんを連れてウーテに謝りに行くんだ。

 ラウラさんも巻き込んで申し訳ないが、飲んでくれるか?」


「もちろんです。

 もうこれは私たちのトラブルですから。」


「いい子を見つけたのね、クルト。」


「うん、ラウラは一番だよ。」


人間の姿に戻り、笑顔でシモーネに返事をする。


「息子が取られたようで寂しいわぁ。

 ラウラさん、ウーテに謝りに来るときはうちにも泊まっていってね。」


「えぇ、わかりましたです。」


本当に話の分かる両親でよかったな。




今日は話したいこともあるらしく、泊まっていくことに。


親としては当然だろう。


泊まる場所がないと思い、俺の家の近くに家を作る。


オスカーもシモーネも、顎が外れるくらい口を開いて固まった。


うん、いいリアクションをありがとう。


「神からもらった業、すごいな……。」


「実際すごいと思ってるよ、不便だと思ったら作り直したりするから言ってくれ。」


「うむ……。」


シモーネは表情が真剣になり、黙って俺を見ている。


何か変だったか?


「みなさーん、食事の準備が出来ましたよー。」


メアリーの声が聞こえる。


「2人とも、俺の家で食べよう。

 あっちに持っていってるみたいだ。」


「うむ、ごちそうになる。」


「えぇ、ありがとう。」


クルトは少しお説教をもらったが、その後は歓談をして食事を終える。


「しかし、氷の季節にここまでの食事を頂いてしまうと申し訳ないな。」


「ほっほ、心配せんでくだされオスカーどの。

 開どののおかげで、この食事を村全員が毎日しても氷の季節は乗り越えれるでの。」


デニスが笑いながらオスカーにそう言うと、2人とも固まってしまった。


まぁ、最初はそうだよな。


慣れてくれ。


しばらくすると、シモーネが俺に話しかける。


「開さん、何でもいいのでもう一度神から頂いた業を使っていただけるかしら?」


想像錬金術イマジンアルケミーっていうんだ。

 そうだな、じゃあクワが少し痛んできてるしついでに作り直すか。」


そういってクワを手に取り、想像錬金術イマジンアルケミーを使う。


「開さんは人間、とおっしゃいましたね?」


「あぁ、そうだ。

 この世界に来るまでは剣術も魔術も縁がない世界で過ごしていた。」


「神も意外におっちょこちょいかもしれませんね。

 それで済む話でもないのですけど。」


どういうことだ?


「開さん、想像錬金術イマジンアルケミーを使っていると疲れたことはない?」


「あぁ、確かに何度かあるな。

 大きいものをいくつも錬成した時や、連続して使うと疲れる。」


「開さんは神から多少魔力をいただけてるみたいだわ。

 ですが、それが枯渇しても使える業のようね。

 緊急時に使えない、ということがないようにと思った処置なのでしょうが。」


シモーネの言葉を聞いて、メアリーとラウラがハッとした顔をしている。


「「まさか……!」」


「えぇ、そのまさかでしょう。

 開さんは、魔力が無くなると生命力を消費して想像錬金術イマジンアルケミーを使っているわ。」


それってやばくないか?

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