第21話 氷の季節、そして来る迎え。

氷の季節に入った。


毛布も村全体に配り終え、氷の季節が過ぎるのを待つ。


狩り部隊の鍛錬も外でするのは忍びないので、鍛錬所を作った。


体を壊さない程度にするんだぞ。


雪もチラホラと降ってきて大分寒くなっている。


医療施設もないし、風邪をひかないように体調管理をすることをみんなに伝えた。


「風邪は他の病気も併発しますからね、栄養が充分取れるので大丈夫だとは思いますが。」


メアリーが安心したように言う。


冬に食べ物がないとそういう危険もあるのか。


みんなが食べ物と氷の季節に過剰気味に恐怖してる理由がわかった。


食べるものがないだけじゃないんだな。


改めて今の環境が作れたことが幸運だと認識。


剣術や魔術じゃこの状況は作れなかったから、想像錬金術をもらって正解だ。


しかし特に何か仕事があるわけでもなく、手持ち無沙汰。


暇なので簡単に作れるゲームでもしよう。


将棋がいいかな、全部木で作れるし。


倉庫に行き将棋の盤と駒を錬成。


メアリーを誘い、やってみるということでルール説明。


難しそうな顔をしてたが、なんとかルールを理解したらしく勝負開始。




初戦から惨敗した。


5回やって1回も勝てない。


強すぎないか?


「ご、ごめんなさい……。

 でも後のことを考えて考えれる最善手を繰り返してただけなんです。」


「実際それが将棋で必要なスキルだが、どれくらい先まで読めたんだ?」


他にも定石を覚えるとかはあるが、俺もそこまで詳しくはない。


「最終局面まで考えて、パターンは数百通りほどですかね?」


メアリーには一生将棋で勝てないな、俺にそんな芸当は出来ない。


途中から見ていたラウラとも対戦。


予感はしてたが、やっぱり負けた。


先を考える力が2人ともすごいんだな。


ちなみに姉妹対戦はメアリーの圧勝。


「メアリー姉は普段脳筋なのに、こういうの得意なんですよね。」


そう言った後メアリーからゲンコツをもらっていた。


「結構痛そうな音がしたが、大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ?」


メアリーに聞いたんじゃなくて、頭を抱えてうずくまってるラウラに聞いたんだが。


メアリーもやりすぎはよくないぞ。


でも、ラウラも言葉を選ぼうな。


クルト、さっきのはラウラも悪いからメアリーを威嚇するな。




少し外の様子を見に家を出る。


雪はちらついてる程度で積もりそうではない。


少々は積もることもあるが、滅多にないとのこと。


豪雪地帯でなくてよかった。


鍛錬所では未だに掛け声が聞こえる。


住人が強くなるのはいいことだろうが、心配になる。


家庭は大丈夫か?


そう思いながら、警備に声をかける。


「異常はないか?」


「はい、異常ありません!」


何もないのはいいことだ。


だが、寒い中ずっと警備はかわいそうに感じる。


「デニスに言って温かいスープを作ってもらっておくよ。

 氷の季節の間はそうしてもらうから、休憩中に飲んで温まってくれ。」


「そこまでしてもらうわけにもいかないです、ケンタウロス族から防寒着と毛布もいただいたので!」


「ダメだ、それだけでは冷えた体は温まらないぞ。

 万全の体調を維持するためにもキチンと温まるんだ。」


「わかりました、お心遣い感謝します!」


うん、それでいい。


氷の季節は狩りもほとんどしないから警備が一番しんどい仕事だ。


それくらいしてやらなければな。


「なら、俺は他の門の警備にそう伝えてくるから。

 しんどいだろうけど、引き続き警備を頼んだよ。」


「はい!」


無理をしてない様子だったのでよかった。




他の門の警備にスープの件を伝え終わり、食堂へ。


「デニス、警備が休憩に来たら温まれるようスープを常時作っておいてくれないか?」


「開どのは優しいのう、構わんぞい。」


優しいのか?


警備を思えば当然だと思うがな。


「ついでに俺にも温まるものを頼むよ。」


「ほいほい、任せい。」


そう言ってデニスは唐揚げを持ってきた。


温まるとは違わないか?


温かいけどさ。


「酒が欲しくなるじゃないか……。」


「わしも飲んで開どのと話したいから付き合ってくれ。」


まぁいいけどな。


「正直びっくりしておるんじゃよ、他種族が一緒に暮らして氷の季節を確実に越せる見通しが立つのが。

 しかも犠牲者も無し、この地において初めての出来事じゃないかの?」


「そんなにか?

 人数が居れば仕事を適材適所に配置出来るじゃないか。」


「仕事はそれで大丈夫じゃ、しかし食料面がの。

 どうしても取り合いになるのが普通じゃ、自分の種族を第一に生かしたいのは長として当然の気持ちだからの。」


確かにそうか。


肉だけじゃ栄養が取れないし、そちらも量が獲れなければそうなるか。


肉を捌く工程と野菜と穀物は俺の想像錬金術で済ませてるからな。


「それに酒の量も充分、武器もエンチャント付きと至れり尽くせりじゃ。

 いずれ未開の地すべての種族が集まるんじゃないかの?」


そんなに他種族を束ねるほどになれるかはわからない。


「まぁ、そうなったらそうなった時だ。

 無理に誘うつもりはないが、来た種族を拒むつもりもないぞ。」


「ドワーフ族はいつこっちに移ってくるかのう。

 こっちでも鉱山があれば移ってこさせれるんじゃが。」


「花の季節にダンジョン攻略が出来たらダンジョンコアを持って帰ってくるらしい。

 成功すればある程度ダンジョンの構成を設定できるはずだから、鉱石類も出来れば試してみるか?」


「おぉ、それはありがたい。

 まぁ出来たらでいいぞい、ダンジョンは危険な場所だからの。」


もちろん、安全第一でしてもらう。


無理そうなら即撤退は出発前に念を押すつもりだ。


「さて、そろそろ戻るよ。」


「おぉ、スープは仕込んでおくでの。」


頼んだぞ。




見回りも終わったし、家に戻るか。


将棋のほかに、暇つぶしを考えないとな。


さすがに実力差がありすぎてお互いつまらない。


なんて考えてると、平原側の警備から銅鑼の音が聞こえる。


どうした!?


慌てて振り返ると、声を聴かなくても何が起きてるかわかった。


クルトの数倍はあるだろう大きさのドラゴンが2頭、こちらに向かっている。


迎えが来たか。


「クルトを呼んできてくれ。」


平原側の門まで走り、警備に伝える。


「わかりました!」


警備のウェアウルフ族がクルトを呼びに行った。


さて、どうなることやら。

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