妹の錬金術師

結野ルイ

妹の錬金術師

 年齢=彼女出来たことがない俺は17年目のクリぼっちを送っている。Vtubeで配信を観ながらクリスマスイブを過ごす中この年では恥ずかしいがサンタにある事を願った。


『新しい家族が欲しい』と。


 しかし、何も起こらない。現在の時刻は深夜二時を回っていた。


「まぁ何も起こらないよな。あはは」


 サンタでも無理だったのだろう。諦めてベッドに向かい布団を被りながら俺はつい言葉が出てしまった。


「妹でもできたらいいのになぁ~」


 その瞬間、さっきまで座っていた床が突然光り始めた。

 布団に少し隠れて様子を窺うと、声が聞こえてくる。


「我は大悪魔。我を呼んだか?」

「へ?」


 怪しげな煙が立ち込めたと思うと、なんとその中央には黒い尻尾を生やしたそれがいた。


 普通、悪魔と言えば大人だと想像するだろう。

 しかし、俺の目の前に現れた彼女は違った。


 めっちゃ幼女なんですけど!!


「呼んだのかどうか聞いてるの!」


 幼女は両腕を下に突き出し、頬を思いっきり膨らませている。


 ナニコレ、カワイイ。


「いや俺はただ妹ができたらいいのになぁと愚痴っただけで」

「なるほど! じゃあ私とつくろ?」


 つくるって?


「は? いやいやいやいや! アウトだろ!」

「こう見えても私はお兄ちゃんよりも大人なのです!」


 幼女は俺を布団に押し倒した。


「やめええええええ!」

「いただきま~す」


 カプ。チュ~チュ~。


 幼女はいきなり俺の肩に噛みつき血を吸い始めた。


「し、死ぬ」

「死なないよ~。逆にいいかもしれないよ? ハムちゅ~」

「やめろおおおおおお!」


 その会話を最後に俺は意識を失った。


 翌朝。

 どうやら俺は死ななかったようだ。


 なんだ、夢かぁ。


「起きないとバイト遅刻するよ! はやく起きてってば!」


 夢じゃなかった。


「うるさいなぁ。今日のバイトは午後からだからもう少し寝かせてくれよ~」

「ダメ! 私の朝ご飯作るのお兄ちゃんでしょ!」

「は? そうだっけ……」

 

 ん? まてよ? そもそも俺にお兄ちゃんとか呼ぶ家族なんかいなかったはずだがあれでも、俺を起こしに来ているこの声てどう聴いても女の子の声だよな? あれ、おかしいなぁ、確かに昨日サンタに新しい家族が欲しいと願ったが妹が欲しいとは一言も言ってない気がするんだが、あれでも寝ようとして突然床が光始めたてことは覚えているんだが、あの後何が起こったんだっけ。


「いい加減に起きないとダイレクトキックするよ?」

「え~。可愛い妹にされるなら本望」

「きゃー! 変態だ~! なんてね」

 

 そのあといるはずがない妹にたたき起こされ、なぜか俺が二人分の朝食を作る羽目になったが、いるはずがない妹の「美味しい」て言葉に癒しを感じた。

 いや、もしかしたら本当に俺に妹がいたかもしれない。


「俺の可愛い妹よ。俺には一応妹がいなかったはずなんだが……」

「えー。何言ってるの? 十数年一緒にいたのにまさか覚えてないの……」

「ああ、全く。お前の名前も思い出せないよ」

「え……。美冬だよ。み・ふ・ゆ! 美しいて書いて冬て書くの」

「あ~。美冬ね。じゃあ美冬に問う」

「ん? お兄ちゃんのことでクイズ?」

「ああ、そうだ」


 これをすべて答えることができたら、人生が変わったということになるだろう。

 少し怖いがやるしかない。すまない美冬。お前を疑ってるわけじゃないんだ。


「じゃあ俺の好きな食べ物は?」

「甘い物。大体はお菓子。その中でもよく食べてたのはパッチンプリンだよね。だってよく私にプリン分けてくれたもん」


 あってるだと! しかも俺が毎日食べているプリンのことまで……。


「次な。俺達の両親は今どこにいる?」

「それお兄ちゃんのことじゃないよね?」

「いや、関係ある。両親に先日頼んだお土産は何だ?」

「えーとね。今お父さん達アメリカに行ってるから確か、ビーフジャーキーだよね? しかも天狗のやつ」

「せ、正解だ」

「えへへ~。てかもういい加減こんなのやめよ?」


 二日前に両親はアメリカにバカンスにしに行った。こんな真冬ならカナダでもよかったんじゃと思ったが、なんでもアメリカにできたレストランの初回入場券が当たったらしい。

 親父に家を出る際、お土産は天狗のビーフジャーキーにしてくれと頼んだのである。


「ああ、これで最後だ」

「えーまだやるの~。友達待たせてるのに~」

「それはすまん。じゃあ最後の問題だ。俺のエロ本の隠し場所はどこだ?」

「はぁ!? そんなクローゼット内でしょ! この変態!」


 ぶちぎられて右ほっぺをビンタされた。

 これが愛の鞭なのだろうか。


「さてと、バイトの準備するかぁ」


 コンコン


「ん? 美冬か? お前もう行かないとやばいだろ」


 何も反応がない。後ろを恐る恐る振り返ると、扉の方には黒い尻尾を生やした幼女がそこには立っていた。


「にぃに。あそぼ」

「え? お前は……」


 彼女の表情が険しいものに変わり、怪しい煙が立ち込めた。


「我のことを忘れたというのか?」


 ぼんやりと覚えている。

 たしか寝る前に……。あれ、俺は昨日なにをしていたんだっけ……?


「貴様の好みの妹を作ってやったのだぞ。まあ、覚えていないだろうがな」


 なんのことだ?


「おもしろそうだから我も……、いや、わたしも妹になってやることにした」


 意識がぼんやりとする。

 頭の中に声だけが響いているような感じで気持ちが悪い。


「にぃに!」


「!」


 はっとする。

 あれ? この子は……?


「おねぇはもう行っちゃったから、その一緒に遊ぼ。にぃに」


 ああ……。俺の妹だったか?


「そうだな、いいけど。どうした尻尾なんて付けて?」

「本物だよ? ちゃんと猫耳もあるよ? 見る?」


 妹はたしかに尻尾と猫耳が付いていた。

 まるで悪魔のような。


 こんな妹がいたのだろうか、俺の好きな要素が抜群に詰まっているこの妹のことを。

 あー。なんということだ。


「どうしたの? まさか妹のこと忘れちゃったの?」


 かわいく頬を膨らませて、俺に上目遣いを送ってくる。


「え? いや、そんなわけないだろ」

「じゃあ名前は?」

「えっと……」

「ふふ、仕方ないよ。にぃに昨日は頭を打って寝てたから、少しど忘れしたのかもしれないね。私は美奈。おねぇと一緒の美と菜の花の菜だよ?」

「ああ、そっか。そうなんだ。ごめんな。忘れてて」

「いいの。にぃにはにぃにだから」


 美奈は俺の膝の上に座りこっちに笑顔を見せた。


 ドキッ


「ほ、本当にお前は俺の妹なのか?」


 実はマジで好みすぎて、こんな妹に俺はもう……!


「あ~、にぃに、やらし~こと考えてる~」


 ギクッ


「ソ、ソンナコトナイデスヨ」


「ふーん」


 挑発的な目を向けて、


「耳なら触ってもいいよ?」


 ぴょこんと生えた猫耳に指をさした。


「え、いいのか?」

「にぃにのプリンくれるなら」


 安い安すぎるぞ! お兄ちゃん頑張って高いプリン買ってきてあげちゃうぐらいおつりが返ってきそうだ……。

 妹おそるべし……。


「じゃ、じゃあバイトの帰りに買ってくるからその時お願いするわ」

「うん! アイス追加してくれるなら尻尾もいいよ?」

「マ、マジですか」

「うん。別に減るもんじゃないもん」


 や、やべぇ俺の妹こんなにかわいいのか! お兄ちゃん妹のためなら何でも貢ぐぞ!


「にぃに、そろそろ時間」

「ん? あ、サンキュー。そこから降りてくれるか?」

「うん」

「わりぃな」


 美奈が膝の上からどいた。

 俺はバイトの道具が入っている鞄を持ち、部屋から飛び出した。

 すると、俺の後ろから猫耳娘がおりてきて言った。


「にぃに。がんばって」

「おう!」


 俺はなぜ二人の妹のことを忘れていたのだろう。

 思い出せない。

 しかし、そのことはもう気にしないでおこう。

 これ以上彼女達に聞くと病院に連れてかれそうだ。

 さてと、今日も妹達のために頑張ります! 

 帰りにプリンとアイス忘れずに!

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