61.マナポーター、スタンピードを率いたモンスターの正体を知る

「500体は居たかな。ここから――あの森までモンスターが埋め尽くしてたんだぜ? 地獄みたいな光景だったよ」

「この近隣では見かけないモンスターも多数居たな……」


 行商人とその護衛が、大通りからだいぶ離れた森の入口を指さした。

 ここから数百メートル離れている森あった。

 それを埋め尽くさんばかりにモンスターが発生していたとすると、まさに地獄と呼ぶにふさわしい光景だろう。



「あれが向かって来たらと思うと、生きた心地がしなかったよ」

「でも不思議だったよな。こちらを見ているだけで、しばらくしたら用が済んだとばかりにどっかに行きやがった。襲われた人も居なかったんだろう?」


 彼らによれば、特にモンスターに襲われた人も居なかったらしい。


「立ち去るモンスターの群れの先頭には、美しい女性型のモンスターが居たな。人型のモンスターなんて珍しいもんで、思わず二度見しちまったよ――」

「おま、そんな余裕あったの!?」


 行商人たちの話は続く。

 彼らが見たというスタンピードを率いる群れのリーダーの話は、是非とも聞いておきたいところだ。



「そのモンスターについて、もう少し詳しく話を聞くことは出来ますか?」


「といっても、チラッと見ただけだしなあ。珍しいと言えば、スタンピードのモンスターが、立ち去る前には一斉に跪いたんだぜ?」

「モンスターが絶対の忠誠を誓うモンスターか。まるで――魔王だな」


 行商人たちはハハッと笑い合った。

 もちろん魔王がこんな所まで出てくるはずがない。


 ごくりとリリアンが唾を飲んだ。



「美しい女性の人型モンスター? そのモンスターは、水みたいに透き通ってた?」

「おお、よく分かったな。お嬢ちゃんの言う通りだ!」


 行商人はガッハッハと笑った。

 目に付いた者に襲い掛かるだけの低知能な生き物。

 そんなモンスターへの印象を覆す、統率のとれた軍隊のようだったと彼らは語る。



「チェスターさんは、その様子を見ましたか?」

「すまない。仲間に回復ポーションを飲ませるのに必死で――勇者の野郎に襲われた後のことは、あまり覚えていないんだ」


 僕の疑問に、申し訳なさそうに答えるチェスター。


「もう良いかい?」

「はい、協力ありがとうございました!」


 旅立つ行商人にお礼を言い、僕たちは顔を見合わせる。

 スタンピードの規模は決して小さな物ではない。

 それほどの規模の群れを率いる強力なモンスターが居るという事実。


 どう考えても楽観的には捉えられない。

 重々しい沈黙が広がり――


「間違いない。四天王・ウンディネ」


 リリアンが呟いた。




◆◇◆◇◆


「ええっと、話をまとめると――」


 透き通る水のような女性型のモンスター。

 リリアンは行商人の話を聞いて、スタンピードを率いていたのが魔王直属の四天王・ウンディネであると確信したようだ。

 勇者である彼女は、魔王の配下のモンスターにも詳しいのだ。


「でもそんなやばいモンスターが、なんでこんなところに居たんだろう?」

「モンスターは、ある目的を持っていた。その目的を達したから立ち去った――そう考えるのが自然なの」


「う~ん、目的と言ってもなあ。そんな短時間で何が出来たんだろうね?」


 まるで見当が付かなかった。



「アランが逃走に成功したッスね」

「みー。魔王の作戦に居合わせた勇者の行動じゃない」


 そんなことを、ミーティアたちが何気なく口にした。


 頭によぎる1つの仮設。

 スタンピードの発生による混乱。

 アランの逃亡。

 目的を果たして去っていくモンスターの大群。


 一連の出来事がすべて繋がっているとしたら――?


「先輩、どうしたんですか?」

「あり得ないとは思うんだけど……」


 最初からアランを逃がすことを目的に、四天王のひとりがモンスターを率いて姿を現したとしたら?

 少しだけ考え、僕は馬鹿馬鹿しいと首を振る。


「――そんなことある訳ないか。目的が分からなすぎる。勇者を助けるためにモンスターを向かわせるなんて」


「いいえ、そうとも言い切れないと思います。現にアランはモンスターと対峙することもなく逃げ出した訳ですし……」

「みー。勇者と魔王が裏で手を結んでいる。もしそうなら……いつから?」


 あり得ないよね、と僕は軽い冗談で流そうとしていた。

 しかしそれに応えるメンバーの表情は、実に真剣なもの。



「魔王に近いモンスターが群れを率いていたことは、ギルドに報告しよう。これ以上は考えても結論が出ない。ギルドに任せるしかないよ」

「分かったの」


 この場で調べられることは分かったはずだ。

 そうして僕たちは、ノービッシュの街に戻るのだった。


 ――荒唐無稽こうとうむけいとも思われたモンスターと勇者の繋がり

 ――そう遠くない将来に判明する事となる

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