第28話 その正体は

昭仁あきひと君、無事かい?」


「愚問ですね。無事に見えますか?」


「だろうね」


 その隣りではひなたは大泣きし、なみは沈黙していた。当然のことだ。あんなの死んだも同然の出来事。それが間一髪で助かったのだから。

 賢人けんとは、ひなたにそっと服を渡し、なみには服を被せてから治療にあった。


「気を失っているだけか。酷く絞められた後はあるが無事か」


賢人けんとさん、あの人は?」


「あれは一尉いちじょう家の現当主である一尉いちじょうたけるさんだよ。みやびちゃんのお父さんさ」


 一尉いちじょうたける

 齢四十歳にして、藤花爛漫とうからんまんを全て使いこなす術師である。

 一尉いちじょう家は、安部家の右腕として活躍していたが今はその座を九條くじょう家に譲っている。


「あまり時間をかけて勝負するのは、好みじゃないのですよ。短期決戦といきます。八重黒龍ヤエコクリュウ、害悪を取り除くのです!」


 八重黒龍ヤエコクリュウは、大きな口を開き金鬼きんきを喰らい尽くそうとした。

 がしかし…その攻撃に耐える金鬼きんきの鋼鉄のような体があった。


「ガハハハッ! この程度の攻撃で俺様の破壊出来ると思うなよ!」


 金鬼きんきが飛びかかってくる。

 とにかく猛攻。たけるは避けるので精一杯のようにみえる。一尉いちじょう家には弱点がある。そもそも一尉いちじょう家は式神使いに似た術師である。そのため自分が戦うことがあまりない。近接戦は不得意なのだ。


「オラオラ、どうした⁉︎ 俺様の攻撃を避けるので精一杯なのか!」


 そしてもう一つの弱点があった。これはたけるに限られているのだが、実は保有している霊力は並の術師レベル。本当なら睦式・八重黒龍ヤエコクリュウなど使えるレベルではないのだ。それどころか伍式・八重紅虎ヤエベニトラすら使うのは難しい。

 なぜたけるが睦式まで習得出来たのか。それは固有術式が絡んでいる。

 固有術式・消費低減グリーンエコ

 これは全ての霊力消費を半分にすることができる。故に使えるのだ。しかしそう長くは使役することは不可能のも事実であった。


「これ以上は八重黒龍ヤエコクリュウを酷使出来ませんね」


 そう言って八重黒龍ヤエコクリュウを消した。


「え? なんであの龍を消したんだ?」


たけるさんは、術師として本当は恵まれていないんだ。だから安倍家の右腕としての役目を九條家に譲った。一尉いちじょう家としての誇りである霊力の保有量は過去最低。だから…怪異師を辞めようとしたんだ」


「え…? ってことはもう勝てないんじゃ?」


 昭仁あきひとたちに再び絶望が舞い降りようとした。


「残念ですが、貴方の敗訴は確定しました。勝つためにはそれなりの情報と手段を使うのが一番なのですよ」


「俺様が負けるだと? どう見てもピンチなのはお前だろ!」


「参式・白斑蛸シロフダコ


 たけるの足下から、蛸のような触手が無数に出てきて金鬼きんきの動きを止める。


賢人けんと君! 出番ですよ」


「任せてください! 既に弱点は見つけてますから」


 賢人けんとはすでに弱点検索ウィークサーチを発動していた。全身が堅い金鬼きんきにも弱点は存在していた。


「脇の下が弱点ですね! そこの強化は出来なくても別状問題はないってことです。隠してしまえばいいだけのこと」


「お前! 何故それがわかる⁉︎」


「これで貴方の敗訴が確定しましたね。ではこれにて閉廷!」


 触手が金鬼きんきの腕を上げ、脇が見えるようにした、そしてたけるの術式が金鬼きんきを切り裂いた。


「一式・燕草ツバメソウ


 金鬼きんきの腕はもげ、血を流して倒れる。だが、そこにいたのは今日見たいずみ夫妻の男性の方だった。


「どうして…? なんで佳純かすみのおじさんが死んでるんだよ⁉︎」


 昭仁あきひとには訳がわからなかった。


「まさか…他の鬼も…和真かずまのおじさんとおばさんで、佳純かすみのおばさんだったってことなのかよ…」


 ここから怪異師の戦いは事態を悪化していくこととなる。

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怪異師伝奇 荒巻一 @28803

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