第392話 狼騎士セサミを融合召喚
今日は完成したセサミの新モデルのお披露目配信だ。既に待機所にはワクワクテカテカしながら待っているセサミファンが多い。時間になったので配信を開始しよう。
「みな様おはようございます。本日の配信はセサミの新モデルのお披露目ですね。散々立つなと言われたセサミがどうなるのか。それはみな様自身の目で確かめて下さい」
『待ってた』
『#セサミ立つな』
『#セサミは女の子』
『どう見てもセサミはメスの顔しているんだよなあ。オスだと思ってた奴は反省して?』
「なんで話題がセサミばかりなんですか。このチャンネル主は私、ショコラですよ! 少しはサキュバスメイドの姿を見て盛り上がって下さいよ」
『ショコラブは置いてきた。布教はしたがハッキリ言ってケモナーについてこれない』
『セサミ出してやくめでしょ』
「ええ……」
なぜかチャンネル主なのにアウェイな空気になっている。それ程までにあの畜生の人気が凄いということか。この空気の中、あのモデルを出すのは正直気が引ける。セサミ過激派が多い今、新モデルの出し方を間違えたら炎上は必至。
「わかりました。それでは、新モデルをお見せしましょう。セサミ、おいで」
ショコラが指笛を吹くと、画面外からセサミの新モデルが飛び出てきた。元のセサミの大きさより一回り、いや、二回り以上も大きくなっての登場である。
『セサミ!?』
『なんか大きくない?』
『デカ過ぎんだろ……』
みんな最初はセサミのデカさに気を取られている。しかし、お屋敷の庭園を駆け回るセサミの姿を見てみんながあることに気づいた。
『セサミの頭が2つになってる?』
『ケルベロスからオルトロスになってる!?』
『顔つきもなんか変わってる。前よりえちち度が増してる』
えちち度についてはよくわからないけれど、セサミの顔も変化を加えたのは事実だ。
「ふふ、気づきましたか? セサミの頭が1つ減ってオルトロスになりました。今までは3つも頭があったせいで体に栄養がいかずに成長が阻害されていましたが、オルトロスになったことで栄養が十分に行き渡りデカくて顔つきも大人っぽくなったわけです」
『これはこれでヨシ!』
『少女系からお姉さん系になったわけね』
『良かった立ったセサミはいなかったんだね』
みんなセサミが立たなかったことに安心しているようである。しかし、俺の目的はセサミを立たせることにある。これで終わるはずがない。
「さて、みな様。そろそろ疑問が出てきたんじゃないんですか? 消えた頭はどうなったのか?」
『確かに』
『死んだんじゃないのー?』
「生きてます。分離した頭は新たなる生命体となりました。それがこちらです」
ショコラの影からぬっと犬耳の少女が出てきた。少女の黒髪は後ろで束ねられていて、Tシャツにホットパンツと言った活発そうないで立ちをしている。
『知らん女だ』
『誰?』
「はい、みな様お待ちかねの立っている状態のセサミです」
『なるほど……そう来たか』
『確かにセサミは立った。擬人化もした……けれど、負けた気がしない。なぜなら、僕にはオルトロスセサミがいるから』
『立つな……立つなとは言ったが、ぐぬぬ』
『セサミちゃん可愛いやったー!』
『良かった。立ったセサミもいたんだね』
オルトロスセサミが擬人化したセサミにすり寄ってじゃれている。オルトロスの方のセサミには兄さんの友人が作ったとされる犬の動きをするAIが入っている。かつて、ケルベロスだったセサミに使ったやつだ。なぜか、オルトロスモードもあったため、今回それを再び使用することができたのだ。世の中、こんな好都合なことってあるんだな。
今回の場合は、オルトロスのセサミが擬人化したセサミを飼い主だと認識しているので懐いているわけだ。進行役のショコラに懐いてしまったら、色々と面倒だし。
「まだ終わりではありませんよ」
『おいおい勘弁してくれよ。これ以上俺らを喜ばせる気かい?』
『もう十分満足したのに更に上があるだろ……!』
コメント欄がざわつく。今からショコラの口から衝撃的な言葉が出る。
「セサミは元々ケルベロスなんですよ? ということは、もう1つ頭が増える余地があるということ。この擬人化したセサミとオルトロスのセサミ。両者が融合することによって、更なる進化を遂げるんです」
『まさか……! キメラか?』
『きみのような勘のいいガキは嫌いだよ』
『人間と犬のキメラはアカンて』
人間の犬のキメラにトラウマを持っている人がいるみたいだけれど、ショコラのチャンネルでそんなエグい表現があるわけがない。
「分離したセサミが再び融合! セサミは元々1匹の犬だった。えい!」
ショコラが擬人化したセサミを掴んで上へと放り投げた。擬人化セサミはそのままデカくなったオルトロスセサミの上に乗っかり融合が完成した。
『乗っただけ融合定期』
『下のオルトロスの方が攻撃力高そう』
『セサミがデカくなったのは、人を乗せられるサイズになる伏線だったのか!』
セサミを乗せたセサミが庭園を元気に駆け回る……かと思いきや、ショコラに突進してきた。
「え、ちょ。セサミ。何をして……」
物理的接触判定を受けてショコラが画面外に押し出される。なんだこれは一体どうなっているんだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。セサミ、荒ぶらないで下さいよ」
セサミがショコラに懐いてしまったようで何度もショコラにすり寄ってくる。
『セサミ可愛い』
『ついにショコラちゃんもセサミと百合営業を始めたか』
『セサミは女の子確定だけど、ショコラちゃんはメス確定しとらんぞ』
『ショコラちゃん男性説の支持者まだいたんか』
配信画面がセサミが好き放題している間に、裏で起動しているAIソフトの設定を見て原因を探る。その時、俺は驚くべき仕様を知ることとなった。
「え、あー……なるほど。セサミを動かしているAIが擬人化したセサミを飼い主として認識していたんですけど、融合したことによりその対象が消滅。飼い主のオブジェクトが消えた場合の処理時の設定がありまして。その設定が、次の飼い主を自動で設定って項目にチェックが入ってました」
要は、飼い主だった対象が消滅した場合、新たに飼い主を見つけるかどうかの設定の部分をきちんと確認してなかったことで発生した事故だ。どうして、現場では事故が起こるんだろうか。
「セサミの飼い主設定をいじりました。えい」
セサミが画面に向かって駆け出した。コツンコツンと何ともカメラにぶつかって遠ざける。
『草』
『こっち来んな』
『ガチ恋距離助かる』
『セサミが画面から出てきてくれるんです?』
「セサミは配信を映しているカメラを飼い主として認識したのでじゃれているんですよ」
基本的に3Dで画像を表現をするためには、カメラ、光源、被写体商のオブジェクトが必要である。カメラもオブジェクトの一部なので、プログラムにより操作をすることが可能。もちろん、セサミの飼い主の対象に選ぶこともできる。
「ふふ、セサミがみな様と遊びたいって言ってるみたいですね。配信の枠の残りはずっとこうしていましょうか」
『なんか酔ってきた』
『寄ってきてるのはセサミなんだよなあ』
「あー、画面が揺れちゃうから酔ってしまいますか。それじゃあ、セサミの愚行を止めた方がいいですね。一旦、セサミのAIを解除しまして……と」
その後、カメラを元のポジションに戻して何事もなかったかのように配信に戻った。残りの枠は、ショコラとセサミを画面に映しながら適当に雑談する配信となった。とりあえずのところ、立ったセサミの新モデルのお披露目をすることができて、しかも高評価だったので目的は達成できたのは良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます