第384話 モンキー裁判
重苦しい空気感の裁判所にて今回投稿される動画が始まった。被告人席にいるのはモンブラン。彼……彼女がなぜこの場面にいるのかは追々明らかになる。検事席にいるのは、カスタード。そして弁護人席にいるのは……セサミだ。
「では、被告人モンブランの裁判を始めるクマー」
明らかに合成音声のアカシアが小槌をバンバンと叩く。それに対して、明らかに不服そうな顔をするモンブラン。
「待て。なんでアタシが裁判にかけられているんだよ。しかも、弁護士が犬で裁判官がクマとか何の冗談だよ」
「被告人静粛に。それと私はチャック付きのクマだ。中にオッサンが入っているから公平な判決が下されるだろう」
「うぐ……野生のクマよりかはマシか。んで、アタシはなんの罪で裁かれるんだよ」
「罪状を明らかにするべく、本日は証人を用意したクマー。検事。お願いするクマー」
「ええ。かしこまりました。被告人モンブランの罪を告発する勇気あるサキュバスメイドを検察側の証人として召喚しましょう」
証言台に立つショコラ。その顔には悲しみや怒りといった表情が出ている。
「証人、名前と職業を言うクマー」
「ショコラです。職業はお屋敷でメイドをしています」
「証人はそちらの被告と同じ職場で働いているクマー?」
「ええ、モンブラン様は庭師をしております。よく庭園の手入れをされていて、彼女が来てくれてからは、本当に素敵なお庭になって動画映えをするようになりました。真面目な仕事ぶりに私も感謝しています。そんな彼女がまさかあんなことをするなんて……」
ショコラが視線をカメラから逸らして涙ながらに語る。そんなショコラに冷ややかな視線を送るモンブラン。
「アタシが何したって言うんだよ。真面目な仕事をしていると褒めた癖に犯罪者呼ばわりかよ」
「被告人。静粛にクマー。では、証人。被告人の罪を証言してくださいクマー」
「ええ。わかりました」
こうして、ショコラの証言が始まった。
「モンブラン様は庭師として大変に優秀な方です。しかし、その優秀さゆえにある犯罪に手を染めてしまったんです。それは、ズバリ横領です。彼女は庭園にあるオブジェクトを販売サイトにて横流しをして不当な利益を得ていたんです」
ざわざわと傍聴席がざわつく。アカシアが小槌を叩いて「静粛に」とその場を収めた。
「被告人。それは事実なのですか?」
「え、ああ。まあ事実だけど……アタシが作ったオブジェクトを売って何が悪いんだよ。著作権はアタシにあるだろ」
「ええ。しかし、貴女はお屋敷に努めるという庭師という設定のはず」
「設定ってメタいこと言うな」
ショコラのメタ発言を
「コホン。つまり、お屋敷の庭園にあるものを売っていると言うことには変わりありませんよね? 勤め先の備品を勝手に売るのは横領ですよ?」
「ええ。証人の言う通り、横領の証拠もきちんとあります。こちらが販売サイトのデータの写しです。検察側の証拠として提出します」
『モンブランの販売ページ
花や木や池などのオブジェクトが売られている。
池の中に入れる用の錦鯉も池とセット販売されていて中々に売上が好調である。
ちなみに、全部ショコラの3Dモデルより売れている。』
「さて、弁護人……人……? は、検察側の証人に尋問する権利がありますが、どうするクマー?」
「あ、いらないゲス」
「いらないそうですクマー」
「おい!」
裁判官クマと弁護犬の適当なやりとりに思わずツッコミを入れてしまうモンブラン。ハッキリ言って、畜生に弁護を頼むくらいなら、自分で弁護した方が数億倍もマシである。
「それでは被告人。どうして、横領に手を染めたのかその理由をお話下さいクマー」
「ああ、わかったよ。アタシはまだまだ駆け出しのVtuberで、広告収入も投げ銭もそんなに稼げてない。案件も来るような大物でも大手でもない。つまり、生活の足しになる金が欲しかったんだ」
「なるほど。遊ぶ金欲しさで横領に手を染めたクマー」
「今の証言のどこにも遊ぶ金欲しさって言ってないよな!? まあ、それは置いといて。そりゃ、箱のみんなに黙ってオブジェクトを売ったのは良くないにしても、アタシが自分で1から作った制作物を売るかどうかはアタシの自由だろ。なんでそこにケチをつけてくるんだ?」
「モンブラン。発想を逆転させるゲス。“ケチをつけてくる理由”を考えるのではなく、“ケチをつけざるを得なかった理由”を考えるゲス」
「いや、それを考えるのが弁護士の仕事だろ。なに、被告人に丸投げしているんだよ」
なぜか後方背後霊面をするセサミに苛つくモンブラン。しかし、その発言になにかモンブランはピンと来たのだ。
「そうか……そういうことだったのか。裁判長。わかったよ。どうして、ショコラさんがこんな茶番を仕掛けてきたのかが」
「ほう、それはどんな理由クマー?」
「それは、この売上のデータに答えがある。アタシが作ったオブジェクトは背景素材として汎用性が高い。つまり、需要がそれなりにあったし、売上もそこそこに伸びている。そう、そこにいるサキュバスメイドの3Dモデルの売上なんかよりも!」
「ぐっ……!」
ショコラが事実を指摘されて思わずたじろいでしまう。しかし、モンブランは主張をやめない。
「結局、横領だのなんだのケチを付けているけど、ショコラさん。あんた、自分の3Dモデルの売上を後輩に越されて悔しいだけなんじゃないの?」
「ぐぬぬ……嫉妬やない。これは嫉妬やない! 仮に私が嫉妬していたとしても、モンブラン様が横領した事実は変わりません!」
「いや、まあ。確かにショコラの3Dモデルよりかは売上が上だけど、セサミとアカシアに比べたらこちらの売上の方が下だし、ショコラさんの方が……いや、待てよ。ショコラさん。あなた……ご主人様のペットを勝手に売っているのでは?」
「え?」
「考えてみればそうだよなあ!? アタシを横領扱いするならお屋敷にいるペットを売っているショコラさんも横領犯だよなあ!?」
「異議あり! じゅ、順番が違います。モンブラン様は先にお屋敷に素材を提供した後に販売したじゃないですか。アカシアは販売しているものをお屋敷に招きいれたので、元から売っているものをペット用に購入したと……」
「異議あり! アカシアはそれが通用したとしても……セサミは元は販売用ではなかったはず。証拠として動画が残っているんだよ。ショコラさんがセサミを愛玩動物として扱い、人気が出たから売りに出したことを」
「ぐぬぬ……と見せかけて、残念でしたね。モンブラン様。その理論には穴があります」
「なに……」
「私が売っているのはセサミではありません」
モンブランもいい線行っているのは間違いなかった。しかし、それは対策済みである。
「なにをバカなことを。どう見てもこの販売ページのサンプル画像にいるのはセサミの3Dモデルでしょうが」
「私はこの犬をケルベロスとして売っています。このページのどこにもセサミという文言、名前はついていないのです」
「あ!」
「ふふ、気づいたようですね。これはセサミと同じ
「な、なんだってー!」
ショコラも巻き込んでやろうとしたモンブランの策はそこで途絶えた。ショコラに横領の事実がない以上は、ショコラを責めることはできない。よって、モンブランの判決は――
『 有 罪 』
「罰として、モンブランにはASMR配信してもらうクマー」
「え、ちょ、なにそれは……アタシそんな機材持ってない」
「大丈夫。ボクが持っているから」
まさかのカスタードのアシストにより、モンブランのASMRの罰ゲームが決定した。持ってないという言い訳すら許さない隙の生じない囲い込みだった。こうして、この茶番は閉廷した。
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