第262話 フフフ……私の『能力』でスデに雑談内容の一部を爆弾に変えていたのだよ
母さんと話し合った翌日。肩の荷が下りたというかなんというかスッキリした気分で目覚めた。張り切ってコンテストのための準備をしよう! と思っても特にすることがない。ヒスイさんと決着をつけるためのコンテスト。まだその概要すら発表されていないのだ。概要がなければ、対策のしようがない。ここは大人しく正式に概要が発表されるのを待つべきだ。となると、別のことをして時間を潰そう。
最近はVtuber活動を行っていなかったから、そろそろそっちの活動もやりたい。と言っても、ネタ集めもしていないので特にやることは決まっていない。適当に雑談枠でも設けるか。そんな予定を立てながら、俺は学校へと向かい、いつものように授業を受けて帰宅した。
俺はマイクを一瞥して深呼吸をした。よし、俺は今日もショコラになりきるぞ。長らく別行動していたと思われる相棒をその身に宿し、いざ配信!
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は特に企画とかもなく、ただ雑談をやっていきますね。みな様のコメントを拾いつつ、会話を広げていきたいと思います」
『待ってた』
『雑談たすかる』
『今日は爆発しないの?』
「はい。今日は爆発しません。爆発物がないのに爆発するわけありませんよね? 常識で考えて下さい」
『非常識的な爆発をしているから心配しているんだよなあ』
「あら、心配していたんですか? それは失礼しました」
『謝れてえらい』
「それでは、早速雑談のテーマを決めていきましょうか。やっぱり、人は強みを伸ばしてこそ価値がある生き物だと思うんですよ。もちろん苦手を克服することも重要ですが、自分の強みを理解していないと無個性な人間になってしまいますからね。そこでみな様に訊きたいんですが、私の強みってなんだと思いますか?」
『爆発が上手い』
『よく炎上している』
『動物のモデリングが上手い』
『セサミとアカシアを生み出しただけで来世は金持ちの家に生まれるのが確定しているくらい徳を積んでいる』
「えー。爆発炎上はともかくとして、動物系のモデリングだけじゃないでしょ。ほら、もっと他にあるでしょ? ほら」
ショコラの顔面を画面に近づける。Vtuber界隈ではガチ恋距離と呼ばれるものだ。ちゃんとした人型のモデルもできることをこれ見よがしにアピールする。
『ガチ恋距離助かる』
『男の娘の骨格を作るのが上手い』
「男の娘……まあ、一応人間のモデリングなので許します。でも、他にあるでしょ。ほら、みな様の目の前にいますよ?」
『メイド服のデザインが秀逸』
「そこ!? いや、確かに服装を褒められて悪い気はしませんが、あえてそこに触れます? ほら、服が可愛いのはもちろんわかりますが、誰が着ているか? っていうのも重要な要素じゃありませんか?」
『娘を犯罪者にする教育が上手い』
「いや、あの子は勝手に指名手配されただけですから。親は関係ありません」
『そうやって育児放棄するから子供が非行に走るんだ』
『家事はできても子育てができないメイド』
『このメイドがやってるのは火事だろ』
どうやら、意地でもショコラのデザインを褒める気はないようだ。普段は「ショコラちゃん可愛い」とか言ってる癖に、こういう時だけ大喜利を始めるとか。それよりも、育児放棄キャラが定着しそうなので、話の流れを変えたい。流石に笑えないイメージが定着するのは嫌だ。
「そう言えば、活動開始記念日配信をしているVtuberっていますよね?」
『急に話を変えたぞ』
『逃げるなああああ卑怯者』
『児童相談所に訴えてやる』
「私の場合って記念日はいつになるんですかねえ? 配信を開始した日ですかね。それとも売りに出された日ですか?」
『売りに出された日って……』
『ショコラブにとってなじみが深いのは配信開始日だなあ』
「やっぱり配信開始日でしたか」
『誕生日配信はしないの?』
「誕生日ですか? 私としては魂の情報はあんまり触れたくないので、誕生日がいつかは公表するつもりはありません。なので、誕生日配信もできませんね。申し訳ありません」
俺の視聴者の中に政井さんがいるのは確定している。つまり、少しでも俺の個人情報が洩れようものなら、そこから政井さんに特定される可能性だってあるわけだ。下手なリスクは打てない。
『今日は俺の誕生日だった』
「お、誕生日の人いましたね。おめでとうございます。私の誕生日が祝えない分、祝福して差し上げますね」
『私誕生日12月だけど、祝って欲しいな』
「今月は12月じゃないのでダメです」
『9月だけどダメかな?』
『9月だから祝ってくれ』
「なんか9月が誕生日の人が多くないですか?」
『そりゃあ、性夜があるせいよ』
「どういうことですか?」
『サキュバスはどうか知らないけれど、人間が母体の中にいる期間は40週程……つまり、誕生日から12週足せば、両親が行為した日がわかる。9月の3ヶ月後は12月なので、我々ぼっちが憎むべき例のイベントがある。その時のリア充共の行為によって生まれたのは俗に言うクリスマスベイビー』
性夜……聖夜。クリスマスのことを言っていたのか。あーそういうことね。完全に理解したわ。
「なるほど。詳しい説明ありがとうございました。そっか。12月24、25日にそういうことをすると、9月に生まれるんですね。この計算は一応覚えておきましょう」
雑談生配信をしただけで、なんか賢くなった気がする……気がするだけかもしれない。誕生日から行為日を逆算するなんて恐らく人生で使う機会はない。完全な無駄知識だと思う。
◇
「なんか面白い動画ないかなー」
今は特に仕事がない日だ。世の中の流行りをチェックするためにも、動画投稿サイトは避けては通れない。クリエイターは常にアンテナを張ってなければならない。
どうせなら楽しい気分の動画が見たいかな。お兄ちゃんと一緒に賀藤 千鶴という人に会いに行ったのはつい最近のこと。大好きだったお姉ちゃんのことを思い出して少し憂鬱な気分になった。あの人のことを全く恨んでないと言えば嘘になる。けれど、お姉ちゃんが苦しんでいるサインを見逃してしまったのは、私たちも同罪だ。私がもっと気にかけていれば未来は変わっていたかもしれない。
ん? これは、今はショコラのライブがやっているんだ。へー。コンペでの作品は正直気に入らなかったけれど、動画の内容は笑えるって評判だから見てみよう。
『お、誕生日の人いましたね。おめでとうございます。私の誕生日が祝えない分、祝福して差し上げますね』
誕生日を祝ってあげてるなんて優しいな。ファンを1人1人大事にしているのは良い配信者の証だ。こんな優しい配信なら私の地雷も刺激されることはないだろうし、もうちょっと見ようか。
『なんか9月が誕生日の人が多くないですか?』
ん? なんか嫌な予感がしてきた。9月生まれの人が多い理由について言及しないよね?
『なるほど。詳しい説明ありがとうございました。そっか。12月24、25日にそういうことをすると、9月に生まれるんですね。この計算は一応覚えておきましょう』
「ふぁあああああ!! いえあああえええあ!! どうして、そこに触れるのおおお!!」
私は思わず取り乱してしまった。なぜ、このサキュバスメイドは私の地雷を平然と踏みに来るんだ。私はショコラの配信をそっ閉じした。2度と見ない……とまではいかないものの、しばらくショコラの配信を見るのはよそう。根本的に私との相性が良くないのかもしれない。
「おい! うるせえぞ!」
ドンという壁を殴る音が隣から聞こえてきた。うるさくしてごめんなさい。お隣さん。そういえば、これとは違う壁ドンを元カレにしてもらったことあったっけ……元カレ……ダメだ。我慢だ。またお隣の人に迷惑をかける。自分を抑えるんだ。
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