第200話 負けイベント
SNSをチェックしていると、面白そうなイベントが目に入ってきた。
【求む。最速のVtuber。マサオカート最速のVtuberを決める大会を開催します。参加条件はただ1つ。この告知を基準に1年以内に動画投稿、ライブ配信等の活動実績があるVtuberのみ。詳細はツリーに表示します。参加希望の方はDMを送ってください】
俺はこれを見た瞬間、速攻で参加する旨のメッセージを送った。前回のマサオカート配信は、初っ端で最下位になってしまって良い所が全く見せられなかった。もう1度マサカの配信をしようと思ったけれど、中々やる機会がなかったというか、良い企画が思い浮かばなかったのだ。そんな時に、正に渡りに船。大きなイベントで名誉挽回のチャンスを得ることができたのだ。
主催者の人から返信メッセージを来て、正式なエントリーが完了した。これで、ショコラは大会に出られることになった。特に口止めされてないし、主催者に確認したけれど、参加する旨をファンに伝える行為は問題ないらしい。というわけで、早速参加表明のライブ配信を行うことにした。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は、重要なお知らせ……と言っても悪いお知らせではないですよ。嬉しいお知らせを持ってきました」
『なになに?』
『セサミの弟妹が生まれたって?』
「セサミは関係ありません。いい加減あの犬から離れて下さい。このチャンネルのメインは私ですよ?」
『セサミのおまけがなんか言ってる』
「はい、そこ一線越えましたね。誰がおまけですか! 世の成人男性はケルベロスよりもサキュバスの方が好きなんですよ!」
『でも、成人男性以外は犬の方が好きだよね? はい、論破』
「ぐぬぬ」
勝てない。人口比を考えたら、成人男性とそれ以外にわけた時に多数決で負けてしまう。なるほど。老若男女に受け入れられる存在。これがセサミの人気の秘密なのか? サキュバスなんて所詮、スケベな男性層にしか受けないのか。
「まあ、そういう話は置いといて……先日、マサオカートの大きな大会が開催のお知らせ発表されたのはご存知ですか……? ああ、はい。そうです。Vtuber限定の大会です。私はそれに参加することに決まりました」
『やめとけやめとけ』
『予選敗退不可避』
『参加賞おめでとう』
『あれ? 最弱決定戦だっけ?』
「ちょっと、みんな言いたい放題言いすぎでしょ! なんですか、参加賞おめでとうって! 最速決定戦です! 2度と間違えないで下さい」
『ショコラちゃんのミサイルに期待』
ミサイルとはマサカの中でもかなり有能なアイテムである。これを引ければ一気に逆転できる可能性もある。ただ、このアイテムは順位が下の方ではないと出ない仕様になっている。つまり、誰もショコラが上位に行くことを期待していないことを意味している。
「あー、もうわかりましたよ。私が予選を突破できなかったら、大会終了から2週間以内に新作3Dモデルを発売してやりますよ。どうですか? 販売サイトの審査期間を含めたら、結構ギリギリを攻めてますよ?」
『新作やったー!』
『今度の3Dモデルは何かな? 楽しみだな』
『お小遣い貯めます』
「喜んでもらえるのは嬉しいけれど、発売に期待しないでもろて。私は負けませんよ。当分は、3Dモデルを発売しないでしょう。ええ。そんなキッツキツのスケジュールは流石に組めませんからね」
『まあまあ。ショコラちゃんがあれから裏で修行しているかもしれないし、少しは期待してあげようよ』
「お、優しい人もいますね。ありがとうございます。がんばりますね」
『彼の期待は裏切られることになるのだった』
予想通りというか、予想より弄られたというか。まあ、とにかく放送が盛り上がってくれたようで良かった。誰もショコラが勝つことに期待してないけれど、俺は勝つつもりでやる。
◇
「お兄さん。ちょっといいですか?」
私は動画の編集作業をしているお兄さんに話しかけた。最近、お兄さんの動画も順調に伸びてきて嬉しい。収益化申請も通り、それなりの収益も入ってきたお陰かお兄さんも自信がついている様子だ。
「ん? ちょっと待って……いいよ莉愛」
お兄さんは、手を止めて私の方に向き直り目を合わせてくれた。そこまで重要な話ではないから、作業しながらの片手間でも大丈夫だけれど、やっぱり真剣に向き合ってくれている感じがして嬉しい。
「今度、マサオカートのVtuber大会があるのはご存知ですか?」
「知ってるけど……俺は、Vtuberじゃなくてトクロ実況者だから参加資格ないんだよな。あいつと勝負できると思ったのに」
お兄さんは少し残念そうに言った。参加基準は例の告知がされた時刻から1年以内に活動実績があること。告知がされた後から活動開始、または再開したVtuberは対象外だから、お兄さんが参加権を得る方法はない。
「私、その大会に参加したいんです」
「え? 本気か?」
お兄さんは驚いた表情を見せた。私の性格上、大会に参加しないと思っていたに違いない。でも、着実に前に進んでいるお兄さんを見ていると、私だってもっと自分を良い方に変えていきたいと思う。
「はい。正直、あまり触ったことがないゲームですし、出ても恥をかくだけかもしれません。でも、大会に出ることで何か得られるものがあると思います。だから挑戦してみたいんです」
「そうか……莉愛がやる気なら俺は応援する。俺にできることがあるなら出来うる限りは協力するよ」
「ありがとうございます!」
お兄さんならば、いい返事をくれると信じていたけれど、やっぱり実際に言われると嬉しい。
「それにしても、みんな凄いな」
「え? みんな」
「琥珀君も師匠さんと上手くやったみたいだし、莉愛も大会に参加するって前向きに進んでいる。なんだか俺だけ取り残されている気分だ」
「な、なに言ってるんですか! 私が大会に参加しようと思ったのは、お兄さんが前向きにがんばっているからですよ。それに触発されて、私も少しでも成長したいと思って……その」
「そ、そうか。ありがとう莉愛。そう言われると勇気づけられる」
お兄さんが少し照れながらはにかんだ。
「お兄さん。大会に参加するからには、私は良い成績を残したいです。どこまで勝ち上がれるかはわかりませんが、自分が出来うる限りのところまで行きたい。だから、特訓に付き合って欲しいんです」
「特訓か……そうだな。まだグループの組み合わせが発表されてないし、あのイェソドと当たるかもしれない。それを考えると特訓をし過ぎるなんてことはないかな」
「え? イェソドさんも出るんですか?」
イェソドさんはお兄さんの友人で凄腕のゲーマーだ。お兄さんもゲーマーとしてのレベルはかなり高いけれど、イェソドさんも同じくらい凄い。私も1度ワードウルフでコラボしたことがある。心理戦のゲームだったけれど、結構強かった覚えがある。
「昨日、参加するって俺にメッセージを送ってきた。あいつは俺と勝負できないことを残念がっていたな」
ここで一言。「私がお兄さんの代わりにイェソドさんを倒す」なんてことを言えたら、格好いいんだろうけど……流石に私にそんな度胸はなかった。天地がひっくり返っても勝てない相手だ。付け焼刃の特訓でどうにかなる相手でもないし。
「まあ、マサカはアイテム運の要素もあるし、基礎を抑えておけば、勝てる確率はゼロではない。行けるところまでがんばろう」
「はい!」
こうして、私とお兄さんの特訓が始まった。せめて予選突破はしたい。大会までにきちんと実力をつけられるように頑張ろう。
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