第201話 予選組み合わせ発表会+シード抽選会

 Vtuber限定のマサオカート大会を運営しているチャンネルに注目が集まっている。参加を表明しているVtuberは大物Vtuberが多数いるし、少しマイナーなVtuberもこれを機に伸し上がろうとファンと一丸になってがんばっている。要は大手の高い集客力に集まった層とマイナーを支えるコアなファン層が集まっているので、そりゃ規模もデカくなる。


 ただ、それだけ人が多く集まると平和なことばかりではなくなり、匿名掲示板の一部のスレは荒れている。


『ナナコしか勝たん』

『ナナコって誰だよ。やっぱり、優勝するのはエディだろ。大手のガワだけ被ったにわかゲーマーの集まりと違ってエディはガチゲーマーだからな』

『は? エディよりスイカの方がレートは上だし』

『スイカとかプレイ回数の多さでレート稼いでる雑魚、勝率はエディの方が上。はい、論破』

『大手にもガチゲーマーはいるし、推しを上げるために他を下げるのは良くない。ファンの素行が悪いと推しにも迷惑がかかることを自覚しろ』

『マイナーなVtuberが優勝しても白けるだけだろ』

『ナナコもエディもスイカも誰だよ。ここはVtuberのことを語るスレだぞ。電子マネー論争は他所でやれ』


 一部の過激派が騒いでいるだけではあるが、対立煽りはあんまり見ていて気分がいいものではないな。誰が優勝するのかという予想は既に行われているようで、現状で参加を表明している中では、イェソドさんが最も注目されているようである。もちろん、知名度が高いだけでイェソドさん以上のガチ勢はいるという意見もあるし、マサカに特化している層に比べたら1段実力が劣ると分析している人もいた。


 まあ、ぶっちゃけ他人の走りを見たことがない俺としては、誰が優勝するかどうかの予想も立てられない。ちなみに、なぜか優勝予想の中にショコラの名前がなかった。


 大会のエントリーが締め切り、いよいよ組み合わせが発表される。発表は、ライブ配信で行われる予定で、参加人数調整のためのシード権はあるようだ。レートが上位の層から抽選で決まるようで、そちらにも注目が集まっている。


 だが、放送前にイェソドさんがSNSにしたとある発言が波紋を呼んだ。


『シードの抽選権があったけど、断った。折角のお祭りだし、僕は1試合でも多くプレイしたいからね』


 これにより、イェソドさんが予選から参戦することは決定した。多くのVtuberが彼と違う予選ブロックに当たるように祈っていることだろう。俺もその内の1人である。


 予選から勝ち上がるパターンだと、最大3回走ることになる。まず、予選は各ブロックの上位3位が準決勝に進むことができる。ちなみにこの3という数字は後だしで決まった。参加者に応じて決まるため仕方ないのだ。参加者が多ければ、それだけこの数字が小さくなる。今回は結構な数が参加したのでこんなに厳しい設定になっている。


 準決勝はAとBで分かれていて、Aの上位6名とBの上位6名の計12名が決勝に進むことができる流れだ。つまり、予選から準決勝に行くのは狭き門なのである。シード権を持っている人は準決勝から参戦できるし、準決勝は6位まで決勝に進めるとかなり有利な状態である。


 イェソドさんは、まるで自分が予選突破確実だと思っているようだった。3位以内に入れるのは確実だと思っている様子だ。これが実力者の余裕というやつか。


 そんなこんなで、組み合わせ発表のライブ配信が開始した。


「うぃーす。大会運営系Vtuberのヨハン・セバスティアンです。よろしく」


 執事の恰好をしたVtuberが画面に映っている。大会運営系Vtuberってなんだよ。初めて聞いたぞそんなもの。


「さて、第1回マサカVtuber大会にご参加いただいたVtuberのみな様。お集り頂きありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。まあ、堅苦しい挨拶はそれくらいにしておいて、みんなも気になっているであろう予選の組み合わせの発表……の前に先にシード権の処理をしようか」


 カチッカチッとクリック音が出た後に、ヨハンさんの背後の画面に9人の名前が書かれた円形のルーレットのようなものが表示された。


「本当は、レート上位10位までがシード権の対象の予定でしたが、1人辞退したので9人になりました。この中から3人シード権が与えられます。ルーレットが回転して、上部の針に名前が止まった人が……シード権を……貰えません」


『草』

『貰えないのかよ』

『なんのために回すんだよ』


「ええ。とりあえず落ち着いて聞いてください。ルーレットを回して針に止まった人から脱落していき、名前を消していきます。6回回して最後に残った3人がシード権獲得です」


『逆に面倒じゃね?』

『止まった人にシード権与えれば3回で済む定期』


「え? 止まった人にシード権与えたらつまらないでしょ? 最初にシード権獲得した人は、その後なんのドキドキも楽しみもないし、安全な貴族の視線で見るだけじゃないか。シード権を早々に失って落胆の人が増えていく中、自分がその立場に落ちるかもしれないというドキドキを最後まで味わえる方がデスゲーム感があって良くない?」


 そのドキドキ感のために無駄に6回もルーレット回すのか……


「はい、それでは最初に回します。最初の脱落者は誰かなー? 誰かなー?」


 ヨハンさんの声色が明らかに楽しそうである。サイコな笑いをしながら、ルーレットを回す様子は運営の立場を利用して愉悦を得ているとしか思えない。ある意味この大会を1番楽しんでいる人物なのかもしれない。


 まあ、俺は当然シードの抽選権を持ってないから全くドキドキしないけど、上位9名は気が気ではないだろう。


 高速で回転するルーレットが鈍化していき、1番上に名前が止まった。運営がまともな感性をしていれば、シードを得られるはずだった犠牲者1人目は……


「これはエディさんが脱落ですね。シード権が剥奪されました。予選からがんばってください」


『運営がにっこにこで草』

エディ『悔しいです!!』

『本人がいて草』


「はい。それじゃあ、ルーレットからエディさんを消しますね……ちょっと待って下さい」


 また、クリック音が聞こえた。そして、ルーレットからエディさんの名前が消えて、名前が書かれているのは8人になった。


「はい。次の当選確率は8分の1。当たらないといいですねー。それでは、ルーレットスタート」


 ルーレットが再び回転して、徐々に回転が弱まっていきまた止まる。次の犠牲者は……


「はい。塩野しおのスイカさんが脱落です。ちなみに、私はスイカに塩をかけない派です」


『は? 普通かけるだろ』

『かけないが?』

『スイカにかけるのは砂糖だろ』


 スイカに砂糖とか確実に糖尿病になりそうな恐ろしいことをしているのがコメント欄にいる。大きなお世話かもしれないけど、食生活を見直して欲しいと思った。


 その後も抽選権を持っている人にとっては、地獄のような時間が続き、最終的に3人のシードが決まった。


「はい。脱落者も決まったことですし、この6人の脱落者も予選の名簿に……入れました。実は、ルーレットから排除するのと同時に予選対象者の名簿に名前が追加するような仕様に既になってたんですね」


『無駄に有能で草』

『その効率の良さをなぜ抽選で活かせなかったのか』


「やろうと思えば、ボタン1つでシードも予選ブロック決定もできるけど……それじゃあ趣がないでしょうが! ドキドキワクワクする要素に効率を求めたら負け。それ以外のとこでは、いくらでも効率化してもいいけど」


 まあ、確かに効率を求めたら、一瞬で演算結果を出せるコンピュータでのルーレットの演出は無駄以外の何物でもない。そこに関してはヨハンさんに同意できる部分はある。


「さて、次はお待ちかね。予選ブロックの発表を行います」


 ついに来たか。ショコラの対戦相手は誰になるんだろう。あんまり強い人と当たらないといいなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る