第191話 死にステかと思ったら重要ステでした
「えーと……とりあえず、ムキトレには頼りたくないので普段の生活から特訓を積んで強くなりましょう。やっぱり今の時代は女の子も強くないといけませんね」
『今の時代は、戦闘に参加しないヒロインは不人気なんだよなあ』
『前線に立って戦う物理系女子が好きです』
『細い女が強いのはおかしい。ムキムキマッチョこそが至高』
『細身で強いヒロインがいてもいいけど、最強キャラは爺であって欲しい派』
現実では、衰えて若者より戦闘力が低い爺。でも創作の世界では、爺が強いと文句を言う人が少なく、なぜか喜ばれる傾向がある。そこにリアルはいらない、強い爺はロマンなのだ。
「えーと……月曜日、訓練、火曜日も訓練、水曜日で走り込みで敏捷を上げましょう。木曜日は組手で技巧を上げて、金曜日は一週間の疲れを取るために休息。土曜日と日曜日はアルバイトをしてお金を溜めましょうか」
『勉強する気が無くて草』
『学生の本分は勉強だろ!』
『自由行動なしはすげえ! 攻略対象と出会うことすらできないよー』
「ほー自由行動でイケメンたちと戯れることができるのですか。でも、このゲームは戦闘があるので鍛える方が先です!」
『とんでもねえ脳筋思考だ!』
『サキュバスの癖に恋愛する気がなくて草』
『サキュバスは恋愛する前に搾り取るから問題ないね!』
『なんか……ショコラちゃんは実生活でも恋愛を後回しにしてそう』
スケジュールを組んだので、早速実行した。SDキャラと化したディアナが訓練や走り込みをしているアニメーションが流れる。こういった細かな要素も凝っているのは楽しいな。俺は等身大のキャラばかり書いていたから、たまにはSDキャラにも手を付けてみるのも有りかもしれない。デフォルメの勉強にもなるし。
「翌週も……同じスケジュールでいいでしょう! えい!」
またもやディアナはスケジュールを一生懸命こなしている。俺の目論見通りに、戦闘において重要な筋力や敏捷性がムキムキと上がっていく。強くなっているのに、体はムキムキにならなくて済む。なんと素晴らしいことだろうか。
適当な雑談をしながら、ディアナの特訓を眺めていること数分。木曜日の行動を終えた後に、ついに強制イベントが発生した。
「お、イベント発生ですね」
背景は廊下でディアナが昼休みに歩いているという状況だった。
モニカ:あ、いましたね! この学園に似つかわしくない平民風情が。
ディアナ:モニカ! いきなり平民呼ばわりは失礼じゃないの?
モニカ:おあいにく様。わたくしは伯爵令嬢です。平民に向ける礼節は持ち合わせていませんもの。
ディアナ(なんて傲慢な人なの……)
モニカ:丁度いいですわ。入学式の借りを返すとしましょうか。今から、体育館に来なさい。わたくしがお相手してさしあげますわ。
ディアナ:ええ。望むところよ! その生意気な鼻っ柱を折ってあげる!
こうして、ディアナとモニカの戦いが始まった。戦闘が始まるとモニカが喋り出した。
モニカ:入学式の時のわたくしとは思わないことですね!
モニカが技の構えの姿勢を取った。敵が技を入力しているということだ。技は入力される前に通常攻撃でキャンセルするのが常套手段。
「隙あり!」
俺は迷うことなく、パンチを繰り出した。しかし、次の瞬間、技の構えの姿勢を取っているモニカがパンチをガードして、カウンターを繰り出した。
モニカの攻撃を受けてダメージを負うディアナ。
ディアナ(なにこれ、一体どうなってるの?)
モニカ:おほほほほ! 見ましたか? これが私が新たに身に付けた力。フェイントですわ。
・チュートリアル その6
敵は時々フェイントを仕掛けてきます。フェイント中は通常攻撃や技を放ってもカウンターをされてしまいます。
フェイントは一定時間で解除され、解除直後は敵が無防備な状態になります。なので、その隙をついて攻撃しましょう。
―—
モニカが再び攻撃の構えの姿勢を取った。
「これもどうせフェイントでしょう。さっきのチュートリアル通りに待ちますよ」
そう思って待機していたら、モニカが技を仕掛けてきた。ディアナのガードが崩れて、ディアナは大ダメージを負うと同時にダウン状態になった。
「え? これはどういうことですか!?」
『!?』
『フェイントじゃなくて、普通の技だったみたいだね』
モニカ:ふふふ残念でしたね。今度は普通の攻撃でしてよ。
ディアナ(く……敵の動きをよく観察するんだ。そうすれば、技かフェイントの区別がつく)
・チュートリアル その7
ディアナは敵のフェイント見抜く能力があります。この能力の成功率は、知力の高さに依存しています。
ディアナがフェイントだと気づいたら、彼女の頭の上に「!」マークが出ます。その時は攻撃してはいけません。
次のモニカの攻撃は確定フェイントです。ディアナの知力の上下に関わらず、必ず成功します
―—
「え? 知力に依存……? 私、ディアナの知力を全く上げてなかったんですけど」
『草』
『脳みそまで筋肉に鍛え上げた女の末路』
モニカが構えた。チュートリアルの説明通り、ディアナの頭にエクスクラメーションマークが出て、フェイントだと見抜いた。これはフェイントだから攻撃してはいけない。
やがて、緊張状態が解けたのかモニカの構えが解けた。
「今です! 知力を上げるかどうかを考えるのは後にして、とにかく攻撃しましょう」
ディアナがフェイント状態が解けたモニカを攻撃する。モニカはダメージを受ける。追撃するとモニカはガードをした。どうやら、ガード状態を技で崩したダウンと違って、フェイント直後の攻撃ではダウンは取れないらしい。
再び、モニカが構えた。今度はどっちだ? エクスクラメーションマークが出てないから、フェイントじゃないのか?
「とりあえず攻撃しましょう!」
そうして、キックを放った瞬間……モニカにガードされてカウンターを食らった。
「今のフェイント!? ええ……」
『翻弄されてて草』
『勉強しないツケは高くつきますなあ』
「く……敵の構えを待ってるから翻弄されるんです! こっちから技をかけてやりましょう!」
俺はキーボードのAキーを押した。そして、コマンド入力をして技に繋げる。それをやろうとした瞬間、モニカの打撃が飛んできて、キャンセルされた。
「え!?」
モニカ:技の出は見切ってますわ!
ディアナ:く……!
ディアナ(単純に技を出すだけでは、防がれてしまう。私もフェイントを絡めながら戦わないと!)
・チュートリアル その8
ディアナはSキーを押すことで、フェイントをすることができます。モニカのフェイント同様に、敵の攻撃と技をガードして反撃することができます。
しかし、敵もフェイントを見切る能力を持ってます。ただし、こちらの知力が高ければ、フェイントを見切られ辛くなります。
―—
「ええ……また、知力が関係するのですか? とにかくフェイントをしましょう」
俺はSキーを押してディアナにフェイントをさせた。しかし、モニカは攻撃する素振りを見せない。ディアナの構えが解けた瞬間にモニカの打撃が飛んできた。うん、無理。この戦いは知力がなきゃどうしようもない。
その後も、敵のフェイントは見切れないし、こちらのフェイントは成功しないし、酷い有り様だった。一言で言えば……負けてゲームオーバーになりましたとさ。
「なんですかこれ! 完全に初見殺しじゃないですか!」
『敗因:知力の差』
『学生なのに勉強サボったのが悪い』
『マッチョの幻影に怯えて、訓練ばかりしていたのが悪かった』
「確かに……ムキトレを封印しようとして、過剰に強くなろうとしたのが間違いでしたね。やっぱりバランス良く育てる方が良いんでしょうか」
『全くもってその通りである』
『このゲームはあんまり死にステないぞ』
ゲームによっては、全く機能しない所謂死にステがある。だから、このゲームにおける知力がそのポジションかと思ったけど……最重要レベルのステータスじゃないか! これは育成方針を見直す必要があるな。
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