第129話 深夜の3Dホラーゲーム②

病院内を適当に歩いてみる。歩く度にコツコツとした音が病院内に響き渡る。探索していると階段を見つけた。しかし、階段は朽ち果てていて、大きな穴が開いている。とてもじゃないけど人が通れなかった。


「おお。ふむふむ」


 俺は操作キャラのカメラを動かしまくって、行き止まりであるはずの朽ち果てた階段をよく観察した。


『なにしてるの?』


 俺の奇行に疑問を持ったコメントが来た。このコメントだけでなく。大体のコメントは疑問符を送ってきた。


「ああ、すみません。この階段の作りを見てました。ここの階段が朽ちて穴が空いている部分ありますよね? この切断面もきちんと自然な仕上がりになっていて感服してました。こう、人為的に壊されたんじゃなくて、年月と共に徐々に老朽化して少しずつ崩れていったことが表現されてますね。後は、ここの染みや錆の表現なんかもリアリティがあって、やっぱりプロの仕事は違いますね」


『あいつ、3Dの話になると早口になるよな』

『よしなよ』


「あ、ごめんなさい。こういうのは配信の外でやれってことですよね。先を急ぎます」


 他人が作った3Dモデルの出来を観察してしまう。そう言った俺の個人的なへきでリスナーに退屈な時間を作ってはいけない。誰も望んでないことを長々と配信するのは、せっかく見に来てくれた人に対して失礼だ。


『ショコラちゃんの狂気が見れるのはそれはそれで需要があるからええんやで』

『他人の作品に触れる時にクリエイター目線で見てしまうのはあるあるすぎる。細かい工夫がわかるのは楽しいよな』

『ショコラって昔からそういうところあるよな(後方腕組み彼氏面)』


 この場は優しいショコラブのフォローにより、なんとか丸く収まった。


「それでは、1階を重点的に探索しますよ」


 1階を探索したら扉を発見した。ドアノブを回してみるが、扉は開かなかった。


「開きませんね。鍵を探せということでしょうか」


 ホラゲあるある。鍵のかかった扉。探索者が入る時は出入り口に鍵をかけない癖に、中の扉には厳重に鍵をかける謎のセキュリティ。ちなみに怪奇現象が起きた後に出入り口に戻るとなぜか不思議な力で扉が開かなくなる謎。


 多分、俺の予想では鍵はバラバラに配置されている。この手の施設では普通、鍵は事務室かどこかにまとめて置かれているはずなのに、ホラゲでは謎のオブジェクトに隠されている。なぜ、1つの箇所で鍵が大量ゲットできないか? それはゲームだからとしか言いようがない。


「それではしばらく探索しますね。それにしても全然、敵とか出ませんね。早く第一村人発見みたいな感動を味わいたいです」


『ショコラちゃんはホラー得意なVだったか』

『心臓に毛が生えてるタイプ』

『サキュバスって存在自体が怪異みたいなものだし』


「まあ苦手な人は苦手ですからね。私も昔は苦手だったけれど、克服しました。ホラーに対して耐性をつけておかないと、ホラー系の3Dモデリングの仕事を受けられませんからね。それで仕事の幅を狭めてしまうのはもったいないですし」


 ホラー系の需要というのも中々にバカにならない。ゾンビやスケルトンなど、色々なものを習作していったら、いつの間にかグロやホラーに対して、怖いという感情がなくなっていった。なんというか、構造さえ分かってしまえば怖くないというか。普段見慣れないものだから嫌悪感みたいなものを覚えていただけだと思う。数回モデリングしてじっくり観察すれば、恐怖を覚えていたのがバカらしくなる。


「ホラーと言えば、これは友達の友達の話なんですけど」


 友達の友達。つまり自分。


「仮にA君としましょう。A君が昔、夏休みに家族で遊園地に行った時の話です。母と5歳くらい上の姉と妹と4人で行ったのかな?」


 兄さんは当時、高校生で夏期講習で遊園地に行けないって言ってた。父さんは、仕事が急に忙しくなって来れなくなった。まあ、このことは話す必要はないか。


「それでA君の姉はまあアレなんですよ。あんまり人様の姉に使う言葉じゃないんですけど……頭が残念な方でして、当時は……小6だったのかな。お化け屋敷に入りたいって母親に言っても『あんた1人じゃ心配だからダメ』って断られたレベルなんですよ」


『草』

『小6なら友達同士で遊園地行ったりするだろー』

『来年中学生とは思えない信頼のなさ』

『親が過保護なだけじゃないのか?』


「それで、A君の姉も『じゃあ、誰と一緒ならいいの?』って食い下がったんですよね。A君の妹はまだ小さかったし、母親がきちんと見てないといけない。だから、A君と姉が一緒に入ることになったんですね。そして、A君のお母さんが、列に並ぶ直前にA君に耳打ちしたんです……『お姉ちゃんの面倒をしっかり見るんだよ』って」


『5歳下の弟に面倒見てもらう姉とは一体……』

『友達の友達の話って大体本人の話だよね?』

『友達の友達は男の子。ショコラちゃんは女の子。性別が一致しない。よって別人』

『おねショタの主導権をショタに握らせるな!』


「まあ、その姉も終わった後にA君にこう言ったんですよ。『お化けって見えるもんなんだね』って。A君はこう思ったらしいです。お化け屋敷のお化けが本物だと思ってるのもやべえけど、お化けが見えない前提でお化け屋敷に入ろうとするのはもっとやべえ」


『見えないものを見ようとしたんでしょ』

『確かにお化けが見えなかったら何にも楽しくないな』

『バカには見えないお化け』 


 そんなどうでもいい話をしながら、探索していたら鍵を見つけた。観葉植物を調べたら、それを持ち上げて鉢の裏に鍵があるのを発見するという流れ。なんでそこを調べようと思った。エスパーかよ。


 まあ、とにかく進展して良かった。その間の場繋ぎの話題もできたし。生放送はカットができないから、こういうフリートークも交えないといけないのが少し大変だ。アレには迷惑かけられ続けている人生だけど、場繋ぎのエピソードトークが尽きない点は助けられているのかもしれない。正直割に合わないけど。


「当直室の鍵を手に入れたって出ましたね。あの開かない扉が当直室の扉なんでしょうか。とにかく行ってみましょう」


 先程開かなかった扉を調べると見事なまでに正解。扉が開き、中の様子が見える。部屋の中はフローリングで部屋の中央に人間の骨と思われるものが横たわっている。その骨の下のフローリングできた黒い染みが人型の形となっている。


 「これは酷い異臭だな」と主人公がセリフを発する。異臭とこの状況。どうやら、部屋の中にある骨は骨格標本ではなくて、本物の人骨で間違いないようだ。


「うーん……この部屋を探索するんですかね。この骨急に襲ってきたりしませんか?」


 俺はカメラワークを駆使して、骨をよく観察することにした。この骨はところどころ風化しており、死後何十年と経っているかのような状況だと思われる。


「んー? この骨は女性の骨ですかね?」


『骨格見ただけでわかるの?』

『骨を見ただけで性別を当てられるとか……』


「肩幅がこの主人公の男性と比較して狭いですからね。特に下半身周りの骨盤も女性の特徴が出てます」


 俺は特に医学に詳しいわけではないけれど、男女の骨格の違いはモデリングをする上できちんと頭に入れている。師匠にも骨格を意識してモデリングするように言われているし、どうしてもその辺が気になってしまう。


「さて、骨を見ていても仕方ありません。明らかに異彩を放っているあのバールのようなものを調べましょうか」


 明らかに取ってくれと言わんばかりに目立っているバール。それを調べると特にイベントもなく、『バールを入手した』というメッセージが出た。そのメッセージを決定ボタンで流すと、なにか大きな轟音が聞こえた。


 主人公もその異変に気付いたのか「外から音が聞こえた」と言ってくれた。これは外に出ろって合図だ。


「お、ついにホラー展開になりますか?」


『放置されている人骨はホラーじゃないのか』


「封鎖されて滅んだ村なんですから、人骨の1つはあるでしょう。最後の1人が死んだとき、誰も埋葬してくれませんからね」


 そんなことを言いながら、外に出ると……体に黄疸が浮き上がっている男性たちが「うーあー」言いながら、バールのようなもので主人公の車を壊す勢いで叩いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る