第128話 深夜の3Dホラーゲーム①
Vtuberというより、ゲーム実況の人気ジャンルの1つにホラーゲーム実況がある。ゲーム実況黎明期から存在して、今現在人気のゲーム配信者は大体このジャンルを経験していると言っても過言ではない。
ショコラにホラゲ実況をやって欲しいという投書を何回かもらったことがあるが、それは実現する気はなかった。今までもあえて避けてきたジャンルだ。別にホラゲが苦手というわけではない。ただ、みんなが求めるリアクションというものができるかどうか不安だったのだ。
でも、物は試しということで1回だけやってみたくなったのだ。配信でウケなければ2度とやらない大義名分ができるし、ウケれば今後の配信の選択肢に入るから、実験的にやるのはどちらに転んでも損はしないと思った。
時間はもちろん深夜。日が明かるい内からホラゲの初見プレイをするのは、制作者に対して礼節が欠けるというのが俺の流儀だ。やはり、日が沈んでから真っ暗な部屋でやってこそ、ホラゲは価値がある。とまあ、これは個人的な縛りということで、もちろん他人に強制するつもりはない。夜にホラゲができないというチキンハートのママっ子はご自由にどうぞという感じだ。
というわけで時間になったので早速、配信開始だ。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は遅い時間帯にお集りいただきありがとうございます。でも、あんまり毎日、夜更かししたらダメですよ? 夜更かしばかりする悪いショコラブのみな様には、サキュバス流のお仕置きをしちゃいますよ」
『明日も夜更かしします』
『寝かす気なくて草』
『お仕置きたすかる』
『寝たら夢の中で襲われる。起きてても襲われる。逃げ場がないじゃないか(歓喜)』
なぜ、どの配信にもドMは一定数沸くのか。別にえっちなお仕置きとは一言も言ってないのに。お仕置きの内容がショコラのホームランダービークリアするまで寝れま10だとしても、この人たちは喜ぶのだろうか……イェソドさん辺りは平然としてそう。
「それではやっていきますよ。今回プレイするゲームはこちら。【CLOSED PANDEMIC】ですね。軽くストーリーを説明します。今から80年ほど前の架空の西洋の国。とある陸の孤島の田舎の村にある病院。そこでウイルスを研究していた1人の医者がいました。医者は事故でそのウイルスをばら撒いてしまい、住民のほとんどがそのウイルスに感染してしまいました。感染を防ぐために、政府は村と外界を繋ぐ唯一のトンネルを封鎖。世界は感染症の危機から救われたけど、封鎖された村はどうなったかは誰もわからない。80年後、村がどうなったかを調査するために主人公が封鎖を解き、村の中を探索するというストーリーです」
『ひえ~恐ろしいもんすなあ』
『これ結構怖かったゾ』
「一応、探索ゲームですのでネタバレはなしでお願いしますよ。では、スタート」
まず最初にゲームをスタートすると名前入力画面に飛ばされた。特に名前を捻る必要性も感じられなかったので、主人公の名前は【ショコラ】にした。ちなみに主人公は男性である。ゴリッゴリのマッチョってわけではないが、そこそこ体格がいい感じである。細マッチョ体型。多分1番モテるやつ。
『やっぱりショコラちゃんは男性じゃないか』
『女の子説提唱してた奴ひえっひえで草』
『アンチ乙。心は女の子だから』
『サキュバスだから男女どちらにでもなれる。なにもおかしいことはないな』
『女性が付いているのはダメですか?』
『男の子でも女の子として扱えば女の子になるんだよ』
チャンネル登録者数が10万人を超えていても相変わらず、男女論争は収まらない。というか、この論争になると毎回コメントが伸びるのは最早様式美だ。
ゲーム本編が開始して、ショコラと名付けられた成人男性の主人公が車を運転して、物語の舞台となる村へと移動していく。薄暗く長いトンネルを進んでいき、そこを抜けると寂れた村があった。家と家との間隔が広くて、家の窓ガラスの大半が割れている。家の外壁には黒ずんだシミがあり、壁の一部が欠けているものも見受けられる。
「おお、雰囲気が出てますね。なんだかんだでホラーゲームで1番ドキドキする瞬間って怪異に襲われる前の静けさだと思うんですよね。何気ない背景や演出が、実は怪異の前兆じゃないのかって疑心暗鬼になる感じ。普通のゲームでは中々に味わえませんね」
『この主人公は運転が上手すぎる。ショコラの名を名乗る資格なし』
『この車はいつ爆発するの?』
『最近の車には自動運転ってものがあるんだよ』
「車の運転については触れないで下さい」
仮想空間とはいえ、既に運転による事故を何回かやらかしているので、ショコラの運転の信頼感が全くないのだ。まあ、俺としてもレースゲームをやりにきたのではないので、運転シミュレーションみたいなことがなくて良かったと思っているけれど。
運転席から降りる主人公。ここはオートで進むのか、村を歩き回って人を探し始めた。けれど、村を歩けど歩けど人には遭遇しない。80年もの間、外界から隔離されていた環境。人が生き残っているとは思えない。
しばらく歩いていると廃病院が見えた。田舎の村の病院にしてはやたらと大きい病院の施設だ。不釣り合いなその設備を前にして主人公が独り言を発する。
「ここが全ての元凶……例の病院か」
そして、主人公が病院に足を踏み入れる。病院内は薄暗く、当然電気などが生きているはずがなかった。窓から差し込む僅かな光。それだけがこの地形を把握するための光源だ。
「んー。あ、主人公が操作可能になりましたね」
俺が移動キーを押すと主人公が連動して動く。とりあえず、操作性を確認するためにその辺を数歩適当に動いてみた。移動速度は少し遅いし、若干カクついている。方向転換もスムーズにはいかないで、若干のラグがある。
「なるほど。ホラゲ特有の操作性の悪さですね」
どういうわけか、ホラゲというものは操作性をあえて悪くしている側面がある。特に3Dで操作する場合はそれが顕著だ。前方にキー入力をすると自動的に数歩進む。このモーションに2秒弱ほどかかる。その間は、他の行動を一切受け付けない。方向転換もできないし、移動のキャンセルもできない。小回りが利かないのは不便だけど……まあ、結構人気のゲームみたいだし、この不便さを前提としてバランスを取ってくれているはずだ。
そして。ホラゲ特有のお約束な行動をしてみる。病院の出入り口に戻り、外に出ようとしてみた。
「まだ調査が済んでいない」
主人公がそう言って、引き返した。ホラゲあるある。探索に情熱を燃やし過ぎる主人公。メタ的な視点を持つプレイヤーからしてみれば、「さっさと帰れよ」って言いたくなる状況。だけど、主人公は絶対に頑なに帰ろうとしない。そして、怪異が発生する頃にはなんらかのトラブルに見舞われて帰れなくなるところまでセットだ。
「この場面で帰れるホラゲってないんですかねえ」
『ここで退き返すようなやつはホラゲの主人公になれないでしょ』
『主人公だから引き返さないんじゃない。引き返さなかった者だけが主人公になれるんだ』
「お、いいですね。その『引き返さなかった者だけが主人公になれるんだ』って言葉。お屋敷の壁に貼って金言にしたいです」
ショコラブが無駄にかっこいい名言をコメントしてくれたことで、先に進む意欲がより一層と出てきた。まあ、俺の場合は怖いというよりかは……どうしても別の視点でこの手のゲームは見てしまうんだよな。
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