第43話 帰ってきた父親
今日も今日とて俺は作業を……したいところであったが、今は高校で出された宿題をしている。高校は義務教育じゃないから、きちんと勉強しないと落第するかもしれない。俺は既に稼げているのだが、一応高校は卒業しておきたい。あのアホな姉さんですら、高校は卒業しているんだからな。
宿題も一通り終わった頃、俺はスマホをチェックした。なにやらメッセージアプリの着信があるようだ。賀藤家のグループチャットに父さんからのメッセージが入ってた。父さんは今、海外でフィールドワークをしていて日本にいない。真珠がまだ小さかった頃は、日本にいた。けれど、真珠が小学校高学年くらいになった時に海外にも行くようになったのだ。
大亜『父さんお疲れ』
真珠『お疲れ様ー』
真鈴『おつー』
父さんのメッセージに俺以外のみんなが既に反応を示している。俺もなにか反応しておくか。
琥珀『ごめん。父さん今気づいた。お疲れ』
俺がメッセージを送った数秒後、父さんからメッセージが届いた。
彩斗『うむ。気にしなくていいよ。高校生は青春に忙しいからな』
ごめん。父さん。俺が忙しいのは青春じゃないんだ。CG制作やらVtuber活動やらで忙しいんだ。まあ、そのことは家族には内緒にしないといけない。特に母さんは、俺や真珠に安定した職業について欲しいって思っているからな。CGデザイナーは百歩譲って企業勤めなら認められるかもしれない。けれど、Vtuberになりたいって言おうものなら猛反対されるだろう。
母さんは自身が安定しない職業を志していたからこそ、子供には安定した道を歩んで欲しいと思っているからな。若い頃はお金に相当苦労したみたいだし。だからこそ、母さんは自分の子供に高校生になったらお小遣いを与えない方針にしたのだ。お金の有難みを知っていれば、安定した職業を目指すだろうという目論みがあってのことだ。
兄さんは比較的安定しているSEの仕事につけたから母さんは文句は言ってない。姉さんに関しては諦めているのか、最早なにも言ってない。俺は現在進行形で、勉強していい大学に通えって言われている。そのためなら、教育費は惜しまないらしい。お小遣いはくれないけれど、教育にかかるお金はいくらでも出してくれるのが母さんなのだ。
そんなこんなで日は流れて、父さんが帰ってくる日になった。その日は平日だったので、俺は普通に高校に行き帰宅をした。
「ただいまー」
「おかえりー」
甘えるような猫なで声で俺を出迎える声が聞こえた。
「なんだ、琥珀か」
「なんだとはなんだ」
俺が家に帰ってきた時には既に母さんが帰宅していた。いつもは夜遅くまで仕事をしている母さん。こんな昼の時間帯にいるのは珍しい。
しかも、今日の母さんは服装も中々にいい服を着ていて、髪型もピッシリとキメている。特に化粧もしていて一瞬別人のように思えた。休日の母さんは髪がボサボサで手入れなんか全くしない。仕事行く時は最低限の身だしなみは整えているものの、ここまで恰好に気を使うことはあんまりない。
「どうしたの母さん。外に出る時もそんな恰好しなかったじゃない」
「そう? 私はいつもこんな感じでしょ」
絶対違う。我が母親ながらよく平然と嘘をつくものだ。絶対父さんが帰ってくるから、気合を入れているだけだ。
「母さん。仕事はどうしたの?」
「いい? 琥珀。いい社会人って言うのは、1日くらい休んでも問題ないように立ち回るの。ちゃんと周りと連携を取れていれば、人が抜けた穴はきちんと埋められる。私も今日という日のために1週間かけて、ちゃんと周りに指示を出して来たの」
要は父さんに会いたいから休んだな。別に父さんも帰ってきてすぐにいなくなるわけでもないのに。仕事を休んでまで、すぐにでも会いたいものなのだろうか。彼女いない俺にはわからないや。あはは。
玄関の扉がガチャリを開く音が聞こえた。
「今度こそお父さんね。おかえりー」
「おお。ただいま。千鶴。元気にしてたか?」
久しぶりに見る父さん。日本を出る前に比べて少し日焼けしている。
「ふぇえん。寂しかったよー」
賀藤 千鶴48歳。特に意味はないけど。年齢を思い浮かべてみた。
「父さんおかえり」
「おお。琥珀。なんだなんだ。少し見ない間に逞しくなって。どうだ? 高校生活は楽しんでいるか?」
「まあまあかな」
父さんは俺に近づいてきて、頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「あはは。高校生活はたった3年しかないからな。思う存分楽しめよ」
父さんは白い歯を見せてニカっと笑った。
「あ、そうだ。琥珀。ちょっといいか。父さんと2人きりで話そう」
「ん? いいよ」
俺は父さんの申し出に了承した。しかし、母さんは面白くなさそうな表情をしている。
「もう。お父さん。どうして、琥珀と2人きりで話そうとしているの」
「んー。男同士の話ってやつだ」
母さんは除け者にされたようで面白くないらしい。
「わかった。その代わり話が終わったら、思いっきり甘えてやるんだから」
「ははは。千鶴には敵わないな。よし、琥珀。お前の部屋に行ってもいいか?」
「ああ。うん。大丈夫」
俺と父さんは場所を移した。男同士の話って一体何なんだろうか。俺の部屋に入った父さんは俺のパソコン周りを見るなりなにやら興奮している。
「おお。相変わらずこのパソコンは格好いいな。いいなー。俺も欲しい。ウチの研究室のパソコンは未だに三世代くらい前のパソコン使ってんだよな」
「なんでそんな古いの使ってるの。父さんの研究室ってお金ないの?」
古いパソコンだと性能はもちろんだけど、セキュリティの面でも不安が残るだろう。
「いや。お金の問題じゃなくて、ソフトの問題だな。古いOSじゃないと動かない化石染みたソフトを使ってるんだよ。まあ、いいやそんな話は……それより、琥珀。例のCGがどうのこうのって奴。順調なのか?」
父さんは俺がCGデザイナーを目指していることを知っている。俺が画家になる道を断念した時に、「琥珀が本当に夢中になれるものを見つけたら、俺にこっそり教えてくれ」そう言われたのだ。
俺は、画材やらなにやら買ってくれた父さんの好意を無下にしてしまった。だから、その約束は守りたかった。そして、CGデザイナーになりたいことは父さんに正直に話してある。
「まあ、順調と言えば順調かな。ネットで俺が作った3Dモデルを販売しているんだけど、それで利益を出せているし」
セサミのお陰で、初期投資にかかった費用は問題なく回収することができた。だから、これから先の利益は単純なプラスだ。
「おお、それは良かったな。母さんに内緒で、琥珀にお小遣いを渡そうと思ってたけど、その必要はないみたいだな」
「ちょっと前の俺なら喉から手が出るほど欲しがったね」
母さんは俺がバイト禁止の高校に入っても容赦なくお小遣いカットをしてきた。だけど、父さんは流石にそれはやりすぎじゃないかと言ってくれたな。結局、父さんは海外に行っちゃったから、母さんの意見が通っちゃったけど。
「それにしても、やはり琥珀は天才だな。流石俺の息子だ。高校生ながらにそんなに稼ぐ手段を持っているなんてな」
「まあね……と言いたいところだけど、俺だけの力じゃないんだよね。俺にモデリング技術を教えてくれる師匠がいるんだ。直接会ったことはないネット上の繋がりだけど。その人のお陰でここまで稼げるようになったんだ」
もし、俺が師匠と会えてなかったらお金を取れるレベルのモデルは作れなかっただろう。そう考えると師匠には感謝しかない。
「ほう師匠とな。どういう人なんだ?」
「最近知ったけど、女の人らしいんだ」
今まで師匠のことはオッサンだと思ってた。だから、女性だと知った時は本当にびっくりした。
「へー。名前で性別とかわからなかったのか?」
「そうだね。名前だけじゃ男女わからなかった。RizeってHNだったし」
「Rize……リゼ? 確か、真鈴のバンドの仲間にそんなような子いなかったか?」
エレキオーシャンのギター担当のリゼさん。CGにも明るくて、エレキオーシャンのMVは彼女が作っているのだ。
「もしかして、その師匠とリゼって子は同一人物じゃないのか?」
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