第25話 収益の使い道
俺は自身のスマホで銀行の通帳アプリを立ち上げた。わざわざ紙の通帳に記帳しなくても、残高やら取引履歴を確認できる。そんな便利な世の中に感謝しつつ、振り込まれた金額を確認する。
きちんと先月分の収益が入っている。そうだ。俺はついに手にしたのだ。万単位という金を。これはバイトをしている高校生並の財力があるということだ。
さて、このお金の使い道だけどどうしようか。今後もVtuber活動をしていくなら、もっといい機材が欲しい。ウェブカメラではショコラのモーションを見せるのには限界があるし、マイクも音質が良いとはとてもじゃないけど言えない。企業勢の配信を見に行ったけれど、音質が全然違う。Vtuber活動を始める前までは、特に気にしたことはなかったけど、やはり音質は気になる人には気になることだろう。
今はまだ始めたばかりの個人勢として大目に見られていることではあるが、今後も拙い動画を出していれば収益が上がっているはずなのに、環境を整えない怠惰なVtuberとして扱われてしまうかもしれない。
それに画像編集ソフトや動画編集ソフトも有料で多機能なものを使いたいな。現在の環境では、モンスタースペックのマシンと3DCG制作ソフトにお金はかけているけれど、他はフリーソフトを使っている。
優先すべきは動画編集ソフトだろうか。俺はまだ体感したことがないからわからないが、やはり無料と有料のもので処理速度に圧倒的な差があるという。
正直言って、動画編集やエンコードで時間を取られるのは本末転倒である。その間、俺はなにも出来なくなるのだ。いい動画編集ソフトを買えば時間の短縮にもなるし、今後俺が3Dでアニメーションを作りたくなった時の手助けにもなる。
俺は今までモデリングばかり注視してきたけれど、3Dアニメーターもある程度できるようになった方がいいと思い始めてきた。やはり、出来ること手札が多いことに越したことはないのだ。俺もいつか、リゼさんのような素敵な3D動画を作ってみたい。そう思うようになった。
うーん。欲しいものはいっぱいある。けれど、それを買うお金は有限だ。俺が欲しいもの全部が今後の活動に必要なものである。
VRヘッドセットが欲しい。モーションキャプチャが欲しい。本当に本格的なVtuber活動はお金がかかるんだなと改めて思った。
兄さんからウェブカメラとマイクを貰った俺は幸運だったな。それで、最低限の始められる土壌はできたわけだし。当時の俺ではウェブカメラとマイクすら買うことができなかっただろう。
少し前までは環境を良くするためにお金を使うなんて考えることすらできなかったのに、贅沢な悩みを持つようになったものだ。
俺は、欲しいもののリストと値段をまとめて、今の自分に何が必要なのかをもう1度思案してみることにした。
うーん……しかし、これらの機材を買えば出来ることの幅は広がるし、動画の質も向上する。そうすると必然的に得られる利益も大きくなると予測される。お金を得るためにお金を使う。それが資本主義の世の中というものか。富があるものが環境を整えて、より多くの利益を得る。うーん。世の中は不平等だ。
まあいいや。事業計画について考えるのはこれくらいにして、もう寝よう。明日になればいい考えが浮かんでくるかもしれない。俺は電気を消してベッドに潜り込んだ。
◇
翌日、俺はいつものように学校に行った。いつもの教室。だけど、今日は不思議と違った景色に見える。なぜなら、今の俺はお金を持っているからだ。多分、この学校でも有数な金持ちになっていると思う。だって、この高校はバイト禁止だから。万単位なんて金を持っている生徒なんてほとんどいないだろう。お小遣いで万単位のお金を得られるとかどれだけ金持ちなんだよって話だ。
やはり、お金があると精神的に余裕が出てくる。周りの景色がキラキラと輝いて見える。
「よお。琥珀おはよう!」
俺より身長がほんの少しでかい男子生徒が話しかけてきた。中学時代からの俺の友人である
「おっす。三橋」
「なあ。琥珀。今日の放課後遊びにいかね? 女子とカラオケ行くことになってさ。男子が俺1人なのは寂しいからお前も誘おうって思ってさ」
今日は部活が休みの日だ。だから、サッカー部の三橋も暇をしているのだろう。それにしても女子とナチュラルにカラオケ行く約束するとか。中々に侮れない。
「いや、俺は……」
お金がない。いつもそう断っていた。けれど、今の俺にはお金がある。遊ぶだけの余裕があるんだ。
「なんだ。琥珀また金がないのか? お前、小遣いなにに使ってんだよ」
くそう。小遣い貰える家庭はいいよな! でも、俺はバイト禁止小遣い無しという苦境の中、大金を手にした。並の高校生では到底手に入れられないお金を!
「いや、今日は大丈夫だ。行こう」
「お、そうこなくちゃ。なんだぁーいつも付き合い悪いのに、女子が一緒なら来るんだな。このこの」
三橋が俺の脇腹を肘でつついてきた。なんか変な誤解をされているようだけど、まあいいか。友人と一緒にお金を使った遊びができる。こんな日が来るとは思わなかった。
「で、女子って誰が来るんだ?」
「お、やっぱり気になっちゃう?」
三橋がニヤついた視線を俺に送ってきた。こいつ、俺のことを女好きのスケベだと思ってるな。
「テニス部の
「うげ」
「うげってなんだよ」
同じクラスの
浅木さんに関してはよく知らない。下の名前も知らないし、廊下で騒いでいて先生に怒られているイメージしかない。なんかうるさいギャルってイメージだ。
なんかもう女子のメンツ的に断りたくなってきた。政井さんと一緒の空間で過ごすとかなんの拷問だよ。でも、男が1度行くって言ってしまった以上断り辛い。
そんなことを考えていると、三橋が俺の耳に顔を近づけてきた。そしてヒソヒソ話を始める。
「いやー。実はさ。俺、浅木のこと狙ってるんだよ」
「へー」
「んでさ。浅木と政井って仲がいいらしくてさ。政井と一緒だったら、カラオケ行くって言いだしたんだよ」
「それ、政井さんが了承してるの?」
はっきり言って、政井さんはカラオケとかそういうことを好まないタイプだと思う。なにをするにしてもつまらなさそうにしているし、無気力だし。エネルギーを使うことが苦手なタイプだと思う。
「ああ。政井も浅木と一緒だったら、カラオケ行ってもいいって言ってるんだよ」
「へー。そうなんだ」
「んでさ。どうせだったら男女2組でカラオケ行ったらどうだ? って話が出て、お前も誘ったわけ。ほら、俺、お前とカラオケ行ったことなかったからさ。たまには一緒に行きたいなと思うわけ」
まあ、丁度お金が入ってきたタイミングで都合よくそう思ってくれたな。そのせいで俺は苦手意識がある政井さんと一緒にカラオケ行くハメになったけれど。
「んじゃ。今日の放課後、カラオケ行くぞ。忘れんなよ」
三橋は俺の胸板に軽く拳を当てて、自分の席に戻っていった。
うーん女子とカラオケか。人生で初めてだけど上手くいくかな。あ、姉さんと行ったことはあったか。アレは女子としてカウントしないから、実質初めてだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます