第24話 5万人突破記念生放送

 チャンネル登録者数5万人を突破したということで、記念生配信をすることにした。


 SNSにその旨の投稿をすると、その投稿は瞬く間に拡散された。初期の投稿の反応のなさに比べたら、物凄い拡散力を手に入れてしまったようだ。


 そして、生配信の時間になった。その時のチャンネル登録者数は、6.8万人。5万人どころか6万人超えてるじゃねえか!


 え? どういうこと? 俺、今から5万人超えたことを記念した生配信をするんだよね? なのに、なんでもう6万人になってるの? これって、6万人記念生放送に変えた方がいいの?


 そんなわけのわからない考えが頭の中でぐるぐるとする。本当にVtuber活動をしてからは驚きの連続だ。今から始めてももう遅い。とか散々言われている業界だが、後発組の個人勢でまさかここまで打ちあがるとは思いもしなかった。


 様々な幸運に助けられる形になったが、それでもここまで来れたのは嬉しい。後、欲を言えば、DL数はもっと伸びて欲しい。チャンネル登録者数の100分の1でもいいから買ってくれれば、利益は相当なものになるだろう。3年間くらい働かなくても、遊んで暮らせそうな金額にはなると思う。


 そんな妄想をしながら、俺は生配信を開始した。


「あ、あー……聞こえますか? ん? 聞こえます。それでは、開始しますね。こほん」


 俺は深呼吸をして心を落ち着かせた。俺は生配信はあまりやらないタイプだから、どうしても緊張する。少しずつ場慣れしていきたいなとは思っているけれど、やはり、俺の主戦場はCG制作なのだ。Vtuber活動がメインになってしまっては本末転倒である。


「みな様おはようございます。本日は曇りですね。月が見えなくて悲しいです。ヴァーチャルサキュバスメイドのショコラです。よろしくお願いします」


 ショコラの登場と共にコメントが沸き立つ。この人たちは配信開始前からショコラを心待ちにしていた人たちだ。ショコラブのみんなに暖かく迎え入れられて、俺の気分は高揚してきた。不思議と緊張も和らいでいき、頭がスーっとしてきた。


 そして、沸き立つコメントと共にどさくさに紛れて投げ銭が飛んできた。


「わあ、投げ銭ありがとうございます。励みになります。えーっと……本日はお集りいただき誠にありがとうございます。みな様のお陰でチャンネル登録者数が5万人を超えました!」


 俺はパソコンを操作して、SEを鳴らした。ドンドンパフパフという音が鳴り響く。


「ここまでこれたのもショコラブのみな様のお陰です。みな様の1人1人の応援の力があったからここまでショコラは成長することができました。本当にありがとうございました」


 ショコラを祝福するかのように、またもや投げ銭が乱舞する。この金額を見ていると段々と金銭感覚が麻痺していくようだ。配信開始からたった数分で、ショコラの3Dモデルを買える値段が飛び交っているのだ。


 投げ銭をくれるのは非常にありがたいことだ。俺の今後の活動費に充てることができるし。しかしだ……そのお金があったら、3Dモデルを買って欲しい。それが本音だ。ショコラに投げ銭したところで、お金を投げてくれた人に何かを返すことはできない。だけど、3Dモデルを買ってくれた人には、ショコラを自由に扱える権利をあげられるのだ。お返しになんでも言うことを聞いてくれるサキュバスメイドを渡せるのに。


「本日は5万人突破の感謝の記念放送だったんですけど、チャンネル登録者数はもう6万人を超えてますね。本当にありがとうございます」


『6万人おめでとう \6,000』


「うわーありがとうございます」


『7万人にいってない?』


 そのコメントを見た時、俺は衝撃を受けた。冷や汗がだらりと流れる感覚。緊張で妙に喉が渇く。チャンネル登録者数を見てみた。すると、確かに7万人と表示されていた。


「え、ええ! この配信中に7万人にいったんですか。うわー。本当に嬉しいですありがとうございます。あ、すみません。ちょっと水飲みますね」


 俺は心を落ち着かせるために一旦マイクを切ってから、ペットボトルの水を飲んだ。そして「ふー」と一息ついた後にマイクを再度入れる。


「確かに何度見ても7万人ですね。本当にありがとうございます」


『7万人おめでとう \7,000』


「ぶふぉ……」


 俺は思わず吹き出してしまった。先程6万人記念に6000円を投げ銭してくれた人が、今度は7000円をくれたのだ。合計1.3万円。とんでもない金額だ。


「えぇ!? ちょっと、大丈夫ですか? そんなに投げ銭して」


『ショコラちゃんの血肉になるんだったら、惜しくないです』


 惜しいとか惜しくないとかそういう問題なのか? 何の見返りもなく、人にこれだけの施しを与えるなんて。この人は神様か。


『血塗られたお茶会の歌ってみたから来ました。ショコラちゃんはどこでこの曲を知ったんですか?』


 うげ、なんていう質問をしやがる。確かにマイナーなインディーズバンドの曲をピンポイントで歌ってみるなんて早々ないよな。まさか、自分の姉がそこのベース担当ですとは言えない。どう誤魔化したらいいんだ。


「私、元々そのバンドのファンだったんですよ。ここのバンドのMVも凄く気に入っているんです。私もCGのことを勉強しているので、MVの技術が凄いなって憧れを持ってたんですよ。それで調べたら、このMVを作っていたのはバンドのメンバーじゃないですか。音楽もCGも両方できるだなんて凄いと思って。それでこのバンドのファンになったんですよ」


 嘘の中に真実を混ぜる。それが、嘘を本当に見せるポイントだ。実際、エレキオーシャンのMVはかなりクオリティが高いし、俺は憧れを持っている。その辺のバンドが外注で作ったMVなんかとは比べ物にならないほどだ。それはやはり愛の差だろう。外注はあくまでも仕事でやっているのに対して、MVを作っているリゼさんは自分のバンドだからこそ愛を持って映像を作っている。それが映像を見るだけで伝わってくるのだ。


 できることなら、リゼさんに師事してみたいけれど……バンドもやって、MVも作って、本業もある状態じゃ忙しいだろうな。姉さんのコネがあるとは言え、そこは流石に控えておこう。


『じゃあ、ショコラちゃんの推しメンはリゼなの?』


「はい。リゼ様を最推しにしてます」


 というか、知っているメンバーが姉さんとリゼさんしかいない。他のメンバーもチラっと見ただけだし。


『【朗報】血塗られたお茶会がカラオケで配信されるようになった』


「え? それ本当ですか?」


『ホームページ見てきたらお知らせで載ってた』


 カラオケで姉さんのバンドの曲を歌えるようになるのか。まあ、カラオケに行く予定はないけど。行っても多分歌わないけど。



 そんなこんなの雑談をして、生配信は終了した。投げ銭の金額は\230,800。初回生配信の3倍ほどだ。とんでもない金額を稼ぐようになってしまった。


 そして、俺の脳裏にある不安がよぎってしまった。それは……メインのCGデザイナーよりも、Vtuber活動の方で稼いでいるんじゃないかということ。


 今月もDL数は順調に伸びている……と思う。だけど、それ以上にVtuber活動が伸びすぎている。


 やばい。なんだか今月の利益を計上するのが怖くなってきた。先月はなんとかCGデザイナーとしての面目を保てたわけだ。だが、今月が保てるとはわからない。


 追われる恐怖というのはこういうことか。俺は、自身の手で生み出した娘に抜かされてしまうのか。


 そんな不安を抱えながら、俺は就寝した。

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