第18話 ファン制作のゲーム
俺がいつものようにSNSでエゴサーチをしていると、とある衝撃的な投稿を見つけてしまった。俺が望んでいた展開の1つ。それが実現しているのを目撃して、俺は一気に全身の血が噴き出しそうな感覚に陥った。
『Vtuberのショコラちゃんのゲームを制作しました。ショコラちゃんが料理をするだけのほのぼのとしたゲームです。よろしくお願いします』
紹介スクリーンショットに使われているショコラ。これは間違いない。俺が販売しているショコラのモデルだ。なんと、ショコラのモデルをダウンロード購入してくれた神に等しい人が、ショコラのゲームを作ってくれたのだ。この人はもう神を超えている。創造神として崇めなければならない。
あまりの嬉しさに俺は、この投稿に対してイイネを101回押した。それくらいテンションが上がっていたのだ。
これでもう思い残すことはない。俺が作った3Dモデルを使ってゲームを作ってくれる人がいる。俺が目標としていたことの1つが達成したのだ。
俺は早速ゲームのダウンロードをすることにした。圧縮されたzipファイルをソフトを使い、解凍する。そして、中身に入っているreadme.txtを読む。そこに書いてある【実況・配信は自由に行っても構いません。報告も不要です】という文字。
実況許可のゲームはありがたい。貧乏Vtuberのショコラは、ゲームを買うお金がないのでフリゲでお茶を濁すしかないのだ。
というわけで、早速録画ソフトを起動させて、ゲームを撮影することにした。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は嬉しいお知らせがあります。なんと、私のゲームが有志の手によって作られてました。こんなに嬉しいできごとはありません。だって、私の3Dモデルを買って頂いただけでなく、ゲームまで作って頂いたんですよ。しかも、フリーゲームです。フリーゲーム。制作に多大なお金と時間をかけているのに、無料で公開する。これがどれだけ偉大なことかわかりますか?」
その後も
「では、プレイしてみましょう」
ショコラズキッチンというタイトルロゴが表示される。ニューゲームを押すとゲームが始まった。
ゲーム画面に表示されるショコラ。画面に向かって笑顔で手を振っている。可愛い。モデルの制作者の自分が言うことじゃないのかもしれないけど、可愛い。
「みな様。見ましたか? 私です。私がゲームに映ってますよ! あぁああぁぁ!! もう声にならない叫び声が出そうです。わかります? この感動わかります?」
画面下部にメッセージウィンドウが表示される。
『みな様。おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は私が料理を作ります』
そのまま、視点が移動してショコラがキッチンに向かう。まないたの上に野菜が置かれている。ショコラが包丁を持つと、画面右上に【Xキーで野菜を切る】というアナウンスが表示された。なんという親切設計。
「Xキーで野菜が切れるみたいですね。では、押してみましょう」
俺は画面の指示に従って、Xキーを押した。
トントンという音と共にショコラが野菜を切る。凄い。モーションも不自然じゃない。
「この細かなモーション。本当に凄いですよ。もう、3Dのクリエイターならわかってくれると思うんですけどね。このこだわりで本当にフリーゲームなんですか?」
野菜を切り終わると、今度はショコラがコンロを操作して火をつけた。フライパンを熱し始める。画面右上に今度は、【Xキーで油を引く】と書かれている。俺は迷わずXキーを押した。
ショコラが油を手に取った次の瞬間。油が中身をぶちまけながら噴出した。そして、その油が火に引火して、火柱をあげて燃え上がった。
「え、ちょ、な、なんなんですかこれ! 私、ゲームでもこういう扱いなんですか!」
ファンからは炎上系Vtuber扱いされ、ゲームでも炎上をやらされる。最早完全に炎上芸人枠。
そして、屋敷が燃えているシーンをバックに、ゲーム内のショコラが「ご主人様に折檻される」と嘆いてゲームが終了した。ってか、ゲーム終了早い。フリーゲームらしからぬクオリティかと思ったけれど、内容量がフリーゲームレベルだ!
「えーはい。本日は、ショコラのゲームをプレイしましたが……なんですかこれは! いや、嬉しいんですよ。嬉しいんですけど、私の扱いひどくないですか! もう! でも、ゲームを制作してくれてありがとうございます」
画面内のショコラがお辞儀をして感謝の気持ちを伝える。
「自分もショコラのゲームを作ってみたいと思った方向けに、概要欄にショコラの3Dモデルを購入できるサイトのURLを貼っておきます。是非購入を検討してくれると嬉しいです。チャンネル登録とSNSのフォローもしてくれると喜びます。それでは、みな様。さよなら、さよなら」
この動画も編集をして、アップロードをする。そして、動画に寄せられたコメントを確認する。
『知ってた』
『ノルマ達成』
『これが正しいショコラちゃんの扱い方』
『作者は筋金入りのショコラブ』
『ショコラちゃんを折檻するゲームじゃないの?』
『ショコ虐はNG。ショコラちゃんを愛でるゲーム下さい』
コメントでもショコラは弄られている。その内、本当に折檻されるゲームが作られそうで怖い。3Dモデルを売っている都合上仕方ないけど、規約で禁止されているエロ以外はどういう扱い受けても文句は言えないからな。お金貰ってるし。ショコラは4万円払えば、どんなことをされても受け入れてしまう女なんだ。
そして、数あるコメントの中で一際、異彩を放っているコメントがあった。俺はそれを見て、このゲームの実況動画を上げて良かったと思った。
『制作者です。まさか、ショコラちゃん本人にプレイしてもらえるとは思ってませんでした。ショコラちゃん弄ってごめんよー。次は、まともなゲーム作るから期待しててね』
まさかの制作者からのコメント。しかも、次回作の確約までしてくれている。なんだ、ただの神か。しかも次はまともなゲームを作ってくれるらしい。これは今から期待が膨らんでしまう。
◇
俺は最近ハマっているVtuberがいる。サキュバスメイドのショコラちゃんだ。彼女のあまりの可愛さに、3Dモデルを即購入することを決意した。個人的には、ショコラちゃんの声は男だと思うけど、まあガワが可愛いから全然推せる。ショコラちゃんは、辛い社畜生活のオアシスとなっている。ショコラちゃんがいるから頑張れるんだ。
元々3Dプログラミングに明るかった俺は、ショコラちゃんを使ってゲームを作ろうと思い立った。
お手軽に作れるゲームを考えて、やっぱりショコラちゃんに料理をさせるゲームがいいなと思った。幸い、油を噴出させるようなプログラムは過去に物理演算として開発している。ゲーム制作を楽にしてくれた過去の自分にお礼を言いたい。
ショコラちゃん以外の素材はフリー素材を使っている。俺も多少3Dモデリングはできるけど、クオリティは低い。とてもショコラちゃんと一緒に映せない。
そうして、制作したゲームが、ショコラズキッチン。それを投稿したら、なんとショコラちゃん本人の目に留まったのだ。イイネが付いた時は魂が震えそうだった。あのショコラちゃんに認知された。嬉しすぎてハゲそうになった。
しかも、それだけじゃなくて、ショコラちゃんが俺の作ったゲームを実況して、しかもお礼まで言ってくれた。もう嬉しすぎて、すぐに次回作を作ることを決意した。
次回作はどうしようかな。ショコラちゃんのネタを入れつつ、それなりに遊べるゲームにしたい。そんなことを思っていたら、俺のスマホが通知音を鳴らした。俺はスマホに目をやる。
真珠:大亜兄。ご飯できたよー
大亜:わかった。すぐ行く
ちなみに、俺がVtuberにハマっていることは家族には内緒だ。俺は、硬派な男として生きているからな。女性Vtuberを推しているってバレたら、今までのイメージが崩れ去ってしまう。
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