イクリプスサーガ
紫眞桜
プロローグ
プロローグ1 ヒーロー少女の朝
────────小さい頃から、私は『ヒーロー』が大好きだった。
弱きものを助け、どんなことがあっても、諦めない心を持っているヒーローが。
ヒーローは、何があっても仲間を見捨てないし、どんな苦難にも仲間と一緒に立ち向かっていた。
そして、正義は必ず勝つ。
いつしか私は、そんなヒーローになりたいと、誰かの幸せを守る存在になりたいと、そう思うようになっていた。
ピピピッ、ピピピッ
私の耳に、何度目かの目覚ましの音が響く。けれど私は動けない。
そう、私は今出られない状況にいるのだ。
私の上には、暖かく柔らかいふかふかの布団がかかっている。極めつけに、ベッドのシーツは、昨日兄が洗濯して取り替えてくれているので、いい匂いが未だに続いている。
そんな至高な空間から、誰が出たいと思うだろうか。
いや、誰も出たくない!
ピピピッ、ピピピッ
再び目覚ましが私に呼びかける。しかし、私は布団の誘惑からは逃れられない……!
というか、なんで起きなきゃいけないんだっけ。
そんな疑問を抱きながらも、布団に顔を埋めていたら、
ガチャリ
と、部屋の扉が開く音がした。
「さーくら! いい加減に起きないと、お前の足でも学校間に合わないぞ!」
ピッ、と今までうるさい程鳴っていた目覚ましが止まる音がし、見知った男の人の声が部屋中に響く。
「あと十分で学校始まっちゃうぞ! 俺は大学の図書館で勉強しに行くからもう行くけど、しっかり起きて高校行ってな? ……はぁ、翼くんが来てくれたら早いんだけどなぁ……」
その言葉を最後に、バタン、と部屋の扉が閉まる音がした。
……がっ……こ……う?
男───兄の
────あ。今日、月曜日だ。
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
やばいやばいやばいッ!
なんでのんびり寝てたんだろッ!? 目覚ましが鳴るってことは、予定があるからに決まってるじゃん!
後十分かぁ。でも、朝ごはんは諦めたくない。だってお兄ちゃんのご飯は絶品だから。とりあえず着替えて……。うーん、この時間じゃ、ご飯食べてたら確実に間に合わない。けど、幸い朝は食パンに目玉焼きだし、食パンに目玉焼き乗っけてくわえていこう。これならギリギリ間に合うけど……。始業ベルと同時だと、担任の白浜先生にまたお説教されちゃうんだよなぁ。
あ、そだ。屋根伝って行こう。そしたら五分で着くはず! まぁ、お兄ちゃんにバレると説教されちゃうけど……。お兄ちゃん今大学行ったらしいし、大丈夫だよね。
そう決めた私は、急いで二階の自室から一階のリビングまで降りる。そして手早く目玉焼きをパンの上に乗せ、口にくわえた。
目玉焼きは私好みの半熟だ。齧ると黄味が出てくるようになっており、中心へたどり着くのが今から楽しみでしかない。
流石はお兄ちゃん。ハイスペックすぎだよ……!
そんなことを考えながら、私は自室へと戻った。
そして、ゆっくりと部屋の窓を開け、下を確認する。
よし、誰もいない。今なら駆け抜けて行ける……!
そう思い、私は身軽な動作で隣の家の屋根へと飛び移る。そして、そのまま次々に屋根という屋根を伝って、学校までの道のりを省略していった。
あぁ、風が気持ちいいなあ。今日も最高の一日になりそう!
そんなことを考えながら私、
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