第15話『帰路』
昼食を食べた後、花宮駅に直結しているショッピングセンターに行った。
アパレルショップに行って女子3人の服を見てみたり、武蔵栄にはないアニメ専門ショップ・アニメイクに行って気になる新刊があるかチェックしたり。
あと、アニメイクの近くにあったゲームコーナーにも行った。そこにあるクレーンゲームは、武蔵栄のナノカドーのゲームコーナーよりも種類が多い。だからか、撫子達はほしいものを発見。
撫子と向日葵に取ってほしいとお願いされたので、3人のほしいものを僕が取ってあげた。ただ、先日、向日葵にぬいぐるみを取ってあげたときよりも調子は良くなかった。たまに視界が霞んでしまうことがあって。それでも、300円以内でゲットできた。
ゲームコーナーを後にした僕らは花宮駅に戻って、武蔵栄駅へと向かう電車に乗る。
行くときとは違い、座席がいくつか空いていた。最大で3人分の席が連続で空いていたのでそこに撫子、向日葵、福山さんが座る。僕は3人の真ん中に座っている向日葵の前に立ち、吊革に掴まる。
「うさぎのぬいぐるみを取ってくれてありがとう、兄さん」
「猫のぬいぐるみを取ってくれてありがとね、桔梗。大切にするわ」
「私にはミニフィギュアをありがとう。私も取れないわけじゃないけど、お金をたくさん使っちゃうことが多くて」
目的のものを取ってあげたから、みんな上機嫌だ。みんなが嬉しい気持ちになって、お金を浮かせることもできて良かった。
あと、福山さんもクレーンゲームが得意じゃないとは。いつも落ち着いているし、あまりお金を注ぎ込まずに目的のものをゲットしているイメージがあったので意外だ。
「いえいえ。僕で良ければ、これからもクレーンゲームでほしいものを取ってあげるよ」
「本当に助かってるよ、兄さん。特にお金の面で。これからもよろしくね」
「あんなにも早く取れると、これからも加瀬君にお願いしたくなるね。前にひまちゃんが、ニャン太郎先生のぬいぐるみを一度でゲットしたことを興奮して話したのも納得だよ」
「あ、愛華ったら……」
向日葵の顔が見る見るうちに赤くなっていく。彼女は赤くなった顔を猫のぬいぐるみが入っている袋で隠す。今に似た光景、ニャン太郎先生のぬいぐるみを取ってあげたときにも見たな。だから、僕は思い出し笑いをしてしまう。
撫子と福山さんは「ふふっ」と小声で笑いながら向日葵を見て、彼女の頭を撫でた。そのことで気持ちが落ち着いてきたのか、向日葵は目元の当たりまで顔を出し、鋭い目つきで僕を見てくる。
「か、勘違いしないでよ。あたしも愛華もクレーンゲームが得意じゃないから、一発でぬいぐるみを取った光景を見られたことに感動したの。だから、愛華にも興奮して話しちゃったの。決して、桔梗があたしのためにぬいぐるみを取ってくれたのが嬉しかったから……っていうのがメインの理由じゃないんだからね」
「……そうか」
メインの理由じゃない……か。向日葵のその言葉にほっこりとした気持ちになる。彼女のツンツンとした態度も可愛らしく思えてくる。
「そ、それよりも! 今日は楽しかったわね。駅で桔梗と撫子ちゃんと会えて良かったわ」
露骨に話題を変えてきたな。照れくさいのだろうか。きっと、撫子と福山さんも同じことを思っていそうだ。ここは向日葵に乗るか。
「そうだね。向日葵と福山さんと4人で花宮に行けて良かったよ」
「兄さんの言う通りですね。これからも先輩方とは遊んだりしたいです」
「なでちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ。今日は楽しかったから、明日からの合宿を頑張れそう」
「ケガには気をつけてね。僕も明日と明後日、6日のバイトを頑張れそうだ」
「……あ、愛華も桔梗も頑張りなさいよ」
「ありがとう、ひまちゃん」
「ありがとう、向日葵。またサカエカフェに来てくれ。いつでも歓迎するよ」
「……考えておく」
僕の目を見つめながら向日葵はそう言った。もしかしたら、ゴールデンウィークのバイト中に向日葵と会うかもしれないな。
「そういえば、クレーンゲーム以外にも、ひまちゃんは興奮して話していたことがあったね」
「えっ? あった?」
「ほら、加瀬君の家で飼っている三毛猫ちゃん。名前は……何だったっけ?」
「かぐやちゃんのことね」
おぉ、かぐやの話題になったからか、向日葵はすっかりといつも通りの元気そうな表情に戻ったな。
「そうそう、かぐやちゃん。ひまちゃんに写真を見せてもらったけど、凄く可愛い猫だよね」
「小さい頃から可愛い猫ですよ。ね、兄さん」
「ああ、とっても可愛い猫だよ」
「もしお時間があれば、これからかぐやに会いに家に来ますか?」
「いいの? じゃあ、お言葉に甘えて。ひまちゃんと同じくらいに猫好きだから」
「あたしも行く! かぐやちゃんにまたモフモフしたいし」
「ふふっ、分かりました」
それから、武蔵栄駅に着くまでは、撫子のスマホにあるかぐやの写真を見ながら、かぐやの話題で盛り上がった。
武蔵栄駅に戻り、向日葵と福山さんがかぐやと戯れるために僕らは真っ直ぐに帰宅。
向日葵が来たときと同様に、母さんは福山さんを「桔梗の彼女?」と勘違い。そんな母さんに福山さんは動揺せず、穏やかに笑いながら「違うんですよ~」と言った。
撫子の部屋の扉が少し開いていたので、かぐやは撫子の部屋にあるクッションの上でのんびりと眠っていた。僕らが帰ってくるとかぐやは目を覚ます。
かぐやと出会った福山さんは普段と同じく落ち着いており、優しい声で「かわいいね~」と言う。それが良かったのか、かぐやは出会ったばかりの福山さんの膝の上に乗ってゴロゴロする。
「本当に可愛くていい猫だね~」
満面の笑みで福山さんはそう言い、かぐやの頭や背中を撫でる。どうやら、福山さんもかぐやを気に入ってくれたようだ。
それからも福山さん中心にかぐやと戯れる。みんな猫好きなのもあって、撫子の部屋は温かな雰囲気に包まれるのであった。
「……ゴクッ」
夕食後。
僕は市販の頭痛薬を服用した。向日葵と福山さんが帰ってから段々と目の奥が痛くなり始め、夕ご飯を食べる頃にはその痛みが頭へと広がってきたのだ。ただ、それ以前も、映画を見終わった頃から、たまに目に違和感を抱いていた。
「兄さん、大丈夫?」
「とりあえず市販の頭痛薬は飲んだ。きっと、映画を観たから目が疲れたんだろうな。今日は映画に集中して観ている時間も多かったし」
「そうだったんだ。兄さんが小学生くらいまでの間は、映画を見終わった後に高熱を出すこともあったよね」
「ああ。そのときは頭も痛いことが多かったな。中学生になってからはそんなこともなくなって、たまに目が疲れるくらいだったんだけど」
今回は頭痛だけならいいんだけど。ただ、この頭痛が続いたり、熱が出てしまったりしないかどうか不安だ。小さい頃は2、3日くらい体調が悪い状態が続いたときもあったし。
「明日はお昼前からバイトがあるし、今日は早めに寝るよ」
「それがいいよ、兄さん。今日は先にお風呂に入って」
「ありがとう、撫子」
それからお風呂をサッと済ませて、僕は普段よりもだいぶ早く寝ることに。明日の朝には体調が良くなっているようにと願いながら。
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