向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~
桜庭かなめ
本編
プロローグ『かかわり』
『向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~』
本編
「ちっ……」
いったい、これで何回目だろう。
クラスメイトの女子生徒・
宝来さんは鋭い目つきで僕をチラッと見て、そのまますれ違った。
「加瀬が戻ってきた」
「加瀬君、お昼ご飯食べよう!」
「うん」
僕・
今日もクラスメイトで親友の
「宝来にまた舌打ちされたな」
「されてたね」
「……もう慣れたよ」
さっきのように教室や廊下ですれ違うと、宝来さんに高確率で舌打ちされたり、睨まれたりする。
「2年生になって1ヶ月近く経つけど、舌打ちされたり、睨まれたりしたことのない日の方が珍しいよ」
「今みたいに、友達と一緒なら笑っているのにね」
津川さんにそう言うので、宝来さんの方をチラッと見てみる。
宝来さんは黒髪おさげの友人の女子生徒と一緒にお弁当を食べている。宝来さんの美しい顔には可愛らしい笑みが浮かんでいて。時折、赤いシュシュでワンサイドにまとめている金色の髪が小刻みに揺れる。あの笑顔を見ると、男子生徒中心に人気が高くて、これまでたくさん告白されているのも納得できるかな。学校一の美少女と言う生徒もいる。
そういえば、黒髪おさげの友人……
「福山含め友達の女子と一緒にいるとき以外は、笑顔を見せることは少ないけどな。でも、定期的に敵意を向けるのって加瀬くらいだよな。何か心当たりはあるのか?」
「全く身に覚えがない。去年の2学期あたりから睨まれるようになったけど」
「そうか……」
「去年は宝来さんとは別のクラスだったもんね」
「ああ」
別々のクラスだったのもあり、1年生の間に宝来さんと関わったことは一度もない。
僕は普通に高校生活を送っているつもりだ。でも、僕の気づかないところで、宝来さんはにとって癇に障ることがあったのだろう。
「まあ、不機嫌な人に自分から関わるつもりはないよ。……それにしても、岡嶋と津川さんは僕と一緒でも楽しくご飯を食べてくれるよね」
「加瀬は高校でできた俺の初めての親友だからな!」
「恋人の親友だからね!」
岡嶋は爽やかな笑みで、津川さんは可愛らしい笑みを浮かべそう言ってくれる。
恋人の親友と言ったのが嬉しかったのか、岡嶋は津川さんの頭を撫でる。そのお返しと言わんばかりに津川さんも岡嶋の頭を撫でていて。そのせいで、岡嶋の茶髪も、津川さんのショートの黒髪も乱れてしまった。それでも、2人は楽しく笑っている。ほんと、仲のいいイケメン&かわいいカップルだと思うよ。目の前で見ていて癒される。
「そう言ってくれると嬉しいよ。もうすぐ5月だけど、2人とも今年度もよろしく」
「おう! よろしくな!」
「よろしくね!」
岡嶋と津川さんは元気にそう言ってくれた。俺を睨んだり、舌打ちしたりする女子もクラスメイトだけど、この2人もクラスメイトだ。きっと、2年生も楽しい時間になるだろう。
あと、自分から関わるつもりはないと言ったけど、実は宝来さんについてちょっとだけ興味がある。実はこの2年1組で、僕以外に花の名前を持つのは宝来さんだけだから。
放課後。
僕はサカエカフェという喫茶店へバイトしに行く。去年、都立武蔵栄高校に入学した直後から、このお店で接客のバイトをしている。
サカエカフェはこの
今日もバイトを始めた直後から、何人ものお客様に接客していく。平日の夕方なので学生のお客様が多い。
最初の頃は仕事中のミスも多かった。それでも、1年経った今は、接客に関する仕事は自分一人で一通りできるようになった。お客様がたくさん来るときでも、落ち着いて仕事に臨めている。
「お客さんの数が落ち着いてきたね。加瀬君」
「そうですね、副店長」
時計を見てみると、もう午後5時近くか。接客をし続けていたからか、あっという間に1時間近く経っている。
「休憩してきていいよ」
「分かりました。その前に、お店の前の掃除もしてきますね」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
副店長は凜々しい顔に爽やかな笑みを浮かべた。副店長は女性だけど、彼女の笑顔はかっこよくて素敵だなぁと思う。
僕はバックヤードに入る。ほうきとちりとりを持って、従業員用の出入口からお店の外に出る。
「放してよ!」
外に出た瞬間、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
声の聞こえた方へ向くと、すぐ近くで宝来さんが大学生くらいの男性2人に絡まれていた。パッと見た感じ……ナンパだろうか。彼女はお店の壁に追い詰められており、金髪の男性に左腕を掴まれていた。そんな彼女は、普段僕に見せるときよりも遥かに強い嫌悪感を顔に出していた。
「変なことはしないからさ、俺達と一緒に遊ぼうよ」
「本当に変なことをしないなら、あたしの手をそんなに強く握らないでしょ!」
宝来さんのその言葉に同意。心の中で頷く。
男達は宝来さんの……体目当ての可能性はありそうだ。ブレザーの制服を着ていても分かるくらいにスタイルがいいし。
「あなた達に割く時間なんてないの!」
「予定あるのか? 嘘だろ! お前、ブラブラ歩いていたじゃねえかよ!」
金髪男のそんな恫喝と形相で、宝来さんは体をビクつかせる。それを境に、彼女の表情が怯えたものへと変わっていく。
宝来さんが何か武術に長けているとは聞いたことがない。金髪男の後ろには黒髪男もいるし。このままだと、彼女の望まない結果になるだろう。僕が何とかしなければ。
この光景をスマホで撮影し、僕は「こほん」と嘘の咳払いをした。
「……あの。ここはナンパをする場所ではありません」
「あぁ?」
「何だお前!」
「……か、加瀬君……」
2人の男は僕を睨み、宝来さんは見開いた目で僕を見てくる。僕の名前を口にしたのもこれが初めてだと思う。
「僕はこの店でバイトしている者です。あと、そちらの女性のクラスメイトでもあります。彼女が怖がっているじゃないですか。さっきは『放して』と言っていましたし。彼女の手を放したらどうですか?」
「うるせえ! 部外者はすっこんでろ!」
金髪男はさっきよりも大きな声で、僕に恫喝してくる。手を放すどころか、さらに強く握っている。それによる痛みなのか、宝来さんの表情が歪む。
「先輩。こいつを黙らせましょうよ」
「ああ、面倒なことになりそうだ。この女のクラスメイトってことは、こいつも高校生。大学生の怖さを味わわせてやれ!」
「了解! てめえ、覚悟しろ!」
そう言って、黒髪男が僕に殴りかかってくる。
僕は左手で黒髪男の右手を掴む。そして、右手に持っているほうきの柄を、男の鳩尾あたりに突いた。
「うっ……」
黒髪男はそんなうめき声を上げると、僕に突かれた部分を両手で押さえ、その場でしゃがみこんだ。
「次はあなたです」
僕は宝来さんの腕を掴んでいる金髪男の右手付近を、ほうきの柄で思い切り叩いた。
「痛えっ!」
金髪男はそんな声を出すと、宝来さんの腕を放した。
宝来さんが金髪男から解放された瞬間、僕は彼女を抱き寄せる。そのとき、「きゃっ」という彼女の可愛らしい声が聞こえた。甘い匂いもほんのりと感じて。
「お前……よくも邪魔してくれたな……!」
金髪男は僕のことを睨み、怒気のこもった声でそう言ってくる。さっきの宝来さんの様子からして、自分達の遊び相手になるまであと一歩だと思っていたのだろう。
「こんなことして、タダで済むとは思うなよ!」
「それはこちらのセリフです」
「えっ……」
僕はズボンのポケットからスマホを取り出す。先ほど撮影したナンパの風景写真を画面に表示させ、男達に見せる。
「宝来さんが壁に追い詰められ、金髪のあなたに腕を掴まれているところがはっきりと写っています。この写真と僕の証言があれば、警察の人は捜査してくれると思いますよ。あなた方の顔もはっきりと写っていますから、捕まるのは時間の問題でしょう」
「マ、マジかよ……」
「ど、どうしますか! 先輩!」
警察というワードを出したからか、男達の顔が青ざめている。この様子なら、こちらのペースに乗せられそうだ。
「二度と宝来さんに手を出さないと約束して、今すぐに立ち去ってくれれば……警察に話さないでおきましょう。これでどうでしょうか?」
「わ、分かった! 約束する!」
「……先輩がそう言うなら俺も」
「話が通じる方々で良かったですよ。でも、万が一……また彼女に何かしたら、そのときは容赦しませんよ」
「分かった! もうこの女には近づかない!」
「……もう行きましょう、先輩」
金髪男は黒髪男に肩を貸して、この場を立ち去っていった。強い言葉で言ったし、写真も残っているから、彼らが宝来さんと再び接触してくることはないだろう。
宝来さんのことを見ると、彼女は顔を真っ赤にして俯いていた。
「宝来さん。もう大丈夫だよ」
「……ほえっ」
僕と目が合うと、宝来さんはそんな可愛らしい声を漏らし、僕の側から離れた。
「えっと、その……」
もじもじしながらそう言い、宝来さんは僕のことをチラチラと見る。僕にもこんな姿を見せることがあるんだな。普段、僕には不機嫌な態度を取るので、今の彼女がとても可愛いと思える。
何か言いたそうな様子なので、僕は黙って宝来さんのことを見る。しかし、
「ほ、宝来さん!」
宝来さんは何も言わずに走り去ってしまった。何かお礼の一言くらい言うのかと思っていたけど。僕にはそんな言葉も言いたくないのかな。単に照れくさいだけの可能性もあるけど。
「……まったく」
お礼を言ってほしい気持ちはあるけど……とりあえず、宝来さんがあの男達から解放されて良かったと思うことにしよう。
その後、僕はサカエカフェの前の道路を掃除していく。
宝来さんがこっそりと見ているかと思って、何度か周りを見る。しかし、彼女の姿を見ることはなかったのであった。
□後書き□
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