026. 僕のモヤモヤの原因が…
暫くの間は教室にいても廊下を歩いていてもヒソヒソ話されている気がする。
人の噂も七十五日っていうから僕の腕の怪我が治る頃には僕の噂も消えているだろうと思う。
そんな雰囲気で学校生活を送った。
時間に余裕がないのか瑠維さんが僕に話す決心がつかないのか話すこともなく一日一日が過ぎていった。
もうこれ以上は僕もイライラしてしまいそうだ。
僕の方から思い切って瑠維さんに聞くことにした。ちょうどテストが終わって早く帰ってくることができたからだ。
瑠維さんは
僕の方は怪我はまだ完治していないけれど体調も悪くない。
そう思って瑠維さんに話しかけた。
「瑠維さん…そろそろ本当のことを話してくれてもいいんじゃないですか?僕も体調も悪くないですからちゃんと話聞きたいです」
背の高い瑠維さんを睨むように見ていたが上目遣いにしているようにしか見えていなかったみたいで瑠維さんにクスリと笑われた。
「少し待って」
瑠維さんはフッと息を
瑠維さんの部屋で何かノートみたいなものと紙をたたんで入れた封筒を持ってきた。一度それらをテーブルの上に置いてキッチンで紅茶を淹れて戻ってきた。
「話は少し長くなる…大丈夫かな?」
瑠維さんに聞かれた僕は静かに頷いた。
「どこから話せばいいのか…俺と美桜が幼馴染みだと言ったのは覚えているよね?」
僕は頷いた。
「俺の双子の姉の
瑠維さんと母さん以外にも紫凰のお父さんも幼馴染みだったことに僕はビックリした。
瑠維さんの話声が心地よく耳に入る。
「高校三年生の時、美桜が大学受験じゃなくて就職を決めたんだ。それも『私、一人娘だけどお父様の会社を継げる程の頭はないから就職することにするね』って。それからは俺は大学に通うのを機にアパートで一人暮らしを始めたら、美桜も俺と同じアパートに引っ越してきた。お互いにご飯作って一緒に食べたりした。そうしているうちに俺の方も大学の卒業と弁護士の試験とで忙しくなって美桜ともすれ違うようになっていった。その隙をつかれて美桜は会社で禿河聖夜にまとわりつかれるようになった。今でいうところのストーカーかな。禿河聖夜もその頃には同じ会社の姫野清心と付き合っていたんだけどその隠れみので上司に紹介されたことをきっかけにつきまとっていたんだ。でもそれはそのことを知らずに早く美桜と結婚することだけに頑張ったんだ。それで大学卒業した俺は美桜にプロポーズした。その時に美桜から禿河聖夜のことを聞かされた。その話で聖夜の異常な行動を不審に思って俺たちは誰にも知らせず二人だけで役所に婚姻届を提出した。その後は俺の方も就職が決まりそれが美桜の父親の会社の顧問弁護士だった。だから俺も会社に入って禿河聖夜と姫野清心のことを知って聖夜の考えていることも知ったんだ。聖夜がしつこく美桜につきまとっていたのはどうやら瀧野瀬グループを手にするためだった。美桜も精神的に疲れてしまっていたから俺が提案したんだ。禿河聖夜に美桜との婚姻届を書かせ残りの手続きは全てこっちでやると預かった。まぁ美桜は俺と結婚してたし提出されたら美桜が重婚の罪になっちゃうからね。なんとか誤魔化しながら夫婦のふりをしてもらった。ある時姫野清心が妊娠したんだ。会社の人間には妊娠したことを言えないから姫野は病気療養を理由に休職願を出してきた。その後すぐに美桜も妊娠した。美桜は禿河の家で生活していたけれど聖夜には勘違いさせていたから。亜月の父親は禿河聖夜じゃない」
少し色褪せた一枚の紙をテーブルに広げて置いた。
【結果:「疑父」は「子ども」の生物学的父親と判定できる】
目立つ位置に一文が書かれた書類だった。
「誰」と「誰」の話だろう?と思った。
瑠維さんが僕を目の前にして話しているのだからこれは瑠維さんと僕の話だろうということは理解した。
書類を手に取り僕は確認した。
「疑父:瀧野瀬瑠維」「子ども:瀧野瀬亜月」とあった。
「それじゃぁ…僕は…」
瑠維さんは頷きながら僕の目の前にノートを一冊置いた。
“母子手帳”と書かれたものだった。
“母子手帳”の表紙には子の名前『瀧野瀬亜月』と書かれてあった。
僕の名前の横には母の名前『瀧野瀬美桜』と父の名前『瀧野瀬瑠維』とあった。
「何故『佐伯』じゃないの?」
「『佐伯』でも構わないと美桜に言われたけどね、美桜の父…瀧野瀬のお祖父様に結婚の申し込みに行った時に俺の方から美桜は一人娘だし、俺には兄貴いるからって言ってね。…それで瀧野瀬になったけど仕事では俺と美桜が結婚したことに気づかれないように『佐伯』を名乗っていたんだ。これは瀧野瀬社長も承諾しているしこれまでの聖夜の行動も全て報告してある」
母子手帳の中身をパラパラと見た。
母さんが亡くなるまではびっしりと書き込まれていた。
「今まで禿河聖夜は亜月のことを自分の息子だと信じていたよ。だから聖夜とは話し合いで亜月の親権を放棄するように言ったけれどダメだった。強く言って亜月に何かあるのも困るけど亜月の本当の出自を知られて聖夜の横領の証拠を隠滅されてしまったら今までの美桜の苦労が水の泡になるかもと思った。長い間亜月には辛い思いをさせてすまなかった」
僕は瑠維さんの謝罪の言葉に首を横に振った。
「高校の入学式に姉貴の姿がなかったから高等部の教師じゃないと思っていたからまさか亜月のクラスの担任になったとは…。入学式の日に顔を見なければ学校も私立だし姉貴とは顔を会わせないと思ってた。…だから先日、学校に行ったら姉貴が目の前に来て驚いた。んで、あんな言い争いになっちゃったわけだけど亜月を巻き込んで悪かった」
瑠維さんがやたらと僕に干渉してきたいたのは僕の本当の父親だだったからというのがわかった。
わかったけれど何だか照れてしまう。
これからどう接していけばいいのか僕には解らない。
一つのことが納得できたけれどまた新しいモヤモヤが…。
「…あのね亜月君、その…姉貴が言ってたように俺の家族…佐伯のおじいちゃん、おばあちゃんに会って欲しい。いいかな?」
「うん、わかった」
僕の返事を聞いた瑠維さんはどこかに電話かけた。
次の土曜日に瑠維さんの家族が勢ぞろいできるということでその日は佐伯の家に泊まることになった。
それまで瑠維さんは佐伯の家族には何も話していなかったみたいでこれまでの経緯と僕を瑠維さんの息子として紹介するらしい。
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