011. 紫凰と僕
僕と
紫凰は母さんの葬儀が終わってすぐに瀧野瀬のお
「亜月、この子は『
お
「僕は紫凰。一緒に遊ぼ」
お
僕は差し出された紫凰の掌の上に僕の手を重ねていた。
今まで独りぼっちで病室のベッドに横になっていただけで退屈をしていた僕にとって嬉しいことだった。
父さんは事故に遭ったという連絡を受けていたが最初から病院に来ることは拒否したという。
警察も仕方なく事故が起きた自動車に残っていた母さんの荷物の中にあった母さんの携帯電話から『瀧野瀬壱星』の名前を見つけ、連絡した。
病院までは自動車で三時間くらいかかるこの場所まで駆けつけた。
そんなやり取りを知らされたのは僕が中学生になってからだった。
僕にはその頃の記憶は殆ど途切れ途切れで覚えていないことが多い。まぁそもそも三歳児の記憶なんてあてにならないと思う。
その後暫くの間はベッドから出ることもできずにいたのでつまらなくて泣きそうだった。
検査や診察をしている間は一人になってしまい、やっと終了してお祖父様とお祖母様に会えた時には顔を見た途端に泣いて泣いて疲れて寝てしまった。
母さんの葬儀も拒否した父さんとその家族は一度も病院へは来なかった。
その代わりお祖父様とお祖母様が来てくれて二人が来られない時には瀧野瀬家の執事の小田切さんや弁護士の佐伯瑠維さんが僕が寂しくならないように紫凰を連れてやって来てくれた。
おかげで
退院してから以降はなかなか紫凰と会うことはできなかったけれどいろいろな工夫を凝らし、連絡を取っていた。
高校進学の話になって僕は
この頃にはお祖父様から携帯電話を持たされていたので連絡をするのはたやすかった。そのおかげで紫凰が僕と同じ高校に進学してくれた。紫凰は頭もよかったので高校はどこになっても平気だったようだ。
それだけでも僕は嬉しかった。
紫凰とは一年はクラスが違ったけれど一緒に居られる時間があるだけで中学までの僕の生活とは比べものにならない程だった。
紫凰は僕の足の傷痕のことをよく知っている。
僕が焦ってしまうと足が
「あ、ありがとう…」
僕は照れて小さな声で紫凰にお礼を言う。
それに対して紫凰はニッコリ微笑んでいる。
「そんなセリフ…彼女に言いなよ」
「彼女なんて要らない…。亜月に彼女ができたら俺も考える」
僕は小さく溜息を
二年生になって紫凰とクラスが一緒になりいつも一緒に居るとある噂の的になるようになった。それはたぶん僕が男なのに身長が低く女の子みたいに見えるのに対して紫凰はスポーツ万能で勉強もできる。更に顔もいい。女子生徒がほっとくわけがない。
実際、僕も何度か女子生徒たちに告白されている紫凰を見た。
そのたびに彼は断っていた。何故だろう…?
一度だけ紫凰に女子生徒が告白する現場を最短距離で聞いてしまったときはビックリした。
「悪いけど今は亜月と一緒に居たいから、無理」
一年生の時、自分に自信があるからなのか僕と二人で歩いているときに急に前に立ちはだかりチョコレートを包んだ箱を手にしてやって来た彼女はそれさえも受け取ってもらえず撃沈していた。
それなりに人も歩いていた廊下での告白だった。
見ている僕の方が恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。
告白したその女の子はその場で泣き出してしまったけれど紫凰は知らん顔だった。
「亜月…行こう」
紫凰は僕を連れてその場所から離れた。
「はぁ…面倒くせぇ…」
紫凰の整った顔から大きな溜息が洩れた。
「紫凰…好きな子いたら僕と一緒に居ないで付き合いなよね。僕なんかと居るよりその方が…」
「俺は亜月と一緒に居たいんだ。それに…一度告白してきた奴と付き合ったことあるけど、すぐに本性現してそいつは亜月に嫉妬してきた。もうそんな奴面倒くさすぎる」
紫凰の綺麗な顔はものすごく歪んで嫌だという気持ちをはっきり顔にしていた。
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