告白

おーろら

僕が誰かを嫌いな理由(わけ)

001. 僕は家族が大嫌い

 僕は家族のことが嫌いだ。

 だって僕の本当の家族じゃないから。




 現在、僕が一緒に暮らす家族は父・禿河とくがわ聖夜せいやと母・禿河とくがわ清心きよこと姉・禿河とくがわ麗夏れいかの三人だ。でも、母・清心は僕の実の母親ではない。

 父さんのだ。

 清心は僕とは血が繋がっていない。

 父さんと僕の母さんが結婚していたからと、僕が母さんに顔がそっくりだからという理由だけで僕に意地悪をする。




 父さんが仕事で遅くなる日や出張で帰らない時は必ず“ご飯抜き”になる。それどころか祖父母から貰ったお年玉さえ清心きよこに取り上げられてしまうのだ。

 麗夏のことは甘やかして好きなことだけさせているのに…。

 何が“清い心”だ。何も清い心なんて持っていない。


 その清心の娘が麗夏れいかだ。麗夏は父さんと清心の間にできた子どもでである。

 僕の母さんと結婚する前から清心とは付き合っていたのか……。


 うん、計算が合わない。


 でも、そんなことはどうでもいい。


 麗夏も清心と一緒で僕を馬鹿にするがどちらかというと麗夏のほうが勉強はしないし成績が悪いと思う。

 家に居ると罵る言葉だけはいろいろ出てくる。

 僕がリビングに居るとうるさい程に。


 更に父さんも父さんだ。

 たまに家に居ても父さんは何も喋らない。清心と麗夏の一方的なお喋りだ。それでも二人が甘えて猫撫で声を出せば父さんはデレている。それを見ると気持ち悪いと思う。

 そんな父さんを見ても面白くない。結局僕は食事もそこそこにリビングから自分の部屋に戻る。

 僕がリビングの扉を閉めた瞬間から父さんと清心と麗夏の笑い声と楽しそうな会話が聞こえてくる。

 父さんにとっても僕はどうでもいい人間だったらしい。

 閉めたリビングの扉を背に僕は小さく溜息をいた。






 僕の本当の母親・禿河とくがわ美桜みおは僕が三歳の誕生日を迎える前に交通事故で亡くなった。二十三歳の若さだった。

 僕も事故の時に母さんと一緒の自動車に乗っていたが、その事故で僕だけが生き残った。母さんは即死だったという。


 僕は母さんんと過ごした日々は楽しかったはずなのに、母さんのことは殆ど記憶がない。特に交通事故に遭う少し前から病院に入院していたころのことは記憶がない。


 事故で怪我した僕が入院している間に母さんの葬儀が行われた。

 父さんではなく、母さんの父親・瀧野瀬たきのせ壱成いっせいが喪主になり行われた。

 父さんは喪主を拒否し、仕事だとウソを言いながら清心と麗夏の相手をしていたからだ。

 そんな父さんの行動を知ったお祖父じい様は怒りを噛みしめながら母さんの葬儀を行った。


 父さんは結局、母さんの葬儀にさえ参列することもなく入院中の僕を見舞いに一度も来ることもなかった。

 あまりにも父さんのクズっぷりにお祖父じい様は切れた。


「亜月は私たちにとって大事な孫だ。瀧野瀬家で引き取って育てる!」

 父さんにそう言って詰め寄ったが、その当時は目立って悪いところはなかったから親権の変更はしてもらえなかったとか。

 ある程度の年齢に到達していれば、僕の意見も聞いてもらえたかもしれないが、当時三歳だったから仕方がない。

 僕もお祖父じい様とお祖母ばあ様の側で一緒に暮らしたかった…。


 理不尽だ。


 その後も僕は父親の家族と供に暮らしていたが、清心と麗夏からは酷い扱いを受けた。さすがに中学生の時、父さんが一週間の出張で居なかったときはきつかった。

 もともと日々の食事の量も満足に食べさせてもらえなかった僕は中学生男子の体格からは外れてかなり小さかった。

 同じ年齢で同学年のはずの麗夏と比べても僕の方が身長は低かった。

 中学生になって運動量は増しているのに食事はきちんと食べられなかった所為せいで、僕は授業中にぶっ倒れた。

 保健の先生が病院で診察を受けるための手配をしてくれて、病院まで連れて行ってくれた。そのおかげで清心に邪魔されずに診察を受けることができた。

 診断の結果は“栄養失調”。

 学校の先生は結果を聞いて驚いていた。

 学校では僕と麗夏が姉弟で同じ年齢なのに麗夏と僕の体格差を見て家庭内で“虐待”されているのでは?と思ったようで担任の先生から何度も清心に連絡していた。

 けれど清心は僕のことになると担任となかなか話をしなかった。

 やっとのことで面談をすると先生たちは清心きよこを責めた。

 その時、清心は涙を流して謝罪していたという。

 なんとなく悔しい気持ちが僕に残った。


 その後は一週間以上父さんが仕事で家を空けることは少なくなったが出張の時の夕食は時々しか食べさせてもらえなかった。

 先生たちは相変わらず青白い顔をしている僕を心配してくれているが、清心きよこは先生たちの忠告を無視し続けた。

 先生たちもそれ以上は何も言えなかったみたいだ。






 中学三年生になり、高校について考えた。

 僕はできるだけ麗夏と離れた高校に進学したかった。

 瀧野瀬家のお祖父じい様とお祖母ばあ様が住んでいる県の高校に行きたいことを話したら関係ない麗夏が反対してきた。

 麗夏が父さんに我儘を言って僕の進路は却下された。

 そして僕の知らないところで清心が勝手に志望校を変更して願書が提出されていた。


 何故僕がここまで彼女たちに“虐待”を受けるのか?


 それは単に僕が僕の母親・禿河とくがわ美桜みおに顔がそっくりだからだ。清心は母親・美桜にそっくりな僕が父さんの側に居ることだけで不快な気分になるらしい。

 麗夏は単なる清心と同じことさえしていれば気分がいいから…。

 最悪な家族だ。

 だから僕は家族が大嫌いだ。

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